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10月15日 一人の人間の脳を133日も記録し続ける(10月8日 Plos Biology オンライン掲載論文)

2024年10月15日
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私のように高齢になっても、脳は変化し続けており、今日の脳は昨日の脳と違っている。例えばニューラルネットを基盤した AI は、ある時点でネットワークの結合様態をフリーズできるかもしれないが、私たちにはそれは不可能だ。この日々変化する脳を捉えることができるか、ともかくやってみようと計画されたのが、今日紹介するフィンランド Aslto 大学からの研究で、10月8日 Plos Biology にオンライン掲載された。タイトルは「Longitudinal single-subject neuroimaging study reveals effects of daily environmental, physiological, and lifestyle factors on functional brain connectivity(一人の人間の脳イメージを長期間とり続けることで、毎日の環境や生理状態、そして生活スタイルの脳の結合性に及ぼす影響が明らかになった)」だ。

この研究のハイライトは、一人の人を19週間、週2回 MRI をとり続けて、脳の変化を調べたことだ。もちろん脳全体の変化を調べるのは簡単でない。そこで前頭前野内の結合性 (PFC) 、前頭側頭ネットワーク (FPN) 、デフォルトモードネットワーク (DMN) 、Cingulo-opercularネットワーク(CON) 、体性感覚運動野 (SM) など重要な回路に絞って結合性を「調べている。

被験者は、様々なウェアラブルモニターを装着し、毎日の心拍数や呼吸数の変化、睡眠の質などを調べるとともに、毎週質問に答える形でそのときのムードなどを調べている。

こうして得られた様々なデータの間での相関を徹底的に調べたのがこの研究だが、結果自体は少しわかりにくく、また驚きはなく、なるほどと納得するものだった。いくつかの例を以下に示す。

  1. 睡眠の質、特に睡眠中に動きが止まらない場合、注意を維持する課題を行っているときのDMN、SM、CONなど多くのネットワークの結合性が低下する。
  2. 睡眠の質や日常の活動性が一定しない場合、記憶課題を行っているときのDMN、FPN、CONの結合性が低下する。
  3. 睡眠の質とともに、心拍数など自律神経系の状態が振れる人は、安静時のDMN、FPNの結合性が低下する。
  4. 以上の相関は全て、脳内ネットワーク結合性に長期的効果を及ぼす。
  5. 一方で、書くネットワークの結合性の状態は、生活での活動性に強く影響し、結合性が低い場合、活動性が低下する。
  6. 自律神経系の変化は、特に安静時の結合性の変化につながる。

個々でそれぞれのネットワークの機能について、誤解を恐れず簡単に紹介すると、DMN は脳を自己に統括する機能、PFC は記憶や計画実行、FPN は認知と感情の調節、CON は注意や行動調節、そして SM は感覚と運動調節に関わるが、単純に決めつけない方が良い。従って、それぞれの結合性が低下していること、また短期や長期の効果があることの意義については、まだまだわからない。

結局、ともかくやってみることで、毎日脳は変化することを実感したというのがこの研究だろう。しかし面白いことを着想するものだ。被験者は33歳の健康な女性ということだが、よく協力してくれるものだ。

一見馬鹿げた研究だが、実際には人間の研究が進むべき方向を示しているように思う。

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