マスト細胞は IgE 産生システムとともに、アナフィラキシーを媒介する中心的細胞で、細胞表面上に結合している IgE が抗原により活性化されると、細胞内にためていたヒスタミンなどの様々なメディエーターを放出し、アナフィラキシー反応を起こす。この細胞の発生には現役時代研究していた c-Kit が必須で、関係のミーティングでは必ずセッションが設けられていたので、普通の細胞よりはよく知っていると思っていた。
ところが今日紹介するミュンスター大学からの論文は、これまでのイメージからは想像できない、なんとマスト細胞が白血球を取り込んで、自分のために再利用するメカニズムを備えていることを示した驚きの研究で、8月2日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Neutrophil trapping and nexocytosis, mast cell mediated processes for inflammatory signal relay(好中球をトラップしてそれを吐き出すマスト細胞の機能が炎症シグナルを伝える過程に関わる)」だ。
白血球は様々な炎症現場でその機能が研究されているが、IgE により媒介されるアナフィラキシー現場ではあまり研究されていない。反応も早く、ほとんど機能していないと考えられてきた。これに対してこのグループは、ともかくアナフィラキシー現場で白血球の動態を見てみようと考え、ビデオ観察した。普通は気にもならない問題を、しかもじっと観察してみようと考えたのがこの研究のハイライトだ。その結果、抗原注射によるアナフィラキシー反応で、マスト細胞が顆粒を吐き出した直後から、マスト細胞の方向に白血球が集まり、30分するとほとんどの白血球が離れていくが、残ったマスト細胞の中には生きた白血球が細胞内に取り込まれているという、予想外の現象を発見する。
この現象はコラーゲンゲルを用いる試験管内でも同じように観察され、また人間のマスト細胞と白血球の培養系でも観察できる。
マスト細胞の周りに白血球が集まり出すのは、脱顆粒によるメディエーターの分泌直後からで、このとき同時に分泌される分子が白血球を呼び寄せていると考え、最終的にロイコトリエンB4(LB4)の濃度勾配に沿って白血球がマスト細胞と接触することを突き止める。
その後、互いの膜を沿うように細胞骨格が変化して、最終的に細胞内に白血球が取り込まれるケースが多いが、白血球がより積極的に増すと細胞内に突き刺さるように取り込まれる場合もある。いずれにせよ、取り込まれたあとは数時間白血球は生きているが、その後エンドゾームが酸性化するにつれ、白血球は死ぬ。
面白いのは、白血球を取り込んだ細胞と、取り込まなかった細胞を比べると、脱顆粒後の回復が早く、周りの栄養環境が悪化しても、取り込んだ細胞の成分を、オートファジーのように利用して、代謝活性を上昇させ、高い活動性を維持できる。
ただ、白血球の取り込みによるベネフィットはこれだけではない。マスト細胞は細胞を取り込んでも、元々様々な分解酵素を使う能力は低い。そのため、白血球が死んだ後、多くの分子が完全に分解されないまま残る。その結果、次に刺激されたとき、完全にメディエーターが合成できていなくても、白血球が発現していたロイコトリエンやプロスタグランジンを分泌するとともに、完全に消化されないDNAを回りに分泌することで、組織中のマクロファージを刺激、炎症反応を持続させる。
以上が結果で、マスト細胞が白血球を取り込むだけでも驚きだが、これが自己活性化と炎症誘導のための戦略であるとする仮説は、さらに検証が必要だが、面白い可能性だと思う。シナリオをこれでもかと押しつけてくる論文の書き様はちょっと心配にはなるが、面白い論文だと思う。