2月9日 CD8 キラー細胞の代謝スイッチ(2月7日号 Science 掲載論文)
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2月9日 CD8 キラー細胞の代謝スイッチ(2月7日号 Science 掲載論文)

2025年2月9日
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一昨日紹介した IL-27 のように、ガンや感染に対するキラーT細胞の活性を長続きさせるための様々なシグナルが探索されている。ただ、そのシグナルによって細胞内に引き起こされる過程についての研究は簡単ではない。基本的には様々なシグナルによって転写される遺伝子レパートリーが変化するが、それと同時に代謝も大きくリプログラムされる。

今日紹介する米国ソーク研究所からの論文は、転写と代謝がエピジェネティックな機構を介して密接に統合されていることを示した研究で、2月7日号の Science に掲載された。タイトルは「Nutrient-driven histone code determines exhausted CD8 + T cell fates(栄養素により誘導されるヒストンコードがCD8T細胞の疲弊を決定する)」だ。

タイトルを見ると栄養素を変えるとT細胞のプログラムを変えられると受け取ってしまうが、この研究が最初に調べたのは、これまでも何度も紹介してきたT細胞の刺激が続くと、T細胞の反応を落とし疲弊させるプログラム (Tex) が誘導される現象で、いかにエフェクターT (Tef) を維持し、Tex を抑えるかの方策を探っていた。

両者の転写を比べる実験から、acetyl-CoA synthetase2 (ACSS2) の発現が Tex で低下することを発見する。ACSS2 は酢酸から Acetyl-Co Aを合成する酵素で、acetyl-CoA合成にはもう一つATP-citrate(ACLY)によるグルコース由来のクエン酸からの経路が存在するので、通常気にしないのだが、著者らはこれに興味を抱いた。そして様々な実験を重ねて、この変化の上流や下流を詳しく調べているが、複雑なので全てすっ飛ばして結果だけを箇条書きにする。

  • まず、Tex への文化で ACSS2 の発現が低下するのは、TcR からのシグナルが低下して AP1 発現が低下した結果、ACSS2 の転写に必要な NFAT/AP1 の発現が抑えられるためで、NFAT と AP1 との相互作用を維持できると Tef は維持できる。
  • ACSS2 をノックアウトすると、ヒストンのアセチル化パターンの変化を介して、Tex への文化を促進する分子が誘導され、逆に Tef に必要な分子が抑えられる。
  • Acethyl-CoA 自体は ACLY でも合成できるので、なぜ ACSS2 ノックアウトでこのような変化が起こるのか追求すると、驚くなかれ ACSS2 は核内で p300、また ACLY は同じく核内で KATA2 と異なるコファクターと結合し、直接ヒストンアセチル化に必要な Acetyl-CoA を供給している。そして、p300はTef に関わる分子領域をヒストンアセチル化により活性化し、KATA2 は Tex に関わる分子をヒストンアセチル化により活性化することがわかった。
  • さらに代謝トレーサー実験から、グルコースは決して ACSS2 を介する acethyl-CoA 合成には使われず、従って Tef 維持には、酢酸からの経路が必須であることがわかった。すなわち、Tef 維持にはグルコースからでなく、酢酸からの Acethyl-CoA 合成が必須であることがわかった。
  • ACSS2 を維持しACLYを抑えた CD8T細胞はチェックポイント治療と強く強調してガン免疫を高める。

以上が結果で、代謝と転写が極めて複雑に関わっていることを見事に示した力作だと思う。

ただ、この研究はこれまで紹介してきたキラー活性維持研究を深く理解するためにも重要なヒントを示してくれる。例えば、試験管内でキラー活性を維持するためにはグルコースの利用を抑えるといいことがわかっているが、この結果から ACLY 経路を高めてしまった結果と言える。しかし代謝はややこしく、いつも頭が混乱する。

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