喘息の発症に腸内細菌叢が重要な役割を演じていることは広く認められており、北欧では帝王切開で生まれた子供の細菌叢を回復させるための便移植が進められている。メカニズムについてはまだまだはっきりしないが、細菌叢によって刺激を受けたタフト細胞が、喘息を悪化させる抗酸菌症を誘導する自然免疫リンパ球 ILC2 を誘導するからと考えられている。
今日紹介するカナダトロント大学からの論文は、ILC2 の活性化と肺への移動に細菌叢だけでなく、トリコモナス類の原虫が関わっていることを示した研究で、12月19日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A gut commensal protozoan determines respiratory disease outcomes by shaping pulmonary immunity(腸の常在原虫が肺での免疫を変化させて呼吸器疾患のアウトカムを決定する)」だ。
この研究は、マウスの常在性原虫 Tritichomonas muris (Tm) を摂取させると、全身性の好酸球症が誘導され、肺にも好酸球の強い浸潤が見られるという発見から始まっている。肺の好酸球浸潤は喘息を悪化させる要因なので、Tm のような常在原虫が喘息の悪化原因になる可能性は高い。
この好酸球症の原因を探ると、Tm が腸内に住み着くと、IL-5 や IL-13 を分泌して好酸球症を誘導する自然免疫リンパ球 ILC2 が活性化され、腸内から肺へ移動することで、肺の好酸球の浸潤を誘導していることを発見する。この発見が研究のハイライトで、当然人間で起これば喘息を悪化させる要因になる。ILC2 の活性化から肺での好酸球浸潤まで、詳細にメカニズムが検討されているが、極めて複雑なので、実験の詳細は割愛して、実際に何が起こっているかの結論だけ紹介する。
- 寄生虫でも好酸球症が起こることが知られているが、Tm は直接 ILC2 に働くのではなく、まず細菌叢を刺激して、コハク酸の分泌を誘導、これがタフト細胞を刺激して IL-25 分泌を促進し、ILC2 の活性化を誘導する。このとき分泌される IL-5 は全身の好酸球増加を誘導する。
- こうして腸管で活性化された ILC2 は、通常肺に存在する ILC2 とは異なっており、肺へと移行すると、そこで T細胞や B細胞と抗原非依存性の相互作用を起こし、刺激し合う。このとき、特に CD4T細胞は IL-2 を分泌して ILC2 の増殖を助ける。また ICOS リガンドを介した B細胞との相互作用により、肺での IL-5 分泌が起こる。
- こうして活性化された好酸球浸潤が起こると、ハウスダストに含まれているダニによる喘息の重症度が高まる。すなわち、アレルギー反応自体は抗原依存性だが、好酸球浸潤により喘息が悪化する。
- しかしながら、原虫が常在し、肺での好酸球浸潤が起こることは悪いことばかりではない。結核菌を吸入させたとき、肺上皮を超えて全身に広がろうとするが、これを好酸球がシールドを作って防いでくれることを実験的に明らかにしている。
- では、人間ではどうなのか? Tm に似た原虫が人間でも常在することが知られている。また、腸内での寄生虫は全身のアレルギーに直接関わることも知られている。しかしながら常在原虫とアレルギーの関係を実験的に確かめるのは難しい。そこで、重症の喘息と、気管支拡張症の患者さんの痰を調べると、重症喘息者だけで原虫DNAが検出できる。ただ、マウスの場合 ILC2 の誘導は全て腸内で行われ、肺では原虫の寄与はないことから、この結果を原虫とアレルギーの因果性と結論するわけにはいかない。
以上、腸内で細菌叢との相互作用や、人間の常在原虫の寄与などまだまだ解明が必要だが、寄生虫だけでなく、原虫までも ILC2 好酸球を通してアレルギーに関わるという発見は面白い。