5月16日 ホモエレクトスがデニソーワ人と交雑していたかもしれない(5月13日 Nature オンライン掲載論文)
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5月16日 ホモエレクトスがデニソーワ人と交雑していたかもしれない(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月16日
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ホモエレクトスはユーラシア全体に分布し、例えばジャワ原人とか北京原人とか土地の名前がついていた。エレクトスの登場は、その名前の由来の直立歩行だけでなく犬歯がなくなり男女の体格差がなくなるなど、本当の人間への進化が始まったことを意味する。。200万年から100万年前に棲息して、我々とはほとんど重なりがないと考えられていたが、アフリカやアジアでは他の人類と重なって生きていた可能性があり、当然交雑が起こったかどうかが問題になっていた。

今日紹介する中国アカデミー・人類起源と脊椎動物進化研究所からの論文は、中国各地から出土した40万年前後に棲息していたホモエレクトスの歯のエナメルタンパク質のペプチド解析から、ホモエレクトスを特定するアミノ酸多型を特定し、また、デニソーワ人とホモエレクトスの交雑の可能性を追跡できる新しいアミノ酸多型も開発した驚くべき研究で、5月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Enamel proteins from six Homo erectus specimens across China(中国の6体のホモエレクトス由来のエナメルタンパク質)」だ。

北京の中国科学アカデミーは、古代タンパク質の研究では世界トップの力量があるように思う。昨年も、ハルピンから出土した化石がデニソーワ人である事を証明した見事なタンパク質解析論文を発表している(https://aasj.jp/news/watch/26958)。

このテクノロジーを北京原人で有名な周口店、公王嶺、そして和県から出土した全6体の由来の歯の化石に適用して、11種類のエナメル分子の一部をカバーするアミノ酸の配列を決定している。全く知らなかったがY染色体にコードされたエナメル分子が存在し、その断片の有り無しによって、男の歯か女の歯かが決定できるらしい。この結果今回解析したうち5体が男性、1体が女性と判定された。

この研究のハイライトは、ホモエレクトスを特定するためのアミノ酸多型を特定したことで、アメノブラスチンタンパク質253番目が、人間、ネアンデルタール人、デニソーワ人ではアラニンであるのが、ホモエレクトスでは全てトリプトファンに変化していた。この結果は重要で、今回解析された和県由来のホモエレクトスは形態的にも他と大きく異なっているため、デニソーワ人の子孫でないかという極論まで存在していた。しかし今回の研究から、この多型はホモエレクトス型である事が明らかになった。

アメロブラスチンには他にも人類間で差があるアミノ酸多型が見つかった。それは273番目のアミノ酸で、ホモエレクトスはバリン、ホモサピエンスやネアンデルタール人ではメチオニンがくる。ところが、デニソーワ人を調べると、メチオニンとバリンの多型が両方存在することがわかった。もちろんこれだけでホモエレクトスとデニソーワ人の交雑があったとは結論できないが、デニソーワ人の祖先はまずネアンデルタール人と別れてネアンデルタール人に遺伝的に最も近いこと、さらに東アジアのエレクトスの形態がデニソーワ人に近いと言われていたこと、また時代的にも両方が同じ場所に存在していた可能性があることから、交雑によりこの多型がデニソーワ人に移行した可能性は十分ある。

さらに驚くのは、同じバリン型多型は、我々ホモサピエンス、特にフィリピンなど東アジアの人類で一定程度見られる点だ。東アジアのホモサピエンスが、5万年前後に出アフリカを果たしたホモサピエンスの子孫と考えると、この多型は後から突然変異で生じたか、デニソーワ人との交雑でホモサピエンスに移行した可能性も高い。

以上、古代タンパク質の解析から、デニソーワ人とホモエレクトス、またデニソーワ人とホモサピエンスの交雑を調べるためのマーカーが決定された。まさに大興奮の論文で、今後が楽しみだ。

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