10月5日 すい臓ガンの増殖を助ける真菌(10月3日Natureオンライン版掲載論文)
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10月5日 すい臓ガンの増殖を助ける真菌(10月3日Natureオンライン版掲載論文)

2019年10月5日
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細菌叢は私たちの健康に様々な恩恵をもたらしてくれているが、逆に細菌叢から分泌される分子により代謝が変化したり、時によってはガン化や脳の活動にまで影響を持つことが知られてきた。それならば、細菌と並んで我々の体に常在している真菌でも同じことが起こっているのではないかと考えるのはもっともだ。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文はすい臓ガンと真菌との関わりについて研究し、一部の真菌がすい臓ガンの増殖を促進するメカニズムを明らかにした研究で10月3日号のNatureに掲載された。タイトルは「The fungal mycobiome promotes pancreatic oncogenesis via activation of MBL (真菌のマイコビオームがMBLを介してすい臓ガン化を促進する)」だ。

この研究は、膨大なスクリーニングを行なって原因を見つけるというより、最初から仮説を立ててその真偽を確かめるという方法で行われている。

まず真菌がすい臓ガンの増殖に影響を及ぼしうることを示すため、経口標識した酵母をすい臓ガン発ガンモデルマウスに投与、ガン組織に到達することを確認している。つぎに、すい臓ガンモデルマウスと正常マウスを比べ、すい臓ガン発症過程で腸内の真菌叢が質量ともに変化すること、一方すい臓では真菌叢の種類は大きく低下する一方、真菌の量は増えることを発見する。

そしてすい臓ガンで最も大きな増加が見られるのが皮膚にも常在するマラセチアであることを発見する。

この研究の重要性は、真菌叢が変化するといった現象論だけでなく、ある程度の因果性を示している点だ。まず、すい臓ガンモデルマウスに抗真菌薬を投与すると、がんの増殖が強くはないが抑えられる。また抗真菌薬で真菌を除去したマウスにマラセチアを投与すると、増殖が高まる。以上のことからマラセチアをはじめとする真菌が明らかにすい臓ガンの増殖を助けていることを明らかにする。

そして最後にすい臓ガンに発現しているレクチンがガンの増殖を助けるのではと仮説を立て、マンノースに結合するレクチンをノックアウトするとすい臓ガンの増殖が抑制されること、またこのノックアウトマウスではマラセチアの増殖促進効果がないことを明らかにする。その上で、補体C3aの活性化がガンの増殖に関わる下流のシグナルであることを特定している。

真菌がすい臓ガンの増殖に関わることは納得できるが、しかしこの研究だけではこれがガン化の決定要因かどうかについては明らかになっていない。真菌叢だけのないマウスを作るのは難しいと思うが、例えば無菌動物だと発ガンは低下するのかなど、他にも知りたい情報が多い研究結果だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月4日 線虫を用いて麻薬受容体阻害剤を開発する(9月20日号Science掲載論文)

2019年10月4日
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現在米国で最も大きな医療問題は麻薬の過剰投与による死亡だ。裏返せば、これに勝る鎮痛剤がないことを意味するし、受容体の研究が進んだ今も中毒など麻薬投与に伴う様々な問題を制御する方法がないということを意味している。

今日紹介する米国スクルップス研究所からの論文はμオピオイド受容体(MOR)を導入した線虫を用いてこの難題に立ち向かい、今や古典的な突然変異をランダムに誘導するforward geneticsを使ってMORを阻害する分子を特定、さらにこの分子を標的にする麻薬からの離脱を早めることのできる化合物を発見したというなかなか痛快な研究で、9月20日号のScienceに掲載された。タイトルは「Genetic behavioral screen identifies an orphan anti-opioid system ‘遺伝的行動スクリーニングにより麻薬に対する拮抗システムを特定した」」だ。

まずMORを導入した線虫にMOR刺激剤を加えると、線虫の動きが低下する。この反応が哺乳動物でのMORの反応と同じであることを確認して、次にMORを導入した線虫の突然変異体を2500以上作成し、その子孫約60万種類の行動を調べ、MORによる行動異常が抑制される変異体を同定、この過程に関わる分子の特定を試みている。

