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8月7日 腸内細菌叢が環境内化合物を発ガン性に転換する(7月31日 Nature オンライン掲載論文)

2024年8月7日
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たばこの中に含まれる様々な物質の中で、ニトロソアミンは膀胱ガンを誘導することが疫学的に知られており、試験管内発ガン実験、あるいはマウスを用いた慢性投与実験からも発ガンが確かめられている。

今日紹介するクロアチア・スプリット医科大学と、ドイツ・ハイデルベルグにあるヨーロッパ分子生物学研究所から共同で発表された論文は、発ガン実験に使われる N-butyl-N(4-hydroxybutyl)-nitrosamine (BBN) が、主に腸内細菌の作用で DNA と直接結合する N-butyl-N-(3-carboxypropyl)-nitrosamine (BCPN) に転換され、膀胱ガンを誘導することを示した研究で、7月31日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Gut microbiota carcinogen metabolism causes distal tissue tumours(腸内細菌叢による発ガン物質の代謝が遠位組織の発ガンの原因になる)」だ。

このグループは元々細菌叢による分子てんかんの研究を続けてきた。従って、今回の研究も最初から化学物質による発ガンに細菌叢が関わると狙いを定めて研究を始めている。しかしこれまで BBN は腸内で吸収されたあと肝臓で代謝された結果、DNA 結合性の分子へと転換すると考えられてきた。

この研究は BBN を12週間飲ませる発ガン実験の際、抗生物質を投与すると、膀胱ガン発生を8割から2割以下に抑えられることを示し、発ガン性物質への転換のほとんどが腸内細菌叢により行われている可能性を明らかにした。

この実験が研究のハイライトで、後は実際に BBN が腸内細菌叢により BCPN へと転換されていることを確かめる実験が続く。例えば、抗生物質を投与すると大腸での BCPN 濃度がほとんど0になる。一方で、その前の段階の gBNN 濃度は代謝を受けず上昇する。

また、マウス細菌叢を培養してこれに BNN を加えると、24時間で BCNP へと転換される。この実験系で、実際にこの転換に関わる細菌を調べており、564種類調べた中で12種類だけがこの能力を持つことがわかった。また、これらの細菌が占める割合は0.5%程度なので、かなり少ない細菌によって、危険な BCPN への転換が行われていることがわかる。

次に、人間の腸内細菌叢に同じ能力があるのか、大便を培養する実験系に BNN を加えて BCNP への転換を調べると、個人差は大きいが、人間の細菌叢も BCPN へ転換できる能力を持つ細菌叢は存在する。しかし、大腸菌を除くと、この能力を持つマウス細菌とは種が異なっている。

そこで、人間の細菌叢でもマウスの体内で同じように働くか、無菌マウスに移植した上で、BNN 投与実験を行い、大腸内の BCNP が確かに上昇すること、この上昇を抗生物質で抑えられることを示している。

以上が結果で、他の化合物でも同じような発ガン物質への転換が細菌叢により誘導される可能性も示し、特に発ガン物質を経口摂取させる実験の中には細菌叢が強く関わるかの性があると結論している。

最初こんなこともあるのかと驚いたが、冷静に考えてみるともっともなことで、しかもこの結果が正しいからと言って、抗生物質を飲み続けることはできないことから、結局は今まで通り環境の化合物を摂取しない、すなわち禁煙することが一番重要になる。

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