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8月1日 自己免疫病を解析するためのオルガノイド培養(7月24日 Nature オンライン掲載論文)

2024年8月1日
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亡くなった笹井さんや、慶応大学の佐藤さんなど、我が国はオルガノイド培養開発ではパイオニアだが、今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、自己免疫病という組織と免疫系が一体となって起こるオルガノイド培養では、これまで苦手だった分野にオルガノイド培養を拡大した面白い研究で、7月24日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A human autoimmune organoid model reveals IL-7 function in coeliac disease(人間の自己免疫オルガノイド培養はセリアック病でのIL-7の役割を明らかにした)」だ。

セリアック病は、グルテン摂取後、極めて複雑な過程を経て十二指腸上皮の崩壊が起こる自己免疫病で、よく研究されている。セリアック病は誰でもかかるわけではなく、いくつかの条件を満たした人だけで起こる。まず、グルテンが完全に消化できる場合は問題ないが、完全に消化できない人では分解された gliadinペプチドが十二指腸に到達する。ここでこのペプチドはグルタミナーゼでデアミネーションされ、これによって小腸に存在する樹状細胞のクラスII-MHCと強いアフィニティーが付与される。ただ、この glicadinペプチド提示でCD4T細胞が活性化されるのは一部の MHC-II を持つ人だけで、こうして刺激されたCD4T細胞が炎症を誘導するとともに、DC8T細胞も活性化され上皮への障害反応が起こる。

この場合、当然免疫系細胞は組織へと出入りするが、あとは全て十二指腸内で起こる反応で、組織オルガノイドを用いて病気を再現できる可能性がある。そのためには、上皮だけでなく、免疫系の全ての細胞や間質細胞を含もオルガノイド形成が必要になる。

この研究ではフィルター上のコラーゲンジェルで患者さんの十二指腸から採取したバイオプシーサンプルを固め、外に動かないようにした上で、下からは上皮の増殖因子の入ったオルガノイド培地が供給され、コラーゲンゲルは空気に直接開いているという特殊な培養を用いている。

この方法の特徴は、上皮に囲まれたオルガノイド内に、間質細胞やリンパ球を含む血液系の細胞が含まれるオルガノイドができる。このまま上皮増殖因子のみで培養すると、血液細胞は徐々に消失するが、ここに IL-2 と IL-7 を加えることで、リンパ球も維持されたオルガノイドが可能になる。

このままでは患者さん由来のオルガノイドも問題はないが、そこに gliadinペプチドを加えると、患者さんだけで自己免疫反応が起こり、上皮の崩壊が起こる。この過程をこれまで人間のセリアック病で知られていることと付き合わせてみると、

  • Gliadin投与により、セリアック病患者さんのオルガノイドだけで上皮の IL-15 産生が gliadinペプチド反応性T細胞により誘導される。
  • 細胞障害性の反応が誘導され、上皮がアポトーシスに陥る。
  • 通常患者さんでは上皮が消失すると、代償性のクリプト内幹細胞の増殖が見られるが、患者さんからのオルガノイド培養は、gliadinを加えるだけで上皮増殖因子がなくても幹細胞が増殖する。
  • 患者さんで見られる自己グルタミナーゼ抗体もオルガノイドで産生される。

などと、マウスモデルでは決して再現できなかった、セリアック病の特徴が再現できることがわかる。

次にオルガノイド内のgliadin反応性のT細胞を調べると、gliadin投与でいくつかの反応性CD4細胞クローンが増殖していること、これに続いてCD8キラー活性、自己反応性B細胞、そしてマクロファージや樹状細胞が一団となったネットワークを形成しているのがわかる。

最後に、これらのネットワークを維持するための核となるサイトカインを探索し、IL-7 が gliadinペプチドで刺激されたときだけ、おそらくペプチド反応性CD4T細胞により刺激された間質細胞から分泌され、これが全体のオーガナイザーとして CD8T細胞誘導、そして上皮細胞障害へとネットワークを導いていることを明らかにする。

以上が結果で、詳細な細胞間相互作用についての説明は割愛したが、セリアック病の鍵となるサイトカインとしてこれまで全くノーマークだった IL-7 を特定するまで、圧巻の研究だと思う。オルガノイドが進化し続け、人間の病気解析にどんどん使われるようになっていることがよくわかる論文だ。

現役時代、ストローマ細胞から分泌される IL-7 を研究していた時、人間での役割がはっきりせず、残念な気持ちだったが、セリアック病では、リンパ組織形成で見られるのと同じような組織構造になっていることを知って、個人的にも面白い論分だった。

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