過去記事一覧
AASJホームページ > 2024年 > 10月 > 10日

10月10日 ALSの異常細胞だけで遺伝子発現を誘導する(10月4日 Science 掲載論文)

2024年10月10日
SNSシェア

ALS では RNA 結合タンパク質の一つ TDP-43 の軸索欠損が高い頻度で観察され、病気発症に深く関わることが知られています。TDP-43 はスプライスに関わり、例えばシナプスタンパク質や軸索伸長に関わるタンパク質のスプライシングの異常は、ニューロン編成を誘導します。さらに異常 TDP-43 はリン酸化され細胞質内で凝集して細胞毒としても働きます。従って、TDP-43 の正常機能を取り戻すことは ALS 治療の重要な課題ですが、例えば TDP-43 を遺伝子導入すると、正常細胞にも導入され、スプライシングが狂って異常の原因になります。

今日紹介するロンドン大学からの論文は、TDP-43 が欠損した細胞だけで遺伝子発現が起こる遺伝子導入システムを開発して、ALS を治療しようとす試みで、10月4日 Science に掲載された。タイトルは「Creation of de novo cryptic splicing for ALS and FTD precision medicine(ALS と前頭側頭痴呆を新しい隠れスプライシングを使って知慮する)」だ。

多くの遺伝子には cryptic splicing と呼ばれる、普通は除去される領域を含んだ mRNA ができることがある。これはスプライシング機構に様々な分子が異なるアンサンブルで参加するためで、TDP-43 が欠損すると、例えば AARS1 遺伝子クリプティックスプライシングにより異常タンパク質になってしまう。この研究では、まず AARS1 遺伝子のクリプティックスプライシングに関わる部位を逆に利用して、TDP-43 が欠損している場合だけ機能的な mRNA が形成され、遺伝子が発現されるシステムを完成させている。

次に、深層学習で cryptic splicing パターンを学習させ、TDP-43 欠損でだけ cryptic splicing が成功して遺伝子発現を誘導できる小さなカセットを完成させ、これをマーカータンパク質に組み込んだ遺伝子をアデノ随伴ウイルスベクターで TDP-43 をノックアウトした ALS モデルマウスに導入すると、異常が起こっている運動神経だけで導入遺伝子が発現することを確認している。

同じように、遺伝子編集に用いる CAS9 なども、TDP-43 が欠損した細胞だけで発現することを確認して、最後に TDP-43 機能を取り戻す実験を行っている。

ALS 細胞で TDP-43 機能を回復する目的で、現在 TDP-43 に、同じスプライシングに関わる RAVER1 遺伝子を融合させた分子を使う方法が有望視されている。これにより TDP-43 の正常機能が戻るだけでなく、TDP-43 を核内に再誘導することも知られている。ただ、これが正常細胞に導入されると当然スプライシングが狂う。

そこで、TDP-43 と RAVER1 の間に TDP-43 欠損時の cryptic splicing により機能遺伝子ができるカセットを組み込んで TDP-43 機能回復が可能かを調べ、欠損により起こる cryptic splicing によって起こるいくつかの異常遺伝子の出現を完全に抑えられることを示している。

結果は以上で、スプライシングを理解していないとわかりにくい話だと思うが、ALS の遺伝子治療に向けた大きな前進だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2024年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031