2026年1月5日
二型糖尿病はインシュリンが効きにくくなるインシュリン抵抗性と呼ばれる時期に、それに対抗するためインシュリンを過剰に分泌するため膵臓のβ細胞が頑張りすぎて、最終的に力つきて死んでしまう結果と考えられている。これに対し、インシュリンと一緒にβ細胞から分泌されるアミリンという小さなタンパク質が、アミロイド線維を形成し、これが細胞死の原因になるという考えもある。事実、2型糖尿病では経過とともにアミロイドの蓄積が見られ、これを抑制することでβ細胞を保護する研究も進んでいる。一方、β細胞が自己免疫で傷害される一型糖尿病ではアミロイド形成は起こらない。
今日紹介する上海交通大学からの論文は、2型糖尿病で膵臓の腫瘍を併発した患者さんの外科的に切除した膵臓からアミロイド線維を抽出し、その構造を解読し、アミロイド線維もβ細胞変性に十分関わる可能性があることを示した研究で、1月2日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Structure of pancreatic hIAPP fibrils derived from patients with type 2 diabetes(膵臓の2型糖尿病患者さん由来のhIAPP線維の構造)」だ。
タイトルのhIAPPとはアミリンのことで、ここではアミリンとする。これまでアミリンが膵島でアミロイド線維として沈着しており、抗体も開発されていたが、実際のアミロイド線維を抽出することは出来ていなかった。この難関を克服したのがこの研究だが、抽出方法の詳細は全て割愛する。
こうして得られたアミロイド線維の構造をクライオ電顕で解読し、
一つのアミリンがΩ型の平べったい構造をとり、2個のアミリンが相補的に2量体を形成している。
この結果極めて安定的な平面ユニットが縦に重なって線維が形成される。
これまで試験管内でアミリンからアミロイド線維を形成することが可能だったが、実際の組織から抽出したアミロイド繊維と比べると、21番目から37番目のアミノ酸で、線維形成の分子同士の重合のインターフェースは構造が一致するが、他の部分は大分異なっている。ただ、7-18番目の構造は、組織由来の線維を加えて線維化させることで、構造が似る。すなわち、組織内に存在するまだわかっていないリガンドの助けを得ることで、今回示された構造が形成されることになる。
また、組織内のアミロイド線維は正常アミリンを線維型に変化させる播種効果があることが構造からもわかるが、アルツハイマー病でのβアミロイドと構造を比べると、構造的にはよく似ているので、ひょっとしたらこれまで言われてきたように、膵臓のアミロイドがアルツハイマーアミロイドを誘導する可能性があるかも知れない。
以上が結果で、実際の線維をクライオ電顕で解析できるまでに組織内から抽出したことが最も重要な研究だ。構造を見て、2型糖尿病もアミロイド病である可能性をかなり受け入れる気になった。
2026年1月4日
血液幹細胞の一部が普通より少し高い増殖能を獲得すると、クローン性造血という状態が発生する。白血病のように、他の正常クローンを完全に圧迫するほどではないが、この状態に他の遺伝的あるいはエピジェネティックな変化が付け加わると、骨髄異形成症候群や白血病へと発展する。クローン性造血を誘導する遺伝子変異も研究が進んでおり、JAK2のように直接増殖に関わる変異もあるが、DNMT3a、TET2、ASXL1のようなエピジェネティック過程、即ち結果として様々な遺伝子の発現を変化させる変異によるケースが多い。
今日紹介するハーバード大学とスローンケッタリングガン研究所からの論文は、UKバイオバンクの大規模データを用いて、クローン性造血を抑制する一塩基変異 (SNP) を特定し、クローン性造血を抑えるメカニズムをヒト血液幹細胞を用いて示した研究で、クローン性増殖を考える上でも重要な研究だ。タイトルは「Inherited resilience to clonal hematopoiesis by modifying stem cell RNA regulation(クローン性造血に対する遺伝的耐性は幹細胞のRNA調節を変化させることで達成できる)」だ。
UKバイオバンク及び Geisinger health study に登録された人たちの中から5万人のクローン性増殖を示す人を特定し、発生率と相関する遺伝子座をゲノムチップで探索し、17番染色体のSNP、rs17834140を特定する。このSNPを持っていると、原因となる変異を問わずクローン性増殖を抑えることができる。
