2月11日 肺線維症と骨形成の類似性(2月5日 Nature オンライン掲載論文)
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2月11日 肺線維症と骨形成の類似性(2月5日 Nature オンライン掲載論文)

2025年2月11日
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論文を読んでいて、著者の視点とは違ったところに目が向いてしまうことはしばしばだ。今日紹介するコロンビア大学からの論文は、肺の繊維化のメカニズムを追求した論文だが、読んでいて肺線維症と骨形成の類似性に驚いた。タイトルは「RUNX2 promotes fibrosis via an alveolar-to pathological fibroblast transition(RUNX2は肺胞線維芽細胞から病的線維芽細胞への転換を促進して繊維化を誘導する)」で、2月5日 Nature にオンライン掲載された。

論文自体は、様々な分子マーカーラベリングを用いて、マウス肺線維症モデルで異常増殖する線維芽細胞の系譜を特定し、その細胞が異常増殖を始めるシグナルを、single cell 解析とノックアウトを駆使して調べるオーソドックスな研究だ。ただ、その過程で肺線維症を促進している分子が骨形成に関わる分子とオーバーラップするのに驚いた。

まず胎児期肺の増殖線維芽細胞のマーカーとしてレプチン受容体 (LEPR) を使っているが、LEPR は成熟後の骨形成と脂肪細胞への分化経路で骨形成を促進している。このマーカーは肺の様々な線維芽細胞に発現しているが、LEPR に加えて様々な分子マーカーを用いた研究から、肺線維症で異常細胞へと転換するのは肺胞の線維芽細胞であることを確定する。

この細胞がマウスではブレオマイシン刺激やシリカ刺激により、異常増殖と分化が誘導されるが、この異常化を標識する分子が骨芽細胞特異因子として知られるペリオスチン (POSTIN) と骨芽細胞分化を誘導するカプリング因子として知られる CTHRC1 で、私の勝手な印象だが肺の異常線維芽細胞とはまさに骨芽細胞に近いことになる。実際、ペリオスチンを線維芽細胞でノックアウトすると、肺線維症の発生を抑えることができる。

そして極めつけは RUNX2 だ。この分子は異常線維芽細胞と正常を比べることで特定されたが、Runx2 遺伝子ノックアウトマウスでは骨形成が完全に阻害されることが知られている。肺線維症でも、Runx2 を肺の線維芽細胞でノックアウトしておくと肺線維症の進行を抑えることができる。

これはマウスだけではなく、人間の突発性肺線維症のデータベースを調べると、RUNX2、ペリオスチン、CTHRC1 全て発現が見られる。

結果は以上で、もちろんこの研究では肺線維症に関わる他の遺伝子についても調べているが、論文で強調しているのはこの3種類の分子と言っていい。ここからは私の勝手な印象になるが、まさに骨形成に関わる遺伝子プログラムのスイッチが入ることが肺線維症を誘導していることになる。

現在、突発性肺線維症の薬物療法としては、それぞれ標的がはっきりしないニンテナニブとビルフェニドンが用いられるが、特にニンテナニブは骨代謝の影響が示されている。全て線維芽細胞のバリエーションだと考えればそれでいいのだが、肺線維症と骨形成のつながりは、将来の薬物治療の可能性を広げる気がする。

さらに妄想を広げると、骨は硬骨魚類から存在するが、成熟後も骨形成を活発に維持する必要が生まれたのは、脊椎動物が陸上に上がって骨髄ができてからだ。もちろん、陸上に上がるには肺の形成が必要になる。そう考えていくと、肺線維症と骨形成は大きな進化の枠で捕らえることができる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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