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1月17日:遺伝子組み換え食品に強硬に反対する人ほど科学のことはよく理解しているというが、実際は科学的知識に欠けている(Nature Human Behaviour オンライン掲載論文)

2019年1月17日

2日間、専門的な論文の紹介が続いたので、今日は息抜きの意味で、一般の方でも関心のある遺伝子組み換え食物についての論文を紹介する。遺伝子組み換え技術なしに、今や生命科学はあり得ないし、これについて何も知らずに生物学者を名乗ることはほぼない。従って、よほど人体に危害を加えようとする意図を持って植物や動物の遺伝子を変えない限り、遺伝子組み換え食物(GMO)を食べたところで、何も起こらないことを生物学者はよく理解している。もともと、遺伝子を他の個体に導入することは簡単ではなく、食べたぐらいで簡単に移るなら遺伝子治療はずっと簡単になる。実際、食べた食物のに含まれる核酸は膵臓から出る核酸分解酵素でヌクレオチドに分解されてしまう。

  もちろんGMOに全く問題がないわけではない。例えば、殺虫剤に耐性の遺伝子を植物に導入することで、野生の植物を殺す目的で殺虫剤をより多く使うようになり、残留薬品の濃度が上がることは今問題になっている。しかも、組み替え自体は、自然の生態系を破壊する可能性があり、自然界に組み換え植物が広がるのが危険なことは明白だ。その意味で、私もできるだけGMOに頼る農業や漁業は避けたほうがいいと思う。とはいえ、組換えた遺伝子そのものは無害だと思っている。ところがこの話になると、強硬にGMOは組みかえられた遺伝子自体も有害であると主張される方がいる。理由として、会社のデータが信用できないとか、慢性疾患が増えてきたなど、因果性とは言えない根拠が挙げられ、生物学的知識については首を傾げたくなる。

この問題に真っ向から取り組んだのが今日紹介するコロラド大学、ワシントン大学、トロント大学、ペンシルバニア大学が共同でNature Human Behaviourに発表した論文だ。タイトルは「Extreme opponents of genetically modified foods know the least but think they know the most (遺伝子組み換え食品に強硬に反対する人ほど科学のことはよく理解しているというが、実際は科学的知識に欠けている)」だ。

この研究の目的は、遺伝子組み換え食物と地球温暖化の2つの問題について、科学者の一般的意見に対して反対する人の科学知識について、主観的評価と客観的評価を比べることだ。そのため、1000人の米国に住む成人について、1)GMOを受け入れるという1段階から絶対反対の7段階まで、GMOに対する反対度についての自己評価、2)自組み換え食物についての知識レベルについての自己評価、そして最後に、3)テストによる客観評価(テストは簡単なもので、例えば「全ての植物はDNAを持っていますか?」といった程度)を行なっている。そして、それぞれの項目でのスコアを元に、GMOへの反対の強さと科学知識の評価との相関を計算している。また同じようなテストを科学者内でも意見が分かれる地球温暖化についても行なっている。

GMOについてみると、結果は極めて明瞭で、強硬に反対する人ほど自分では知識を持っていると自信を持っているにも関わらず、客観テストでは点数が低い。一方、GMO自体には問題はないと考えている人は、自分の科学知識は足りないと謙虚に評価するが、実は反対派の人より生物学的知識を持っているという結果になる。

これが米国だけの特殊な結果でないことを確認するため、同じ調査をドイツやフランスでも行っている。面白いことに、強硬に反対する人ほど自分の科学知識に自信を持っているという傾向は同じだが、客観的知識に関しては少し低下している程度で、米国ほど有意な差が認められないという結果だ。すなわちドイツ、フランスは一般的科学リテラシーが高い。そこで、ヨーロッパで独自に行われていたGMOへの反対の程度と遺伝子組み換えに関する客観的知識の相関を見た調査を調べ直し、25カ国中20カ国で米国と同じように、反対派ほど知識がないことを確認している。

並行して行われた地球温暖化については、同じような明確な傾向は認められず、この結果が科学全般に適用できるかどうかはわからないという結果になっている。

結果は以上だが、科学者にとって反対派をバカにして喜べるという話ではない。すなわち、いくら科学のリテラシーを上げる努力をしても、結局強硬に反対する人は自分は知識を十分持っていると思っており、リテラシーを高める教育には見向きもしないという結果で、今まで通りの方法ではすれ違いを解消することは出来ないことを意味している。さてどうするのか科学者自身が真剣に議論しなければならない。

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