2型糖尿病の遺伝子リスクの集大成(2月19日 Nature オンライン掲載論文)
AASJホームページ > 2024年 > 2月 > 22日

2型糖尿病の遺伝子リスクの集大成(2月19日 Nature オンライン掲載論文)

2024年2月22日
SNSシェア

ノボノルディスクのセマグルタイドが2月22日から我が国でも販売されるという記事が日経に出ていた。とっくに認可されて使われていたのかと思っていたので驚いたが、GLP-1 作動薬と腎臓でのブドウ糖再吸収を阻害する SGLT2 阻害剤は糖尿病治療を変革している。面白いのは、糖尿病治療として開発されたこれらの薬が、糖代謝を越えて様々な効果を発揮していることで、我々の身体の代謝システムのネットワークの複雑性を物語る。

今日紹介するミュンヘン大学を中心に200を超す研究機関が集まって発表した論文は、2型糖尿病(T2D)のゲノムリスクデータを世界中から集めて、新しく解析し直し、糖尿病発症に至る複雑な経路を明らかにしようとした研究で、2月19日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic drivers of heterogeneity in type 2 diabetes pathophysiology(2型糖尿病の病態生理の多様性の遺伝的要因)」だ。

T2D のゲノム解析はこれまで何度も発表され、我が国でもかなり早くから解析が進んでいた。この過程で、糖尿病タイプの人種差とゲノムの関係(例えば東アジア人はインシュリン合成に関わるゲノムリスクと相関する T2D が多い)ことなどが示されてきた。

この研究では、このような人種差の問題も視野に入れ、これまで集まったゲノムデータを同じ方法で解析するとともに、多型が特定された領域のクロマチン構造を様々な細胞で調べたデータを参照して、ゲノム多型と T2D との関係に細胞過程を反映させようとしている。

多くの結果はこれまで報告された結果と一致しており、また膨大なので、個人的に面白かった結果だけをまとめておく。

まず、T2D と相関する一塩基多型(SNV)は1300に及び、T2D が様々な回路が複雑に絡まった病気であることを示すが、これらの SNV を膵臓のβ細胞関連2種類、血糖、体脂肪、メタボリックシンドローム、肥満、脂肪代謝異常、肝臓脂肪代謝など、それぞれ特別な検査項目で分別できる8つのカテゴリーに分類できる。 

糖尿病は様々な理由で起こるインシュリン抵抗性ステージを経て、β細胞が疲弊してインシュリンを作れなくなるステージへと進むが、それぞれの段階で様々な経路が存在することがゲノムからわかる。

勿論、体脂肪と肥満は当然オーバーラップするのだが、8つのカテゴリーに分別した SNV のクロマチン状態を対応させると、同じブドウ糖代謝異常でも小腸の GLP-1 受容体発現が高いクロマフィン細胞で強く発現している遺伝子は、プロインシュリン産生と連関しない β細胞関連 SNV に見られることがわかる。すなわち、GLP-1 経路をより強く反映しているのがこの経路になる。

また脂肪細胞や肝臓細胞で説明できると考えがちな脂肪代謝と相関する SNV の中には、膵島細胞で発現が見られるものがある。これらは、インシュリンとは全く別に、膵臓と脂肪代謝をつなぐ経路があることを意味している。

さらに、代謝異常と相関する SNV には脳皮質の抑制性神経細胞で強く発現しているケースが認められ、神経代謝ネットワークの T2D への関与を示している

世界中からデータが集まっているので、当然 T2D 発症経路の人種による違いを調べることも出来る。これまで、東アジア人は膵臓 β細胞の異常に直接関わる SNV の関与が強く、逆にヨーロッパ人は脂肪代謝異常と関わる SNV との相関が強いとされていた。

この研究でも、同じ結果が認められたが、アジア人を BMI で、痩せの強い人、肥満の強い人に分けると、人種差として見えていた物が、実際には BMI の差であることを示している。

他にも、妊娠時糖尿病、多囊胞性卵巣症候群、糖尿病末期の血管や腎臓異常などとの関係も詳しく見ているが、割愛するが、ゲノムから眺めると、確かに糖尿病の成り立ちの複雑性がよくわかる。すなわち、糖尿病でも個人にあったプレシジョンメディシンが必要であることを示している。

カテゴリ:論文ウォッチ
2024年2月
« 1月 3月 »
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
26272829