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11月16日 腸内細菌の遺伝子改変(11月13日 Science 掲載論文)

2025年11月16日
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我々の腸内に存在する様々な細菌の遺伝子を改変することは遺伝子編集の重要なゴールになっている。細菌の遺伝子改変など楽勝と考える人もいるかもしれないが、何千何万種類の細菌が存在する腸にどのように遺伝子を運んでどのように選択するのかと考えてみると、並大抵の課題でないことがわかる。それでも、少しづつ技術開発は進展しており、このブログでも何回か紹介してきた((https://aasj.jp/news/watch/6765 )(https://aasj.jp/news/watch/27611 )。

今日紹介するコロンビア大学からの論文は、細菌叢の遺伝子操作としては一段階高いレベルに到達できたことを実感させる研究で、11月13日 Science に掲載された。タイトルは「Metagenomic editing of commensal bacteria in vivo using CRISPR-associated transposases(常在菌ゲノムを対象とするCRISPRに連関するトランスポゼースを用いる遺伝子編集)。

この研究ではCASTと呼ばれるCasの切断活性をトランスポゼース活性に置き換えたCRISPRシステムを用いている。このシステムでは特定の配列を持つバクテリアの領域を、CRISPRで認識し、そこに同じプラスミドに組み込んだ新しい遺伝子配列をトランスポゼースで組み込むことができる。

次にこれらのシステムを、このグループが開発してきた様々な細菌に対して水平遺伝子伝搬を可能にする IncPα-family RP4 system と呼ばれるプラスミドに組み込んで大腸菌に導入し、これを腸内に送り込んで他のバクテリアに遺伝子を届けるという戦略をとっている。即ち、このプラスミドを用いて特定のバクテリアの特定のゲノム部位を狙ったCASTシステムを送り込めると、その部位に遺伝子が組み込めることになる。

遺伝子配列はバクテリアごとに特異的配列を選べるので、遺伝子伝搬には特異性はないが、組み込まれるとバクテリア特異的に遺伝子を発現させることができる。これを腸内に最も多く存在するBacterioidesの5系統を移植した無菌マウスに、それぞれの系統特異的配列を標的にして遺伝子導入を行うと、見事に系統特異的遺伝子導入が可能になることを示している。また、SPFマウスに常在するBacterioidesにも同じように遺伝子導入を行えることを示している。

次は、遺伝子導入されたバクテリアを長期間維持できるシステムの開発で、水溶性植物繊維を分解して利用できる酵素を一緒に導入し、食事の中にイヌリンを混ぜることで、遺伝子を新たにくみこんだ細菌がBacterioides全体のなかの30%を占めるまでになり、イヌリンが存在する限り長期間増殖を続けることを明らかにしている。

最後に粘膜と直接相互作用して腸内免疫に強い影響を持つセグメント細菌 (SFB) も、朝刊内で遺伝子組み込み可能かについて調べている。まだまだ通常の細菌叢が存在する条件で遺伝子組み換えを誘導するまでには至っていないが、SFB菌のみを移植した無菌マウスを用いて3%ぐらいの効率で蛍光遺伝子を導入できることを示している。

以上が結果で、一般の人から見るとわかりにくいと思うが、腸内細菌叢の遺伝子改変の困難についてよく認識できている立場から見ると、かなり大きな進展があったと感じる。さらに、今回示されたシステムはまだまだ改良の余地がある。その点で、ようやく狙った細菌を腸内で操作できる時代が近づいたと思う。

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