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2月3日 紫外線による皮膚炎症は DNA 損傷より、リボゾーム RNA 損傷が原因である(Molecular Cell 12月号 掲載論文)

2025年2月3日
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紫外線照射によりおこる DNA や RNA の損傷はよく研究されているが、日焼けして我々がすぐに感じる皮膚の炎症が起こるメカニズムについてはまだまだわかっていないことが多い。

取り上げるのが一月遅れてしまったが、今日紹介するコペンハーゲン大学と国立シンガポール大学からの論文は、紫外線照射による炎症の原因が DNA 損傷でなく、RNA 損傷によるリボゾームストレスが原因であることを示した研究で、Molecular Cell 12月号に掲載された。タイトルは「The ribotoxic stress response drives acute inflammation, cell death, and epidermal thickening in UV-irradiated skin in vivo(リボゾーム損傷によるストレス反応は紫外線照射皮膚で急性炎症、細胞死、そして上皮の肥厚を誘導する)」だ。

これまで紫外線照射は直接活性酸素を誘導するか、あるいは DNA 損傷を誘導する結果、p53 誘導などを介してストレス反応を誘導し、これが炎症の原因だと思ってきた。

しかし、RNA 損傷でも正常なタンパク質形成が阻害されたりすることで細胞ストレスが誘導される可能性もある。おそらくこのグループは、RNA 損傷により起こるリボゾーム機能異常を研究する過程で、リボゾームストレスが ZAKa と呼ばれるストレスキナーゼの一つを活性化し、下流の MAP キナーゼシグナルのスイッチが入る過程を研究するなかで、ZAKa が欠損したマウスを作成していた。

驚くことに、このマウス皮膚を剃って紫外線照射をしても、炎症が全く起こらないことを発見する。すなわち、一般の紫外線照射による炎症は全て ZAKa 活性化経路を通ることを意味する。とすると、DNA 損傷より RNA 損傷後のリボゾームストレスが紫外線照射による炎症の引き金になっている可能性が高くなる。

これを調べるため、紫外線の代わりに RNA を選択的に損傷する化合物を用いる実験を行い、紫外線照射とするのとほぼ完全に同じ炎症反応が誘導され、これは ZAKa ノックアウトマウスでは完全に抑えられることを示している。

しかし、DNA 損傷が炎症の原因であるというこれまでの通説は、紫外線照射が同時に DNA 損傷と、RNA 損傷を誘導する以上、DNA ストレス関与の否定は難しい。これに対し、1) 紫外線照射後の ZAKa 活性化反応が極めて早いことから、ZAKa を活性化しているのはリボゾームストレスである可能性が高いこと、2) DNA ストレスを誘導する ATR 阻害剤の炎症誘導効果は低いこと、3) ZAKa下流では JNK と p38 の活性化が起こり、人間のケラチノサイトではアポトーシスとピロトーシスの両方が誘導されるが、DNA 複製抑制によるストレスではこのような細胞死は起こらないこと、などの間接的結果を示して、DNA 損傷の炎症への貢献はあってもマイナーであると結論している。

あとは、人間のケラチノサイトとマウスの違いや、アポトーシス、ピロトーシスを誘導するシグナル回路など様々な実験を行っているが、割愛していいだろう。紫外線を浴びて皮膚が真っ赤に焼け、あとで皮膚の肥厚が起こるのは、DNA 損傷が原因であるというこれまでの通説に対して、RNA 損傷とリボゾームストレスが原因であることを示した素晴らしい研究だと思う。

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