先日紹介したように、2月21日「ガンと代謝」というタイトルで Zoom ジャーナルクラブを開催し、その後Youtubeで配信しようと計画している。ただ、ガンと代謝というテーマはあまりに大きすぎるテーマで、しかもガンごとに代謝プログラムは異なっているので、まとまるかどうか心配している。このガンの代謝の複雑さを理解いただくための論文を探しているが、うってつけの論文が2月12日英国フランシス・クリック研究所から Nature にオンライン掲載されたので、これもジャーナルクラブで取り上げようと思うが、予告編として個々に紹介する。タイトルは「Intrinsic electrical activity drives small-cell lung cancer progression(小細胞性肺ガンの進展に必須の電気活動の多用性)」だ。
タイトルにある小細胞性肺ガンは肺ガンの中でも最もたちが悪く、発見されたときには転移している。40年前に臨床にいた頃私も経験したが、悪い思い出しかない。当時から、小細胞肺ガンはホルモンを産生したり、神経内分泌細胞に似た性格を持っていることが知られていた。
この研究は最初から、神経内分泌性を持つ (NE) ガンは名前の通り神経興奮性が存在し、この興奮性が小細胞性肺ガンを悪性にしている大きな要因であるという仮説で実験を行っている。
まず、培養細胞のパッチクランプで電位依存性の興奮が起こること、さらに一つの細胞から次の細胞へ興奮を伝搬できることを明らかにする。同じような伝搬はグリオーマでも見られ細胞間のギャップ接合によることがわかっているが、小細胞性肺ガンの場合シナプスとよく似て、膜から小胞が放出され、アセチルコリンをメディエーターにして次の細胞のカルシウム流入を誘導することを突き止めている。
さらに、光遺伝学的手法を用いてマウス肺に発生させた小細胞性ガンが、交感神経と神経接合を形成しており、また NE細胞間での興奮伝達がカルシウムの波として観察できることを示している。
ここまでは代謝とは関係ない話だが、ガン細胞が興奮しているとすると、当然エネルギー、この場合は ATP の合成が必要になる。実際、この細胞ではグルコース分解経路はあまり活性化されておらず、もっぱらミトコンドリアの電子伝達系を介して ATP が合成されていることがわかる、この点で他の肺ガンとは代謝システムが全くことなっている。一方、小細胞性肺ガンでも NE 以外の細胞はグルコース分解と乳酸産生が上昇している。また、遺伝子発現でもこのプログラムの違いを確認できる。
さらに面白いのは、NE と NE以外 (NNE) を比べると、NNE では合成した乳酸を外へ排出するトランスポーターが発現している一方、NE では逆に乳酸を取り込むトランスポーターが発現していることで、このおかげで NE は NNE からでた乳酸を利用して、ATP合成を高めることができている。実際、この取り込みに必要なトランスポーターをブロックすると、NE型肺ガンの興奮活性は低下する。
そして最後に、この興奮性がガンの悪性化と関わるかを調べている。アセチルコリン受容体を刺激するテトラドトキシンで NE型細胞を処理すると、残念ながら細胞の増殖は抑えられ、場合によっては細胞死が見られる。しかし、テトラ度トキシンで24時間処理したあと、よく洗ってその細胞を脾臓に移植すると、前処理した細胞の肝臓転活性が2倍程度上昇する。すなわち、興奮によるカルシウム流入により、cAMP を介する刺激経路が活性化し、転移性が上昇している。
以上の結果から、神経興奮性を獲得することで、それに答えるため代謝システムをリプログラムする必要はあるが、この結果周りの神経からの刺激を利用してガンがさらにホストにフィットできるように変化することが示された。このようにガンの性質変化に代謝変化が必須であることが示されていると思う。