パーキンソン病 (PD) は αシヌクレイン分子 (αSyn) が繊維状の構造をとり細胞内で蓄積され、細胞変性を誘導することで起こることがわかっている。この繊維状になった αSyn は神経細胞から神経細胞へと伝搬するため、病巣が拡大していく。
今日紹介するともに上海にある上海医科大と復旦大学からの論文は、αSyn 繊維の神経内取り込みに関わる分子を特定し、αSynとこの分子の結合を阻害する化合物を特定し、新しい PD の治療法開発の可能性を示す研究で、2月21日 Science に掲載された。タイトルは「Neuronal FAM171A2 mediates a-synuclein fibril uptake and drives Parkinson’s disease( FAM171A2 分子は αSyn 繊維の神経細胞への取り込みを媒介し PD を進展させる)」だ。
この研究グループは2020年脳脊髄液中の Progranulin の量の遺伝子多型として FAM171A2 を特定していた。また、FAM171A2 発現の検討から、この分子が血管内皮やミクログリアを介して Progranulin を調節することが様々な神経変性に関わると結論していた。
ただ、今回の論文を見るとこのときの実験や結論は正しくなく、おそらく4年間この現象を追求して、今回示されたまるっきり違う結論に至っている。
まず FAM171A2 のいくつかの多型を調べ、PD のリスクファクターになることを確認したあと、またFAM171A2 の発現がドーパミン神経に見られることを示している。さらに脳脊髄駅内の FAM171A2 と αSyn がきれいな負の関係を持つことも症例で確かめ、PDと FAM171A2 の関係を追求していく。
PD モデルとして、αSyn 繊維を脳内に注射して繊維の伝搬を調べることが行われるが、この系で FAM171A2 を過剰発現したマウスでは神経内への αSyn の取り込みが上昇し、逆にノックダウンすると取り込みが低下することを確認している。さらに、機能実験を行い、運動障害が FAM171A2 過剰発現により高まること、逆にノックダウンで PD 進行が抑えられることを明らかにしている。
このように臨床例、動物モデルと進んだあと、細胞モデルで FAM171A2 が神経細胞への αSyn の取り込みに直接関わること、そして分子構造などの解析から FAM171A2 が直接 αSyn 繊維と結合することを明らかにしている。
最後に、既存の様々な化合物をライブラリーを用いて、FAM171A2 と αSyn との結合阻害化合物をスクリーニングし、AXLキナーゼ阻害剤が、この結合を阻害すること、そして化合物を直接脳内に注射することで、αSyn 繊維の伝搬を抑制できることを示している。
以上が結果で、最初の論文と結論があまり違うので本当かと疑いたくなるが、細胞レベルの実験は間違いそうもないので、FAM171A2 を PD の新しい標的として治療薬を開発する可能性が生まれた点で重要な研究だと思う。