最近で下火になってきたforward geneticsを用いてMORシグナルに影響のある分子を探そうとしたことがこの研究のハイライトで、ここまでうまくいくと少なくともGタンパク型のシグナルについては研究が続く可能性がある。

ただ、多くの分子が取れたというわけではなく、結局これまでMORと関わることが知られていなかった分子は、まだリガンドが特定されていないオーファン受容体FRPR13だけだった。

次にMORとFRPR13の関係を細胞レベルで調べ、

  • この分子の発現はMORのシグナルを低下させる。
  • FRPR13はMORの細胞膜への輸送を邪魔する。
  • FRPR13はMORとG共役受容体のシグナルを抑制するアレスチンの結合を促進する。

など、MORとFRPR13が結合することでMORの機能を抑制する様々なメカニズムが働くことを示している。

そして、ノックアウトマウスでは麻薬に対する反応が過敏であることを確認する。この分子の自然リガンドはまだわかっていないんだが、幸いなことにFRPR13を活性化する化合物がすでに開発されており、最後にこの化合物を投与して麻薬に対する反応が低下させられることを示している。

線虫の突然変異による遺伝子スクリーニングに始まり、最終的に麻薬の離脱を早める可能性のある化合物の特定までなかなか読み応えある論文だ。このタイプの受容体の遺伝子数が異常に多いのが線虫なので、今後もこの方法は製薬会社などでも使われるような気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月3日 腸上皮の概日リズムも腸内細菌叢がコントロールしている(9月27日号 Science 掲載論文)

2019年10月3日
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概日リズムは24時間の地球サイクルを、生物のゲノムに内化した仕組みで、進化が環境の内化に他ならないことを示す例だ。もちろんジェットラグから分かるように、私たちの概日リズムは脳による地球サイクルの感覚により調整されるが、この調整とは別にそれぞれの細胞がリズムを刻むようになっている。

しかし、腸管のように、腸内細菌叢という地球上で進化してきた生物が共生している場所では、細胞のリズムはどうなるのか、確かに面白い問題だ。今日紹介するテキサス大学からの論文は、腸内細菌叢の存在しない無菌マウスの小腸上皮についてこの問題を調べた研究で9月27日号のScienceに掲載された。タイトルは「The intestinal microbiota programs diurnal rhythms in host metabolism through histone deacetylase 3 (腸内細菌叢がヒストン脱アセチル化酵素3を介して宿主の代謝の概日リズムをプログラムしている)」だ。

もちろん全ての概日リズムシステムが変化するわけではないと思うが、この研究ではまず転写の状態を示すヒストンのアセチル化のレベルの日内変動について正常マウスと無菌マウスを比べたところ、H3K9もH3K27いずれのアセチル化も普通は日内変動があるのに、無菌マウスではリズムがなくなり高いまま続くことを発見した。すなわち、ヒストンのアセチル化の概日リズムは間違いなく腸内細菌の影響を受けていることがわかった。

この発見がこの研究のすべてで、あとはなぜこんな現象が起こるのか、可能性を当たっていく事になる。まずヒストンの脱アセチル化酵素(HDAC)が関わることは間違い無いので、小腸上皮で発現して腸内細菌叢に依存性のたかいHDACを探すとHDAC3が見つかってきた。実際HDAC3の発現はMyD88など自然免疫系の刺激伝達系に依存しており、細菌叢依存的であることが確認される。

これでバクテリアのシグナルを伝える仕組の一端はわかったが、 HDAC3自体はリズムを刻まないので、次になぜHDAC3の活性がリズムを刻むのか調べ、結局リズム自体はHDAC3をヒストンに運ぶ分子コンプレックスの細胞に内因的なリズムに依ることが明らかになった。

はっきりいうとここでちゃぶ台返しされたような気になる。すなわち、バクテリアがリズムを決めるのかと思って読んできたら、結局バクテリアはHDAC3の発現に必要なだけで、リズムは細胞自体の持つリズムという事になってしまった。

