アルツハイマー病の新しい治療モダリティーの開発が急速に進んでいるように思える。いくつかについてはこの HP で紹介するとともに、Youtube で紹介した。このように様々なモダリティーのある中で、アミロイドβ を標的とする治療に続く最もストレートな標的は Tau だろう。ただ、Tau の場合基本的には細胞内で凝集して悪さをするため、遺伝子治療がまず穿孔しているように思う。例えば昨年4月に紹介した Tau アンチセンス治療は第一相治験に進んでいる(https://aasj.jp/news/watch/21969)。 細胞内に到達できない抗体治療も研究が進んでいる。というのも抗体と結合した細胞外 Tau 凝集塊は抗体と結合することで神経細胞内に取り込まれ、TRIM21ユビキチンリガーゼシステムを介して凝集 Tau を分解することが報告されたからだ(https://aasj.jp/news/watch/21828)。その結果、抗体を細胞内に取り込まれるナノ粒子に詰め込んで治療を行う試みがつい最近報告され紹介した(https://aasj.jp/news/watch/24763)。
今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は、抗体もユビキチン系も全てまとめて遺伝子導入して細胞内の凝集 Tau を分解する治療法開発で、8月30日号 Science に掲載された。タイトルは「Aggregate-selective removal of pathological tau by clustering-activated degraders(病理的凝集 Tau 特異的に活性化されるタンパク分解システム)」だ。
これまで Tau に対する抗体が細胞内に入ると、Trim21 が集合体を形成し、これがユビキチン化され Tau にプロテアソームをリクルートすることが知られていた。そこで、この活性化に必要なドメイン (RD) に直接H鎖抗体(ナノボディー)を結合させ、凝集 Tau に結合したときに RD 同士が結合し、活性化、ユビキチン化される遺伝子を設計した。
あとはこれが実際に細胞内で働いてくれることを試験管内、モデルマウスを用いて調べている。
試験管内の実験ではこの分解遺伝子が働くと、大きな凝集を作っているTau分子だけが特異的に分解される。このときのナノボディーのアフィニティー変えて調べると、アフィニティーをかなり落としても凝集Tauと結合して十分分解してくれること、またアフィニティーが低い方が正常のTauへの作用がほとんどなく、治療には適していることを示している。
心配になる他のタンパク質への影響だが、HMGCR、とPNMA1 の発現量が低下することはあるが、細胞自体の活性には問題がないと結論している。
次にこの分解遺伝子をアデノ随伴ウイルスをベクターとして脳に直接導入すると、導入した側の凝集 Tau を半減させることができる。
次に Tau 凝集が起こるトランスジェニックマウスを用いて、片側の皮質に分解酵素遺伝子を導入すると、期待通り凝集 Tau を8割程度低下させることに成功している。
最後に、脳細胞に導入しやすくしたアデノ随伴ウイルスに分解酵素を入れ、これを静脈注射することにより臨床に近い条件での治療実験を行い、導入後10日目にはすでに蓄積していた Tau を半減させられることを示している。
認知機能実験は行われていないが、病理学的には極めて期待が持てる方法で、実際明日から治験を始めてもいいというところまで来ている。是非期待したい。