2月25日 死因についての前向き研究(2月19日 Nature Medicine オンライン掲載論文)
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2月25日 死因についての前向き研究(2月19日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2025年2月25日
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UKバイオバンクのような大規模コホートは時間がたつほどその価値が高まってくる。特に死亡統計を全く新しいものに変化させる可能性を秘めている。現在の死亡統計は、死亡の直接原因を書いた診断書に基づくことが多い。報道でよく聞くが老衰による死亡などは、個人の死因としては意味を持つかもしれないが、死亡統計から長生きのための手段を探し出す目的には全く無力だ。これに対し、大規模バイオバンクは時間がたつにつれ登録者の死亡数が増えていくので、それまで検討が難しかった死亡に至る要因を分析できるようになる。

今日紹介するオックスフォード大学を中心とする研究グループからの論文は、UKバイオバンクへの登録者の中で75歳以前に亡くなった ( PD ; preature death ) ケースを集めて、ゲノム、環境、年齢、性別などと PD との相関を調べた研究で、2月19日 Nature Medicine にオンライン掲載されている。タイトルは「Integrating the environmental and genetic architectures of aging and mortality(老化と死亡の環境と遺伝要因を統合する)」だ。

この研究の責任著者は、昨年8月に死亡リスクを直接反映する血液検査(https://aasj.jp/news/watch/25007)を開発したグループで、UKバイオバンクの特長を生かした疫学研究を続けている。今回の研究では、このとき開発した血液検査による老化の指標も用いて、75歳以前に死亡するリスクを決める様々な要因を調べている。

老化やそれに関わる病気の遺伝子リスクに関してはすでに多くのデータが蓄積しており、UKバイオバンクに関してはこれらを即座に参照して遺伝の影響を調べることができる。従って、遺伝要因は後回しにして、UKバイオバンクに記載されている様々な環境要因のうち、PD に関わる要因を選び出すことがこの研究の重要な課題になる。

50万人に近い登録者の平均年齢は55歳で、これまですでに7.3%が亡くなっている。そのうちの74%が PD で、すでに2万を超しており統計的にも十分な数に達している。

UKバイオバンクでは、暖炉を使っているかといった点まで、なんと164項目の環境や習慣を調べた項目があり、この中から間違いなく PD と相関している要因を絞っていく作業を行っている。その結果、喫煙や借家・自宅などの経済項目を含む95項目に絞られている。

これらの項目は二次的な相関を持つ要因が混じり込んでいるので(例えば暖炉や自宅などは収入の結果になる)、これらを除き、また先に開発した血液検査による死亡リスクとの相関も含めてリスク要素を絞り込んで、最終的に25項目の要素が PD とそれに繋がる様々な老化と関わる疾患と関連することを明らかにする。

予想通り、死亡リスクにポジティブに関わる要素は、喫煙、貧困がトップに来る。一方、人種、運動、収入、パートナーとの同居などはリスクを軽減する。面白いところでは、10歳時点で背が低かった方がリスクが低い。

これらの結果は、すでに多くの論文で発表されていることだが、全てまとめて、しかも血液検査による老化指標も含めて総合的に調べた点がこの研究の特長になる。

その上で、老化に伴って発症率が高まる様々な病気についても、遺伝と環境のリスクを計算することが可能になる。例えばリンパ腫、肝臓ガン、リュウマチなどは殆ど遺伝要因の寄与はない。また、リンパ腫に至っては年齢だけがリスクファクターになる。一方、乳ガンでは遺伝要因が高く、年齢のファクターは殆どない。また、肝炎などは殆ど環境要因が大きいといった具合だ。

25項目について自分で当てはめてみると、50歳近くまで喫煙者であったことを除くと、長生きの要因がありがたいことに揃っていた。しかし、この要因を見るにつけ、貧富の格差を以下抑えて、国民の健康を維持するかが政治の役割であることがよくわかる。

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