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10月19日 大腸菌を使ったガンワクチン(10月16日 Nature オンライン掲載論文)

2024年10月19日
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ガンワクチンというと、ペプチド、mRNA、ウイルスベクター、抗原パルス樹状細胞などを思い浮かべるが、バクテリアをガン免疫を含む様々な治療に使おうとする試みも盛んに行われてきた。このHPでガンとバクテリアで検索すると(https://aasj.jp/?s=%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%80%80%E3%83%90%E3%82%AF%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%A2&x=0&y=0)実に様々な可能性が試みられていることがわかる。

今日紹介するコロンビア大学からの論文は、大腸菌にガンのネオ抗原を組み込んでワクチンとして使うためには、バクテリアの方の操作がいかに重要かを教えてくれる研究で、10月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Probiotic neoantigen delivery vectors for precision cancer immunotherapy(バクテリアによるガンネオ抗原デリバリーを用いたガンのプレシジョン医療)」だ。

すでに述べたように、バクテリアにガン抗原を発現させて使うアイデアは、バクテリア自体の自然免疫誘導性が高く、また遺伝子操作が簡単であることを考えると、当然のことだと思う。

この研究では、マウス大腸ガンやメラノーマをモデルに、エクソーム解析からガンのネオ抗原セットを特定し、それぞれ19種類、42種類の抗原遺伝子をプラスミドに組み込んで、腫瘍局所、あるいは静脈内に注射している。

まず結論から述べてしまうと、今回設計した大腸菌は、腫瘍局所でほとんど増殖せず、すぐに免疫系に取り込まれ、CD4及びCD8T細胞免疫を誘導するだけでなく、免疫抑制的な細胞を抑える働きがある。その結果、ガンの予防だけでなく、すでにガンが大きくなってからワクチン投与を行っても、ガンを抑制することができる。また、静脈注射を用いれば、転移ガンについても免疫を誘導できるという素晴らしい結果になる。

このような最終結果もそうだが、この研究のハイライトは大腸菌の操作が尽くされている点だ。もちろん、ネオ抗原遺伝子も大腸菌の転写翻訳系に合わせて設計するのは言うまでもないが、大腸菌ゲノムに隠れているプラスミドを除くことで、発現が抑えられないようにしている。

その上で、Lon、OmpT と呼ばれるプロテアーゼ遺伝子を除くことで、外来のタンパク質が大腸菌内で蓄積できるようにしている。大腸菌が取り込まれると、結果大量のネオ抗原がマクロファージや樹状細胞に取り込まれる。ただ、これだけならエンドゾーム内でクラスII MHC に提示されるので、大腸菌にリステリア菌の持つ listeriolysin を発現させることで、エンドゾーム内で pH が上昇すると、穴が空いて細胞質へタンパク質が流れるようにして、クラスI MHC と結合した抗原が、CD8キラー細胞を誘導しやすくしている。

その上で、大腸菌を静脈から全身投与しても体内で増殖ができないよう、マクロファージに取り込まれやすくするとともに、血液に触れると増殖ができないように操作している。

こうすることで、マウス実験では全く安全だが、ネオ抗原の生産が80倍を超え、期待通りTh1型ヘルパーT細胞とキラーT細胞の両方が誘導できるシステムを作り上げている。

以上が結果で、できれば多くのガンでシェアされている、例えば変異KRASなども抗原として用いられるかも調べられると、より多くの人に使えるワクチンになると期待できる。他にも、ガンを制御する分子のデリバリーにも使えるので、意外と主流になるかもしれない。

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