過去記事一覧
AASJホームページ > 2025年 > 11月 > 6日

11月6日 身体が弱るとアミノ酸を避ける(11月4日 Cell オンライン掲載論文)

2025年11月6日
SNSシェア

動物の行動、特に食に関する行動研究には驚くことが多いが、対象になる行動が存在することによく気がつくなといつも感心する。

今日紹介するイェール大学からの論文は絶食や炎症で身体が弱ったときにマウスがアミノ酸の含まれる食品だけを忌避するという行動のメカニズムを解析した研究で、11月4日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Gut-to-brain signaling restricts dietary protein intake during recovery from catabolic states(腸から脳へのシグナルが、異化状態から回復している時期のタンパク質の摂取を制限する)」だ。

この研究ではまず絶食させてマウスの代謝を分解の方向(異化状態)に引っ張った後食事をとらせるとき、高脂肪食、高炭水化物食、そして高タンパク食を提供すると、高タンパク食だけ摂取が低下することを発見する。「よくこんな可能性を思いついて実験するな」というのが正直な印象だが、絶食に限らず低温や炎症などで身体の代謝が異化状態になったときには必ず起こるようだ。

まず高タンパク食を忌避しているのか脳の反応を調べると、食の忌避に関わる孤立核の興奮が観察される。従って、身体が弱っているときはタンパク質の多い食を忌避するよう行動することになる。

タンパク質はアミノ酸に分解されるので、次にどのアミノ酸が忌避反応を誘導するのか一つ一つ調べていき、最終的にグルタミン、リジン、スレオニンの3種類がこの反応を誘導していることがわかった。大事なのは身体が異化状態にあるときだけで、通常はこれらのアミノ酸を食べても問題はない。そして異化状態にあっても、この3種類のアミノ酸を抜いた食事であれば普通に摂食する。

この3種類のアミノ酸の持つ共通のシグナルを探索するため、食べた後の血液のメタボロームを調べると、特にこの3種類のアミノ酸をとったときに血中のアンモニア濃度が上がることに気づく。実際、アンモニアへの転換酵素をブロックすると、忌避行動は見られないことから、身体が弱っているときタンパク質をとるとアンモニアが上昇し、肝臓での解毒や腎臓での排出が必要になるので、特に3種類のアミノ酸から発生するアンモニアが身体に悪いタンパク質をとらないようシグナルを出すことがわかった。

次は腸管で発生したアンモニアを感知する仕組みを調べるため、TRPV1 や TRPA1 のようなセンサーをノックアウトする実験を行い、わさびを感知する TRPA1 を刺激すると、孤立核の興奮が高まり忌避行動が起こることを突き止める。

そして最後に、TRPA1 は腸内のクロマフィン細胞で発現されており、アンモニアにより刺激されるとセロトニンを分泌、これが迷走神経を刺激して孤立核の反応を誘導することを、主にノックアウトマウスを用いた実験から明らかにしている。

結果は以上で、通常アンモニアはすぐに肝臓で解毒されるが、異化状態が続いて肝臓の状態が悪い場合、アンモニアをシグナルとして食の忌避反応が誘導されるという結論になる。人間にも当てはまるのかはわからないが、必要なシステムは人間にも存在する。病気の回復のためにタンパク質を摂取することが重要と考えがちだが、肝臓の解毒キャパシティーなどを考えないととんでもない結果を招くことも知られている。この研究からも状態に合わせた栄養補給の重要性がわかるが、それを本能的に察知して行動に移す仕組みが存在するのには感心する。

カテゴリ:論文ウォッチ
2025年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930