このSNPが存在するゲノム領域を調べると、MSI2遺伝子のイントロン領域にあることがわかり、クロマチンはオープンで血液幹細胞の転写に関わる様々な遺伝子が結合するエンハンサー領域であることがわかった。そしてこのSNPではGATA2結合が低下することも明らかになった。これはドンピシャの当たりで、MSI2 (Musashi-2) は慶応の岡野さんが若い時代にショウジョウバエで発見した幹細胞維持に関わることが知られているRNA結合タンパク質で、白血病のリスク遺伝子として知られていることから、クローン性造血と相関したことは納得できる。
MSI2ノックアウトマウスは筋肉、骨、生殖細胞の発達低下が見られるが、正常に生まれてくる。逆に、この研究の結果と同じで、欠損マウスは白血病にかかりにくいことが知られている。
人間の臍帯血幹細胞を用いてMSI2をノックアウトすると、幹細胞の自己再生が低下するが、完全に消失するわけではない。またSNPに相当するエンハンサー領域だけノックアウトすると、自己再生の低下の程度はずっと緩やかになり、2割程度の低下で終わる。
この研究ではこの遺伝子が過剰発現したヒト血液幹細胞と、MSIノックアウトやエンハンサーノックアウトで変化するRNAを調べ、MSI2結合RNAにより強く調節を受けている208種類のRNAを特定し、これらの多くが協調して血液幹細胞の自己再生を助けるネットワークを形成していることを明らかにしている。即ち、MSI2のエンハンサー機能異常により、このネットワーク全体の活性が少し低下することが、クローン造血を抑えていることを示唆している。
これを証明するため、ASXL1変異を導入したヒト幹細胞を作成し、これにMSI2ノックアウト、あるいはエンハンサーノックアウトを組み合わせる実験で、クローン性造血を強く抑えることを示している。また、ヒトでの実際の効果を確かめるため、クローン増殖が認められたヒトの5年後の状態を調べると、このSNPを持つ人ではクローン性造血の進展がほとんど見られないことも確認している。最後にマウスモデルも作成して、同じ結果が見られることを示している。
以上が結果で、自己再生を少し低下させることで正常の造血は維持したままクローン性造血を減らせること、また血液細胞の自己再生がRNAレベルの調節でマイルドに調節されていることが明らかになり、今後クローン性造血だけでなく、白血病発生を理解するにも重要な貢献だと思う。
2026年1月3日
協力を成立させる脳を研究するためには、最低2個体に一つの課題を学習させる必要がある。ただ、学習可能な協力レベルは動物ごとに異なる。例えば、レバーを押した時に、まず相手に褒美が与えられ、次に相手がレバーを押したときだけ自分に褒美が来るような、将来の可能性のための協力関係はチンパンジーでも難しい。一方、相手の動きに自分を合わせることで褒美を得るような課題はマウスでも可能だ。
今日紹介するUCLAからの論文は、二匹のマウスが褒美を得るために協調することを学習したとき形成される脳回路の示す特徴を、同じ課題を学習した2台のAIも示すようになるかを調べた研究で、1月1日 Science に掲載された。タイトルは「Neural basis of cooperative behavior in biological and artificial intelligence systems(生物学的及び人工知能システムでの協調行動の神経基盤)」だ。
研究ではまず2匹のマウスを透明な仕切りで相手が見える2つの部屋に入れて自由に行動させる。この部屋の端には鼻を突っ込む穴があり、反対側に水が出てくる孔が設置されている。マウスが単独で鼻を突っ込んでも水にはありつかないが、両方がほぼ同時に鼻を突っ込むと水にありつけるという課題で、協調することを学習させる。すると、徐々に成功率が上がって、相手に合わせて鼻を突っ込むようになる。こうして得られた学習効果は、間仕切りを不透明にして相手が見えないようにすると、全く消失する。即ち、完全ではないがこのレベルだとマウスでも協調行動を学習させることができる。
行動を分析すると、協調行動は孔に向かうアプローチ、すぐに鼻を突っ込まずに少し待つ行動、そして相手の場所を見て相手に合わせる行動に分析できる。この研究では最初から前帯状皮質神経だけに焦点を絞って、これらの行動に対応して反応する神経群が存在すること、またその活動記録からマウスの行動を解読できること、そして前帯状皮質神経活動を抑えるとこの学習効果がなくなることを示している。
動物を使った事件概要は以上で、おそらくこれだけでは Science に採択されなかったと思う。この研究のハイライトは、動物実験というより、同じ課題を2台の独立した再帰型ニューラルネットワークに Proximal Policy Optimization と言う学習アルゴリズムで別々に学習させている。それぞれのAIは自分の位置、行動、相手の位置行動がインプットとして入るようにしている。最初は全くランダムな行動の中で、協力すると報償が得られることを学習するまで、実際には4000回の学習を行わせている。
