2月6日 CRISPR-Cas III から始まる細胞死(2月2日 Science 掲載論文)
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2月6日 CRISPR-Cas III から始まる細胞死(2月2日 Science 掲載論文)

2024年2月6日
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CRISPR/Cas システムは一般的に遺伝子編集機構と考えられているが、基本は外来遺伝子をクリスパーアレーに記憶して、同じ遺伝子が感染したときにキャッチして除去するシステムと考えればいい。従って、外来遺伝子を除去するためのエフェクターであるCasシステムは現在もなお多様化している。

このなかの Type III と分類されるシステムは、非特異的に RNA など一本鎖核酸をズタズタにする Cas7 や Cas10 分解酵素を持っている。すなわち、外来遺伝子に限らず核酸を分解するため、核酸を分解すること以外の目的が存在すると考えられてきた。特に、Cas10のPalmドメインには環状核酸を合成する活性があることから、これをシグナル分子として使っている可能性が追求され、いくつかの面白い経路が特定されている。

今日紹介するオランダ、ワゲニンゲン大学からの論文は、Haliangium ochraceum 粘液細菌類の CRISPR/Cas10 に続いてコードされている SAVED-CHAT遺伝子以下、5種類の遺伝子の機能を調べ、この系が、我々の細胞が Caspase3 によりアポトーシスを誘導するのと同じような、細菌のアポトーシス誘導システムであることを明らかにした研究で、2月2日号 Science に掲載された。タイトルは「Type III-B CRISPR-Cas cascade of proteolytic cleavages(IIIB型クリスパー/Casは蛋白分解カスケードのスイッチを入れる)」だ。

この研究では Haliangium ochraceum の type III B クリスパーシステムが SAVED-CHAT や PC-σ、そして細胞死誘導に関わると思われるPCカスパーゼを含んでいることに注目し、これら遺伝子の機能を詳しく調べている。この領域にはもう一つキナーゼ活性を持つと考えられる PCk も存在するが、これについてはほとんどタッチしていない。

まず、SAVED-CHAT が Cas10 により合成された環状ATP(cA) をシグナルとして、蛋白分解連鎖の始まりとなることを調べている。すると期待通り、cAで活性化された SAVED-CHAT は、同じオペロン内の PCaspase を見事に切断する。

さらに、SAVED―CHAT により切断され活性化された PCaspase は、同じオペロン内の PC-σ と PCi を分解することもわかったが、これは特異的な反応ではなく、PCaspase が非特異的に様々な蛋白質のアルギニン部分を切断することがわかった。すなわち、SAVE-CHAT/PCaspase システムは Cas10 が合成する cA で活性化されると、細胞内の様々な蛋白質を分解することがわかった。とすると、最も考えられるのは、外来遺伝子の伝搬を防ぐため、細胞死が誘導されることだ。

これを確かめるため、CRISPR/Cas10 とともに、SAVED-CHAT/PCaspase を別々に大腸菌に導入し、外来遺伝子を感染させスィッチを入れると、外来遺伝子が感染した細胞だけが細胞死に陥ることを確認し、このシステムが細胞自体を守るのではなく、逆に細胞死を誘導して集団を守る働きがあることを示している。

他にも、構造学的に SAVED-CHAT が cA で活性化するメカニズムや、同じく PCrisper で分解された Ciがこの反応を抑制することなどを明らかにしているが、割愛する。要するに、クリスパーシステムは外来遺伝子の分解に加えて、細胞死を誘導するシグナルを入れることで、感染の伝搬を防いでいる系を作り上げおり、我々の自然免疫と細胞死の一体化されたメカニズムのルーツがここにあることがわかる。

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