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8月16日 ストーンヘンジの祭壇はスコットランドから運ばれてきた(8月14日 Nature オンライン掲載論文)

2024年8月16日
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今日は、ほとんどのメディアが昨日報道していた、オーストラリア・パースにあるカーティン大学から発表されたトーンヘンジの祭壇石がスコットランドから運ばれてきたことを示した論文を、自分なりに紹介することにした。

上の図は2011年、最後の大学院生だった木下夫婦とストーンヘンジを訪れた時に撮影した写真だが、3000年前から建設を始めた理由は何であれ、ホモサピエンスの発明した最大の道具、言語の壮大さを感じる構造物だ。言語は音と言う媒体を持つが、道具の中では最も物性に乏しい。しかも、個人の中にとどまらず社会的に勝手に進化した上で、また個人に寄生する。このおかげで、物理的に存在できない未来を表現できるようになり、それは死後の世界といったフィクションを可能にした。エジプトと異なり、ストーンヘンジが構築された時代、ブリテン島にはまだ文字はなかったと思う。とすると、ストーンヘンジは、見たことのない言語世界に多くの人が動かされ、協力してそれをこの世に実現使用とする驚くべき努力を示している。

その意味で、これらの巨石をどこから切り出し、運んできたのかは人類学にとって重要なテーマで、研究が続けられてきた。まず、ストーンヘンジを代表する外側のサークルはイングランド南部のサーセン石で、大きい石だが近くで調達している。

これ以外にはウェールズ地方から運ばれてきた小さな石が存在し、何回にもわたって建築が進められた際持ち込まれたと考えられる。なぜわざわざウエールズとも思うが、場所的には200kmぐらいで、特に異なる種類の石を配置することを構想したのだろう。

この論文が調べたのは、近くには存在しない石の中でも大きな砂岩で、6 t もある。これまではこの砂岩もウェールズから運ばれてきたとされてきたが、これを疑って調べ直したのがこの研究だ。

紹介した様に、責任著者はオーストラリアの大学に属しており、国宝級の構造物から、30ミクロンのセクションをオーストラリア在住の研究者に託したというのにまず驚く。

この論文を読むと、現代の鉱物学がどのように進められるのかもよくわかる。砂岩は様々な成分が固まっているので、それぞれの成分の形成年代をアイソトープの年代測定を使って調べたあと、岩石自体が形成される過程をベースに、砂岩全体の特徴を決めている。

こうして決められた岩石ができる過程をベースにした特徴を、英国に分布する様々な砂岩と比べると、スコットランドの Laurentia 楯状地をベースに、グランピアン地方のオルドビス紀のマグマ活動由来の珪長質岩と苦鉄質岩が合わさって形成された砂岩とほぼ同一と結論できる。

ヨーロッパの自然博物館に行くと、膨大な鉱物コレクションが展示されているが、現代の鉱物学の手法と重要性を改めて認識させられる研究だ。

そして、これが正しいとすると、スコットランド北東部グランピアン地方から、はるばる750km、言語的に形成された共同幻想に駆られて6tもの石をストーンヘンジまで運んできたことになる。産地が海辺にあり、陸路はほぼ考えられないので、すでにイギリスを一周する海路ができていたと結論しているが、それにしても驚くべき人間の共同エネルギーを駆り立てる言語の力を思い知る論文だった。

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