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8月11日 気になる臨床研究(8月9日 Science 掲載論文他3編)

2024年8月11日
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最近読んで気になった臨床研究をいくつか紹介する。

最初のコロンビア大学とウクライナ人口研究所からの論文は、1932年ホロドモールと呼ばれるウクライナ生産穀物をスターリンが略奪した結果起こった、なんと2%のヒトが飢餓でなくなったという悲しい歴史の最中に生まれた子供の2型糖尿病リスクについての研究で、8月9日 Science に掲載された。

これまで、1944年オランダでの飢餓、1959年の中国の飢餓時に誕生した子供が、エピジェネティックな変化により、中年以降になってから2型糖尿病のリスクが高まることが報告されている。この研究も同じラインにあるが、ウクライナの飢餓期間が1933年前半に集中し、地方ごとの飢餓の記録が残っており、しかも国家的糖尿病登録が存在することから、正確にリスク判定ができるメリットがある。

結果だが、2型糖尿病は飢餓以降に生まれたポピュレーションで増加傾向にあるが、飢餓に見舞われた地域とそれ以外の地域であまり差はなく、飢餓とは無関係な傾向であることがわかるが、1933年前半に生まれた集団は、特に母親が妊娠初期に飢餓を経験した場合に、リスクが4倍近くに跳ね上がっている。中国の研究では、子供時代の飢餓も糖尿病リスクを高めることが報告されているが、ウクライナの飢餓では、妊娠中期以降の飢餓経験では、リスクは上昇しないことが示された。

以上が結果で、エピジェネティックスとは何かを教えてくれる悲しいエピソードだが、今もなおこのような悲しいエピソードは地球上で絶えることがない。

次の中国南京大学と米国ミシガン大学からの論文は伝統的な心臓に対する漢方薬Qiliqiangxinの効果を、無作為化二重盲検偽薬治験で調べ直した研究で、8月2日 Nature Medicine にオンライン掲載された。

3119のHYAH心機能分類で、通常の身体活動で症状が出る2度以上の患者さんで、左心室ポンプ機能(HFrEF)が 40% 以下、BNP が 450pg/ml 以上の心不全の患者さんを無作為に分け、偽薬、あるいは Qiliqiangxin を投与して死亡率と様々な心臓発作の頻度をアウトカムとして調べている。

結果は、いずれの評価指標もも Qiliqiangxin 投与群で2−3割改善する一方、ほとんど副作用は見られなかった。これまで漢方薬は長い歴史を持っていても、大規模治験は行われてこなかった。その意味で、この研究の意義は大きい。ただ、SGLT2 阻害剤が組み合わさった新しい標準治療が進展している現在、これを押しのけて使われるチャンスは少ないと思う。一方で、Qiliqiangxin は炎症を抑えたり、PPARγ 活性化機能もあることから、現在の治療法と併用で効果があるかを調べる治験が重要だと思う。

次のユトレヒト大学を中心とするヨーロッパ、オーストラリアの研究施設が共同で発表した論文は、ステージ Ⅳ の転移乳ガンに対するエクササイズの効果を無作為化治験として調べた研究で、7月25日 Nature Medicine にオンライン掲載された。

この研究では転移が発見されて2年、様々な治療を行ってきた357名の患者さんを無作為に分け、片方は転移性乳ガンの治療とともに、専門家によるエクササイズプログラムを9ヶ月続け、もう片方は転移性乳ガンの通常の治療だけを続け、9ヶ月目の自覚的 QOL を調べている。

結果だが、明らかに疲れやすさを中心に QOL は改善する。これが結果の全てで、生存期間などについては最初から評価項目にはしていない。転移した後も、乳ガン治療は長丁場が続く。その意味で、患者さんの QOL をアウトカムにする治験の意義は大きい。

最後のドイツ・ビュルツブルグ大学からの論文は一般の人(ドイツ人)が AI に対して持つ印象の違いを調べた研究で、7月25日 Nature Medicine にオンライン掲載された。

研究では、患者さんの質問に答える様々なシナリオを一般の人に見てもらって、患者に寄り添っている、信頼できる、理解できる、の3点について評価してもらう。このとき、全く同じ答えのソースを、医師による、AI による、あるいは AI と医師によると変えて提示したとき、シナリオに対する印象が変わるか調べている。

結果は明確で、患者に寄り添うか、信頼できるかについての評価は、AI が答えを出すソースに入っていると低下する。重要なのは医師と AI の場合も、医師だけより評価が低いことから、一般の人たちが AI に対してまだ信頼していないことを示している。

以前実際に ChatGPT と医師に同じ問題を答えさせて、その答えを患者さんが評価した論文では、圧倒的に ChatGPT の答えがわかりやすく寄り添っているという結果だったのを考えると、人間が間違いなく AI を敵視し始めていることがわかる。

以上、いろんなことが臨床テストとして調べられている。

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