統合失調症の遺伝性は高く、一卵性双生児の場合5割の一致率がある。またゲノム研究から、100を超すコモンバリアントがリスク多型として特定されており、これに加えて病気の発症を強く後押しする希な遺伝子変異も特定されている。しかし、ガンと異なり体細胞で新たに生じる突然変異の研究はほとんど行われていない。これは、ガンと異なり変異が細胞の増殖につながらないため、検出が難しいので、脳組織で体細胞突然変異を特定できても、それは発生の早い段階で起こり、細胞のモザイク構成につながる変異に限られる。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、61人の統合失調症の解剖で得られた脳から特定の神経細胞を集めて、そのゲノムを詳しく解析し、体細胞突然変異を特定し、統合失調症でみられる特徴を探った研究で、10月11日 Science に掲載された。タイトルは「Somatic mosaicism in schizophrenia brains reveals prenatal mutational processes(統合失調症で見られる脳細胞のモザイクは発生前の突然変異を明らかにする)」だ。
統合失調症の脳細胞から核を取り出し、50万個から100万個の核から得られるDNAを、平均239カバー率で全ゲノム解析し、一塩基変異や、コピー数の変異などを特定している。繰り返すが、突然変異はあらゆる細胞で起こっているが、ガンのようにその細胞が増殖しない限り、検出するのは難しく、200カバーレートから発見できるのは、変異が発生した後、細胞が一定期間増殖する発生時期に限られてしまう。そして、このような変異は、病気にかかわらず誰でも持っている。
実際、統合失調症と正常人の脳を比べても、検出できる一塩基変異の数はほとんど変わらない。しかし、変異の場所を遺伝子発現調節因子の結合サイトとの距離でプロットしてみると、統合失調症では結合部位に近い場所の変異頻度は正常の数倍にも上昇する。すなわち、転写調節サイトに近い体細胞突然変異が発生期に生じると、統合失調症になりやすいことを示している。
次に、そのときの変異の種類を調べると、メチル化DNAが脱メチル化された後、再度メチル化を受ける発生初期に生じた変異のタイプが目立っている。すなわち、受精後いったん失われたDNAメチル基が細胞分化とともに再構成される着床期に起こった変異が、統合失調症のリスクを形成していることがわかる。
さらに、体細胞で検出できる一塩基多型は、各個人にユニークで、発ガンに関わる場合以外は繰り返して観察されることはないが、調べた統合失調症61人で、3回繰り返した同じ場所の同じ一塩基多型を発見している。この変異のタイプから、除去修復機構の異常が関わることが推察できるが、それ以上の解析はできていない。しかし、この部位の変異が統合失調症リスクとして関わることが強く示唆される。また、除去修復の低下が背景として統合失調症のなりやすさに関わる可能性が示唆される。
最後に細胞株にマーカー遺伝子を発現させる系で、変異部位の遺伝子発現調節活性を調べて、実際にエンハンサー活性が多型で異なることを機能的に確認し、今回統合失調症特異的として特定してきた一塩基多型の中に、確かに病気発症と関わるリスク変異が含まれていることを示している。
結果は以上で、大変な研究とはいえ統合失調症の理解に大きな光が差したというわけではない。しかし、特定の変異が統合失調症で選択されていることを見ると、ガンと同じで体細胞突然変異の寄与も調べることが必要だと実感する。