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10月5日 TET2 欠損による幹細胞増殖を決めている新しいメカニズム(10月2日 Nature オンライン掲載論文)

2024年10月5日
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TET2 はメチル化されたシトシンを酸化することで、最終的にメチル基を外す機能を持つ分子で、欠損すると造血幹細胞のクローン増殖を誘導し、白血病の引き金になることが知られている重要な分子だ。このブログでも TET2 を扱った論文については何度も紹介してきた。しかし、紹介するとき私の頭にあったメカニズムは、TET2 によりメチル化された DNA のメチル基が外れ、その結果様々な遺伝子の過剰発現が起こって増殖が高まるというものだった。特に DNA メチル化でトランスポゾンや内因性レトロウイルスなどが抑制されており、それが細胞内で活性化され増殖を高めていると考えてきた。

今日紹介するシカゴ大学からの論文は、私のこれまでの理解を完全にひっくり返し、造血細胞のクローン増殖に関わる TET2 の機能はメチル化された染色体構造変化に関わる RNA を標的にしていること、そしてこれにより内因性レトロトランスポゾンが活性化することが増殖に関わることを明らかにし、TET2 機能を考える上で重要な研究で、10月2日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「RNA m5 C oxidation by TET2 regulates chromatin state and leukaemogenesis(RNA のメチル化シトシンを TET2 が酸化することがクロマチン構造を変化させ白血病化を誘導する)」だ。

TET2 をノックアウトすると ES 細胞のクロマチンはオープンになり転写が上昇する。TET2 は DNA と反応する時は特定の Zincfinger 分子が必要だが、RNA のメチル基と反応する時は PSPC1(RNA 結合分子)を必要とする。そこで TET2 ノックアウトの効果をメチル化 DNA とメチル化 RNA に分けて調べるために PSPC ノックアウト ES 細胞を調べると、染色体と結合するメチル化 RNA の濃度が高まり、この RNA が結合する領域のクロマチン構造がオープンになることがわかった。すなわち、TET2 はクロマチン構造の開閉を決めている RNA を脱メチル化することで、クロマチン構造を閉じる役割があり、これが欠損するとこの領域がオープンになる。

面白いことに、DNA メチル化によりクロマチン構造が調節されている領域はエンハンサーやプロモーター部位が多く、一方染色体に結合する RNA が調節している部位は、トランスポゾンや内因性のレトロウイルスの繰り返し配列が標的になっている。そして、TET2 や PSPC ノックアウトでは、このようなトランスポゾンのクロマチン構造がオープンになり、転写されていることを明らかにする。そして、この領域のクロマチン構造を決めているのが遺伝子発現を抑制する K119 部位がユビキチン化された H2A ヒストンで、TET2 ノックアウトでは、H2AK119ub が脱ユビキチン化が進んでクロマチンが開くことを明らかにしている。

最後に、H2AK119ub を除去する際のメカニズムを調べ、TET2 がノックアウトされるとクロマチン結合型メチル化 RNA が上昇し、これに MBD6(メチル結合分子)が結合すると、脱ユビキチン化酵素が H2AK119ub 結合部位にリクルートされ、ヒストンの脱ユビキチン化が進み、特定のクロマチンをオープンにすることを明らかにしている。言い換えると、TET2 はメチル化 RNA を脱メチル化することで、MBD6 とメチル化 RNA の結合を阻害し、H2AK119ub の脱ユビキチン化を抑えて、閉じたクロマチンを維持することがわかった。

ここまでの研究は全て ES 細胞で行われているが、最後に TET2 と MBD6 の役割を造血幹細胞で調べ、同じように TET2 がノックアウトされるとレトロトランスポゾンの発現が高まることが造血幹細胞の増殖を誘導すること、また MBD6 をノックアウトすることでメチル化 RNA の H2AK119ub の脱ユビキチン化阻害活性を抑えて、閉じたクロマチンを回復させ、幹細胞の異常増殖や、白血病かを抑えられることを示している。

結果は以上で、少しわかりにくかったかもしれないが、これまでの通説を覆す(少なくとも私の頭の中の)、優れた研究で、勉強した気分になる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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