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7月5日 社会問題の科学2:科学社会学(6月30日号 Nature掲載論文)

2016年7月5日
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   社会問題の科学特集2日目は、科学自体が抱える問題、すなわち科学社会学の論文だ。
   科学の発展を左右する一つの鍵は、分野の殻に閉じこもらず、様々な領域の研究者が協力して新しい分野を切り開く力だ。これを学際協力と呼ぶが、その手本と言えるのが、ネアンデルタール人ゲノム解読で有名なペーボさんが立ち上げたドイツライプチヒ・マックスプランク進化人類学研究所だろう。研究所の部門構成をみると、進化遺伝学、言語学、人間行動学、人間進化学、サル学、比較発生生理学からなっている。特に言語学と遺伝学のように全く離れた分野の学問が、人間進化学やサル学を仲立ちに一つの研究所に同居する部門構成をみるとペーボさんの未来志向がよくわかる。
   国も学際協力の重要性をよく理解しており、 例えば我が国の新学術領域のように助成を重点的に行う姿勢を示しているが、新しい学際的研究所が生まれるまでにはまだまだ道は険しい。
   この原因の一つは、学者自身の交流が狭いことにある。実際現役の頃を振り返ると、広い領域の人と交流する余裕はほとんどなかった。
   今日紹介するオーストラリア国立大学からの論文は、学際協力を目指す助成申請書を審査する側にも、学際協力を阻む要因があることを示した研究で6月30日号のNatureに発表された。タイトルは「Interdisciplinary research has consistently lower funding success (学際研究は常に採択率が低い)」だ。
  オーストラリア政府も学際協力を推進しており、自然科学から人文科学に至る広い基礎研究を同じ枠内で助成する「The Discovery Programme」を設けている。この研究では、5年間にわたりこの助成金を申請した18476件の申請内容を分析し(採択率は15−20%)、申請の学際率を申請者が属する領域から計算している。計算方法は、進化過程でそれぞれの種がどれだけ離れているかを形態から計算するときに用いられる手法を用いている。ただ、領域の距離の算定方法はかなり恣意的に行われている印象だ。
   この方法を用いると各申請は0〜1の範囲のどこかに分類される。0に近いほどよく似た領域、1に近いほど離れた領域になる。この数値と、実際の採択率をプロットしたのがこの研究のハイライトで、学際率と採択率は見事に負の相関を示すというのが結論だ。
   これが、オーストラリア内での研究所のレベルに影響されているのか、あるいは有力研究者の参加と関係あるかなど、様々な要因の影響を調べているが、結論としては誰がどの研究所から申請しようと、学際研究は採択率が低いという結論は変わらないようだ。
   科学が仲間による審査を基盤に成立している限り、学際協力研究の発展は難しいことをこの研究は示している。事実ペーボさんの著作を読むと、研究所の部門構成は自由に構想したようだ。とすると、学際協力を推進するためにはもっと違ったメカニズムが必要だと思う。
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