2月17日 喫煙の免疫系への影響(2月17日  Nature オンライン掲載論文)
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2月17日 喫煙の免疫系への影響(2月17日  Nature オンライン掲載論文)

2024年2月17日
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2023年の我が国の喫煙率を見て驚いたのは、喫煙が当たり前だっ我々団塊の世代を含む高齢者の喫煙率が男性で10%を切っている点だ。喫煙者は既に死亡しているからと恐ろしい見方もあるかも知れないが、おそらく私のようにいつかの時点で喫煙をやめた人が多いのだろう。いずれにせよ、全世代で着実に低下していることは間違いない。

今日紹介するパストゥール研究所からの論文は、免疫機能についてのコホート研究の中から、喫煙と免疫機能の関係を調べた研究で、2月14日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Smoking changes adaptive immunity with persistent effects(喫煙は獲得免疫に持続的な変化をもたらす)」だ。

余談になるが、ドイツに留学していた時を皮切りにパストゥール研究所とは長い関係を続け、何度も訪れる機会があった。ただ、1990年頃までは研究室の一角で喫煙が許されていたのを覚えている。その後、喫煙所は建物外に移され、さらに敷地全部が禁煙になると、近くのカフェが研究所の喫煙場所になり、そのカフェも今や室内禁煙になっている。おそらく私がまだ生きているうちにパリ全域が禁煙になる気がする。

さて本題に戻るとしよう。この研究は各世代100人づつ全1000人を対象としたコホート研究で、血中の免疫系細胞やサイトカインだけを調べるのではなく、全血に試験管内で様々な刺激を与え、その反応をサイトカインの分泌で調べている。1000人の末梢血について刺激実験を行い136項目を調べるのは、計画は出来ても大変な実験だ。

このコホート研究は、それぞれのスコアについて、喫煙だけでなく、肥満やサイトメガロウイルス遷延感染、あるいは食生活など詳しく調べ、例えば肥満とT細胞刺激によるIL-2 産生との相関などを特定している。ただ、生活習慣の中で最も大きな相関が検出されたのが喫煙で、検査時の血縁者では、自然免疫刺激(様々なTLR刺激)による CXCL5 分泌、及び獲得免疫刺激による IL-2 / IL-13 分泌と大きく相関していることがわかった。基本的には両反応とも上昇しており、炎症が高まっていると言える。

面白いことに、自然免疫の方は禁煙によりすぐ影響が消える。しかし、獲得免疫の方は禁煙後も長期間影響が見られる。また喫煙年数と強く相関する。

このことは、一定期間の喫煙が獲得免疫の場合、B細胞やT細胞のエピジェネティックな変化を誘導していることになる。この可能性を検証する目的で、血液細胞のDNAメチル化を調べ、喫煙によってメチル化が一般的に低下すること、そして AHRR遺伝子を含む5種類の遺伝子上流の CpGアイランドが、禁煙後も脱メチル化されていることを発見する。

それぞれの領域のメチル化は獲得免疫と逆相関し(すなわち喫煙でメチル化が低下するとこれらの分子の発現が上昇する)、喫煙により発生したメチル化パターンは禁煙後も徐々にしか元に戻らないことを示している。

結果は以上で、なぜこれらのメチル化パターンが獲得免疫反応の上昇につながるかを完全に説明するには、これら5種類の遺伝子の免疫機能への影響をさらに調べる必要があるだろう。また、自然免疫、特に CXCL5分泌については、反応している大坊は特定できているが、メカニズムはわからない。コホート研究なので、喫煙はともかく遺憾という結論でよしとしよう。

医学部に入学したとき私も当たり前のように喫煙を始めたが、人生を振り返り、また何度も訪れた時代時代のパストゥール研究所を思い出すと、少なくとも我々世代にとってタバコは時代や文化を映す鏡だったことは間違いない。とはいえ、今全くタバコなしの生活が出来ているのも不思議な気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ
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