2月 28日 免疫監視の存在が喫煙者の肺ガンとMHCの関係からわかる(2月23日号 Science 掲載論文)
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2月 28日 免疫監視の存在が喫煙者の肺ガンとMHCの関係からわかる(2月23日号 Science 掲載論文)

2024年2月28日
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私が最初に免疫学に惹かれた最大の理由は、学生時代理学部動物学教室で故村松繁先生が主催されていたBurnetのCellular Immunologyの読書会に出席したからだと思う。

この本の中で、バーネットはガンが突然変異で起こること、そしてその突然変異は免疫系に監視され抑えられているという免疫監視の考えを述べていた。当時革新的だった考えを疑う人は今やいなくなったと思うが、実際の免疫監視が起こっていることを実感できるデータを得ることは簡単ではない。

今日紹介するニューヨークIchan医科大学からの論文は、免疫監視が働いていることを実感させてくれた面白い研究で、2月23日号 Science に掲載された。タイトルは「An immunogenetic basis for lung cancer risk(肺ガンの免疫遺伝学的リスク)」だ。

もし免疫監視が働いているとすると、当然抗原が多様なほど免疫システムにキャッチされやすいはずだ。そこで、この研究では肺ガンを例に抗原提示に必須分子であるMHC遺伝子を調べ、各MHC遺伝子がヘテロ(異なる対立遺伝子を持つ人)とホモの人を選び出し、ガンの発生率を比べている。MHCがヘテロの場合、当然ガン抗原の多様性は倍になるので、ヘテロの方がホモよりガンになりにくいと予想できる。

まず意外だったのは、キラー細胞が認識に使うクラス I MHC(HLA-I)、すなわち HLA-A、B、Cではヘテロもホモも全く差がないことだ。では免疫監視はないのか?とクラス II MHC(HLA-II)、すなわち HLA-D (6種類存在する)を調べると、全ての HLA-II でヘテロの人は肺ガンになりにくい。特に、HLA-DRB と HLA-DQB ではヘテロの人はオッズ比で3割も発ガン率が低下する。

さらに面白いのは、この差が喫煙者だけの差を反映している点だ。すなわち喫煙を続けていた患者さん、あるいは以前喫煙していた患者さんでは HLA-II のヘテロ効果が見られるが、喫煙歴の全くない人では HLA-II のヘテロ、ホモとも全く発ガン率に差がない。すなわち、タバコにより遺伝子突然変異が多発するほど、HLA-II のヘテロ vs ホモの効果がはっきりしている点で、まさに免疫監視が働いていることを実感する。

さらに詳しく、HLA-II 各領域の多型と発ガン率の相関を調べると、抗原ペプチドが結合する部位がヘテロであるほど、発ガン率が抑えられることを明らかにしている。

最後に、なぜタバコで HLA-II に偏った免疫監視効果が見られたのか調べるため、喫煙者の肺の細胞を調べ、肺胞マクロファージや肺上皮で HAL-II が喫煙者で上昇していることを示している。そして、ガン免疫を逃れた肺ガンの多くが HLA-I のみならず HLA-II を欠損させていることも明らかにしている。

以上が結果で、バーネットの時代に考えたほど免疫監視は単純ではないが、間違いなく監視システムが働いていることは実感できる面白い研究だ。

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