結果、全く協調ということを教えなくても、それぞれのAIは強調して報償を得ることを学習するようになり、この時のAIの行動でも、鼻を突っ込む行動を少し待って、相手の行動に合わせて次にとる行動の確立を決めるようになっていることがわかり、強化学習AIも学習したマウスと同じように行動していることを示している。
次からは完全に理解できているわけではないのだが、使った再帰性ニューラルネットワークを構成する256ユニットの活動を時間的に解析し、待つ行動に対応するユニット、相手の状態を表象しているユニットを特定できるとしている。
このような強化学習AIのユニットを神経活動とそのまま対応させていいのかは素人なのでわからないが、何も教えなくても強化学習が新しい課題を学び、行動的にはほぼ動物と同じ学習を行っていることから、実際の脳とニューラルネットを比べることで、両者の新しい理解につながっていくのだと思う。おもしろい。
2026年1月2日
真菌感染は人類にとってまだまだ勝利宣言が難しい感染症で、WHOによると何年380万人の方が亡くなっている。私が医師として働き始めた1973年には、アンフォテリシンB(当時ファンギゾンという製品名だった)が利用可能になっていたが、強烈な副作用で使いたくない薬剤だった。ただ、この分野も少しづつ進歩しており、2001年からエキノキャンディン系の抗生物質が認可されるようになり、副作用の少ない抗菌治療が可能になってきた。クリプトコッカスはメカニズム的にCAPの標的になるが、他の真菌と比べると効果が低いことから、エキノキャンディンを助けるアジュバント薬の開発が行われていた。
今日紹介するカナダ・マクマスター大学からの論文は、放線菌や真菌由来の4000種類の化合物ライブラリーを、エキノキャンディンの一つ caspofungin (CAP) のアジュバントとして利用できるかスクリーニングし、最終的に Butyrolactol A (BLA) を発見した研究で、2月31日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Butyrolactol A enhances caspofungin efficacy via flippase inhibition in drug-resistant fungi(Butyrolactol はフリッパーゼ阻害を通して薬剤耐性の真菌に対しcaspofunginの効果を高める)」だ。
スクリーニングで得られたBLAは、それ自身でも少し抗菌活性があるが、CAPと組み合わせると、2種類のクリプトコッカスを試験管内で抑制する。またマウス皮膚にクリプトコッカスを感染させる治療実験でも、CAPと組み合わせるとほぼ感染による死亡を抑えることができ、組織学的にもクリプトコッカスの増殖が抑えられていることがわかる。さらに、マウスレベルでほとんど副作用がない。
後は、BLAの作用機序を様々な方法で検討し、
標的分子が膜のフリッパーゼの一つApt1-Cdc50に結合し、本来の基質と競合することでフリッパーゼ活性を完全にブロックすることを明らかにする。フリッパーゼについて少し説明すると、膜の外と内の脂質を入れ替える働きを持つ酵素で、例えば膜の構成成分フォスファチジルセリンやフォスファチジルコリンを膜の内側に輸送している。
この阻害機構について構造学的に解析し、BLAがApt1と結合することで、脂質を移送する入り口を物理的に詰まらせる。
その結果、エンドゾームの形成が阻害され、アクチンの極性が喪失し、ATPが細胞外へと漏れ出し、細胞死に陥る。
また、この機能変化により、CAPの細胞内濃度が上昇することで、CAPの抗菌作用を促進させる。
フリッパーゼは我々の細胞にも重要だが、多くのフリッパーゼを持っており、また真菌の脂質に特異的に作用することから毒性が低いと期待できる。
結果は以上で、BLAは直接細胞を殺すわけではないが、フリッパーゼの機能をブロックすることで細胞の活性を低下させ、さらに細胞内のCAP濃度が高まることで、抗菌効果を高めるという結論になる。今後いくつかの動物を用いた前臨床から、臨床治験に進むと考えられるが、50年前ファンギゾンを使った経験がある医師なら、ゆっくりでも医学が着実に進んでいることを実感する。
2026年1月1日
読者の皆様、明けましておめでとうございます。5000回を目指して毎日書き続けてきた論文ウォッチも今年ついに5000回を迎える予定です。是非今年も論文ウォッチをよろしくお願いします。
