11月22日 多発性嚢胞腎のIgA抗体治療(9月16日号 Cell Reports Medicine 掲載論文)
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11月22日 多発性嚢胞腎のIgA抗体治療(9月16日号 Cell Reports Medicine 掲載論文)

2025年11月22日
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9月に発表されているのに見落としてしまっていた論文で、重要だとお思ったので遅ればせながら紹介することにした。カリフォルニア大学サンタバーバラ校から9月16日 Cell Reports Medicine に掲載された論文で、多発性嚢胞腎にHGF受容体cMETを抑制し、嚢胞内に移行して働くIgAを用いて治療する可能性を示した研究だ。タイトルは「Development of a cyst-targeted therapy for polycystic kidney disease using an antagonistic dimeric IgA monoclonal antibody against cMET(機能阻害性の IgA 2量体モノクローナル抗体を用いて嚢胞を標的にした多発性嚢胞腎の治療)」だ。

多発性嚢胞腎 (PDK) は様々な原因で起こるが、さまざまな遺伝的原因の研究から嚢胞の発生メカニズムは驚くほど共通の原理に基づくと考えられている。すなわち、尿流の感覚システムの破綻などによるシグナル変化で細胞内の cAMPが高まると、上皮構造を維持する機構が壊れ、管腔の代わりに嚢胞ができ、テンション、炎症、代謝変化、増殖因子がそれに働いて嚢胞が拡大すると考えられている。

このメカニズム理解に基づき、最初の段階を抑制するバソプレシン受容体阻害薬が農法形成を抑える薬剤として認可されているが、他にも京大CiRAの長船さんのレチノイド作動薬による管腔維持、代謝を標的にするメトフォルミン、そして上皮の増殖を抑えるキナーゼ阻害剤まで、さまざまな治療候補が研究されている。ただ、バソプレシン阻害剤も含め、これらの薬剤を長期に使った時の副作用の問題が常に付きまとう。

今日紹介する研究は、上皮が増殖して嚢胞が拡大する過程を抑制するため、嚢胞に蓄積されていることが知られているHGFの刺激を受ける受容体 cMETを標的にしている。もちろんこれまでもこれら増殖受容体は標的にされてきたが、この研究の特徴はIgAを内側から外側へと移送する分子が嚢胞に強く発現していることを利用すると、cMETに対するIgA抗体を用いることで、抗体が嚢胞に蓄積して、嚢胞上皮の増殖をより特異的に抑えられる可能性を狙っている点だ。

このため、cMETに対するモノクローナル抗体のFc部分をIgAに置き換え、粘膜を通過するためのJ鎖も加えて2量体を作らせ、これを精製してPDKモデル動物に用いている。

まず試験管内でこのIgA抗体が cMETシグナル抑制効果を確かめ、さらに上皮により内腔側に移行する事を確認した後、ラットに自然発生したPDK系統(Pkdr1遺伝子欠損)に腹腔内投与し、抗体が期待通り嚢胞に移行し、他の組織より高い濃度を保つこと、そして嚢胞上皮の増殖を抑えることを確認する。

次はマウスモデルで、嚢胞化が急速に進むBicc1 (RNA結合タンパク) 欠損マウスに生後7日から一週間投与する実験を行い、組織学的に嚢胞の拡大をかなり阻止できること、上皮の増殖を抑えること、そしてクレアチンレベルで見た腎機能を改善できることを確認している。面白いのはただ cMETシグナルが低下するだけでなく、上皮の細胞死も誘導する点で、IgAによる白血球依存的細胞障害性反応も起こっている可能性がある。

最後に、尿流感知に関わる遺伝子Pkd1を生後欠損させた夜緩やかに進行するマウスモデルへ2週間隔日投与を行い進行抑制効果を調べている。このモデルでは見た目の抑制効果は遙かに強い。組織学的にも皮質はよく保たれており、髄質の嚢胞の数も少ない。機能的には血中クレアチンレベルやBUNで見ても効果は高い。

以上が結果で、この急性実験では特に副作用はなかったとしている。ただ、METは肝臓にも重要だと思うので、治療を続ける必要のあるPDKの場合長期投与での副作用は重要な問題だと思う。ただ、この研究を見て重要だと思ったのは、上皮がIgAを管腔側に運び出す点で、これを利用することで他の薬物を抗体に運ばせ、嚢胞の中で濃縮する可能性が生まれる点だ。即ち、かなり低い濃度でもIgAに運ばせることで嚢胞内で有効濃度を達成できる可能性がある。その意味で、この研究はPDKに新しい道を開くと思う。

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