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8月25日 古い固定標本からsingle cell ゲノム解析が可能(8月15日 Cell オンライン掲載論文)

2023年8月25日
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この10年間でバーコード技術や、マイクロフルイディックス技術が大きく進歩した結果、Single cell レベルの遺伝子発現、ゲノム、さらにはエピゲノム解析などは特に珍しくなくなった。しかし、これらの技術は採取したフレッシュな組織か、あるいは急速凍結した組織からの細胞や核に限られていた。逆に言うと、大学や研究機関でこれまで集められ、保存されてきた膨大な数の固定標本は、この様な解析に使えないことを意味している。

今日紹介するテキサス・MDアンダーソンがん研究所からの論文は、少なくとも30年近く経った、フォルマリン固定後パラフィン包埋された組織から単一核を取り出し、ゲノム解析を可能にし、術後長い経過を経て再発した乳ガンの進化を追いかけた研究で、8月15日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Archival single-cell genomics reveals persistent subclones during DCIS progression(長く保存された標本の single cell ゲノミックスは限局した乳ガンの進展で見られる持続的サブクローンの存在を明らかにする)」だ。

この研究のハイライトはなんといっても、フォルマリン固定パラフィン包埋標本から核を分離し、一定のクオリティーに達した核に含まれるゲノム配列を解析する方法を確立したことだ。プロトコルについて紹介すると、パラフィン包埋ブロックを脱パラフィン処理した後、核を分離、DNA染色後セルソーターで品質をチェック、ほぼ完全な核のみ一個づつ50nlのマイクロウェルに入れる。このマイクロウェルの中で、まず核を溶解して得られたDNAにTn5トランスポゾンによるタグ付けを行い、同時に各ウェルに異なるバーコードを付加した後、PCR増幅を行った後、すべてのウェルのDNAをプールして配列決定を行なっている。

基本的にはバーコードを利用した他の single cell テクノロジーと変わるところはないが、フォルマリン処理された核から本当に十分なゲノム情報が得られるかがこの研究の最大のポイントになる。フレッシュな細胞と、固定した細胞を同じ方法で処理して比較するなど、様々な検証を行い、最終的に30年前に作成された固定包埋組織でも十分 single cell ゲノム解析が可能であることを確認している。

この Arc-Well と名付けられた方法の開発が研究のハイライトだが、Arc-Well の能力を示すのに最も相応しい対象として、ガンが管腔にとどまり浸潤がないと診断し、完全に切除されたDuctal carcinoma in situ (DCIS)が再発した乳ガンについて、原発組織と再発組織の single cell genomics を行なって、ガンの進化を調べている。

結果は最近の乳ガンゲノム研究が示してきた結果と合致しており、まずどんなに限局性で浸潤がなくても、ガン細胞は多様化しており、様々な遺伝子増幅が発生している。また、再発ガンと比べると、様々な進化の様式、例えば特定の経路を通ったクローンだけが再発巣を形成するボトルネックタイプや、手術により散布したと考えられる、数種類のクローンが同時に再発するケース、あるいは原発巣とは無関係のクローンから再発巣が形成されるケースが確認されている。要するに、乳ガンは外科より前にネオアジュバント、アジュバント治療が必要であることを改めて確認させてくれる。もちろん現在の医学でも、この事実に沿った治療が行われている。

他にも様々なクローン解析が行われているが、ときには20年経った後急に再発する様なケースを乳ガン以外にも経験することを考えると、パラフィン包埋標本を蔵から引っ張り出して調べられることは大きな進歩だと言える。

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