腸内細菌叢はリズムの増幅器として働いているというわけだが、このリズムは様々なトランスポーターの発現リズムを介して宿主の代謝のリズムを整えている。特に、CD36と呼ばれる脂肪のトランスポーターの発現もこのシステムにより概日リズムを刻むため、ジェットラグや概日リズムが消失する事で肥満になる一つの原因になるようだ。

結局私たちのリズムは細菌によってハイジャックされたわけではなく、ただ腸内細菌叢がリズムを増幅してくれるおかげで、代謝のスムースな調節が可能だというちょっと残念な結果になった。まあある意味では、安心する結果だとも言える。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月2日 免疫疾患でのB細胞の状態を調べる(9月25日号Natureオンライン版掲載論文)

2019年10月2日
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ドイツに渡って取り組んだ研究が、骨髄B前駆細胞からB細胞への分化と、それにともなう抗体レパートリー形成だったので、免疫学から離れてずいぶんになるのに、B細胞研究については、他の分野よりは親近感が強い。ただ、オプジーボに代表されるT細胞免疫と比べると、どうしてもB細胞研究は地味で、なかなかトップジャーナルに上がってこないため、論文を読む機会もかなり減っていると思う。

そんな時ケンブリッジ大学から人間のB細胞の様態を詳しく調べることで、様々な免疫関連疾患の共通性と特異性を調べた論文が9月25日号のNature に発表された。動物と異なり、人間のB細胞を調べるには様々な制限があり、その意味で数多くの免疫関連疾患の患者さんを集めて調べたことは、大変な仕事だったと推察できる。タイトルは「Analysis of the B cell receptor repertoire in six immune-mediated diseases (6種類の免疫が関わる病気のB細胞のレパートリーの解析)」だ。

この研究では活動期の免疫が関わる6種類の病気、1)特定の自己抗原に対して抗体ができる抗好中球細胞質抗体を特徴とする血管炎(AAV)、2)様々な抗原に対して自己抗体ができるSLE、3)自己免疫とは考えられていないクローン病、4)B細胞の関わりは少ないと思われている、ベーチェット病、5)好酸球性多発性血管炎肉芽腫症(EGPA)、5)IgA血管炎、の活動期の患者さん209例からB細胞を取り出し、発現している免疫グロブリンのmRNAから、抗体のレパートリー、同じ抗原反応性を持つクローンの増殖、クラススイッチ、薬剤の影響などの項目を調べている。特に新しいテクノロジーを用いているわけでもなく、地道に患者さんを調べたという論文だ。

さて、それぞれの病気のB細胞レパートリーは、自己抗原や腸内細菌叢などの常在菌抗原によって形作られていくと考えられる。もちろん病気によって形成されるT細胞免疫状態や、炎症、自然免疫などのB細胞を取り巻く環境も重要な役割を果たしていると考えられる。そう考えると、B細胞のレパートリーから病気を見直すことで、病気特有の特徴や共通性が見える可能性は十分ある。そう思って読むと、なかなか面白い結果が示されているので、箇条書きにまとめると次のようになる。

  • まず定常部位の発現は病気ごとに大きく変化する。IgAはSLE,クローン病で多く発現しているが、EGPAとAAVを除くと上昇傾向にある。一方、IgEは好酸球の異常増殖の見られるEGPA以外では、やはりSLEとクローン病で高い。IgG3もSLEとクローン病は高いことから、共通の背景が両者にあると考えられる。
  • V遺伝子のレパートリーもそれぞれの病気に特徴的なパターンを示す。ここでもクローン病とSLEは類似している。
  • V遺伝子の共通性から抗原によるクローン増殖、スイッチの順番などがわかる。例えば、クローン病やSLEではスイッチ前からクローン化が際立っているが、同時に患者さんの間での多様性が大きい。一方AAVやIgA血管炎は正常と変わりがない。
  • 同じV領域を持つ遺伝子を比べることでクラススイッチがどう起こったか調べられる。まず驚くのがAAVやベーチェット病ではクラススイッチが低下している。一方、クローン病ではスイッチが上昇しているが、スイッチするクラスはランダムに起こる。一方、SLEではIgAにスイッチする場合が多い。
  • 活動期にあるためほとんどの患者さんではリツキサン(抗CD20抗体)やミコフェノール酸フェチルでの治療が行われているが、ミコフェノール酸ではスイッチ後のメモリー細胞が特に影響を受ける。一方リツキサンはB細胞全体に効果があるが、スイッチ後のB細胞は比較的抵抗性がある。