さて、元旦の今日は Cell Metabolism にほぼ同時に発表された健康につながる生活習慣についての論文を2編紹介します。最初はオランダ マーストリヒト大学、スイス ジュネーブ大学、ドイツ リュウマチ研究センターからの共同研究で、仕事場での自然光の重要性を示した研究。タイトルは「Natural daylight during office hours improves glucose control and whole-body substrate metabolism(仕事中に自然光を取り入れるとブドウ糖のコントロールと全身の物質代謝を改善できる)」だ。
10人の2型糖尿病の患者さんに、窓から自然光が入る仕事環境と、全く人工光だけの仕事環境で4.5日づつ仕事をして貰って、持続的なグルコースモニター、血液検査、カロリメトリー検査、そして筋肉バイオプシーによる代謝物や遺伝子発現について、自然光と人工光の差を比べている。どの被検者も、4ヶ月の間隔を経て両方の環境での実験が行われているので、基本的には個人差の問題は解決できているとしている。
多くのデータが示されているが、まず注目されるのは、連続測定からわかる血中グルコースレベルの食事による変化が緩やかになることだ。もちろん4日ぐらいの実験で血中の糖尿病指標が変化することはないが、グルコースの正常域の時間が長くなることは重要だ。これと平行して、脂肪燃焼が終日上昇する事で、これも糖尿病にとっては重要だ。
もう一つの大きな変化は、概日周期に影響がある点で、例えば夜の唾液中のメラトニンの量が上昇することは、概日周期がよりはっきり刻まれることを示している。同じことは筋肉バイオプシーで得た細胞の培養の概日周囲に関わるPer1やCry1の発現で見ると、発現レベルが上昇している。
以上、同じ明るさで仕事をするにしても、窓の大きい環境で仕事をすることが健康に良いことを示している。
次はスペインのPablo de Olavide大学からの論文は、硫化水素を体内で発生する化合物が糖代謝や脂肪代謝を改善し、マウスを11%長生きさせるという研究で、タイトルは「Enhanced non-enzymatic H 2 S generation extends lifespan and healthspan in male mice(酵素非依存的に二硫化水素の合成が促進することで、雄マウスの寿命と健康寿命が延びる)」だ。
タイトルは硫化水素が長生きの元と読めてしまうので「何?」と不思議に思うが、実際にはニンニクなどが含む硫黄化合物が急性的にも慢性的にも健康長寿に重要であることを示した研究になる。ここで調べられたのは硫黄の付き方が異なる、diallyl mono-sulfide (DAM) 、diallyl di-sulfide (DAD) 、そしてdiallyl tri-sulfide (DAT) になる。まず、これらを水に溶かしてグルタチオンを加えたときに発生する硫化水素の量を量り、後者のDADとDATが酵素なしでも分解して硫化水素を発生させることを確認している。この結果は、DADやDATを経口摂取させると、肝臓に移行したときグルタチオンの働きで硫化水素が肝臓で発生することを示している。
後は正常食や高脂肪食を与えたマウスにDADを中心にDAM、DATを加え diallyl sulforated compound (DAS) を投与し、まず3時間後の肝臓の遺伝子発現を調べると、これまで長寿に関係するとして知られている様々な遺伝子の発現パターンが変化することを示している。また、AKTやS6分子のリン酸化を調べると、やはりDAS投与で大きく上昇し、DASが大きな効果を持つことが示された。
次は慢性実験で、雄マウス20週目からDASを与え続ける実験を行い、様々な時期で代謝を調べるとともに寿命を調べると、DAS 投与群では11%も寿命が延びている。しかも、寿命だけでなく、認知や筋力など身体機能の維持も出来ており、いわゆる健康寿命が延びている。
後は詳しく代謝を調べて、インシュリン分泌も含めてグルコース代謝がDAS投与で改善すること、脂肪の燃焼が高まること、高脂肪食摂取時の脂肪肝を抑えることなど、いいことづくめだ。肝臓細胞の遺伝子発現、プロテオームを調べると、代謝から炎症まで全て良い方向に変化することがわかる。
また硫黄が付加されたタンパク質の量が、肝臓だけでなく筋肉でも上昇しており、筋肉の低下を抑えていることを示している。
以上のように、ニンニクに含まれるアリシンが分解した化合物の驚くべき健康長寿延長効果が、その代謝学的エビデンスとともに示されている。ここでDAS150mg/kgがどの程度の量かが問題になる。例えば50kgの人では7.5gを摂取する必要があるが、調べてみると生ニンニクのアリシン含有量は230mgなので、ニンニクからこの量を摂取するのは現実的でなさそうだ。
最後に年賀の挨拶としてChatGPTに作って貰った年賀状を添付します。
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