まだまだ現象論の段階だが、SLEとクローン病の共通性や、ベーチェット病でクラススイッチが低下していることなど、B細胞に親近感を持つ私にとっては意外な結果が満載の論文だった。臨床例を地道に調べることの重要性を改めて認識した。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月1日 超音波で追跡できる分子マーカーの開発(9月27日号Science掲載論文)

2019年10月1日
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様々な蛍光を発する分子マーカーを用いる細胞追跡技術は、生物学を大きく変える技術としてノーベル賞に輝いた。ただ、光を使う限り、どうしても透過性の問題がつきまとう。そこで光学ではない、他の方法で検出される分子標的を開発する努力が行われていると思うが、なかなか実用可能な標識は出てこない。

そんな中で今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文は空気を貯めるgas vesicleを作るタンパク質を標識にして超音波で遺伝子発現を追跡しようとする研究で、医療での超音波の普及を見るとかなり有望な技術になる可能性があると思う。タイトルはずばり「Ultrasound imaging of gene expression in mammalian cells (哺乳動物の遺伝子発現を超音波で画像化する)」だ。

これまでも超音波を使う造影法として空気のバブルは用いられてきたが、遺伝子発現をバブル生成に変えることは難しい。代わりにこの研究では、水性バクテリアの中に、表面に浮くため空気を貯めるタンパク質を持つものがある事に注目し、このタンパク質が形成する空気の小胞、gas vesicleを超音波で検出する可能性を着想した。

このようなタンパク質をコードする遺伝子を、音を検出するレポーター遺伝子(ARG)と名付け、バクテリアの中からgas vesicle形成に必要な数種類の遺伝子を選び出している。この時、vesicle ができたかどうか、電顕で確かめながら遺伝子を特定しており、形態学にかなり強いグループのようだ。

さてこうして選んだ数種類のgas vesicle形成に必要な遺伝子を哺乳動物の細胞に導入して、gas vescle形成を見ると、vesicleというより針状の空気を含んだタンパク質のスタックが形成されている。かなり毒性がありそうに見えるが、この構造を40-50含んでいても細胞の増殖には変化がないようだ。

さて、このスタックを検出するための超音波テクノロジーだが、さすがに細胞の中の小さな構造で、それをそのまま超音波で検出する方法はまだ開発できていない。代わりに、空気の層を潰すエネルギーを持つ18KHzの超音波を当ててgas vesicleを潰してしまい、最初当てた時の画像(空気を検出している)と、vesecleが潰れた後の画像を引き算して、vescile を浮き上がらせる方法を用いて細胞集団のgas vesicle 発現を確認している。

あとはレポーターとして本当に使えるかどうか、様々な条件で確かめ、最後にその細胞をマウス皮下に注射して、細胞集団を検出できるか調べ、蛍光法に勝るとも劣らない検出精度があることを示している。

もちろん正常の細胞に発現させたり、トランスジェニックマウスを作った時に本当に毒性がないかなど、まだまだ安心できない点も多いと思う。また、この目的に合わせた超音波検出機の方も発展が可能だろう。超音波は今や聴診器を駆逐するぐらい重要な医療器具として定着している。安全性や技術の発展速度を考えると、この研究はともかくこの分野の扉を開けたという意味で重要性は高いと思う。

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9月30日 パーキンソン病治療の新しい標的(Cell Metabolism 12月3日発行予定論文)

2019年9月30日
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ミトコンドリアについての論文紹介の最後はスタンフォード大学からのパーキンソン病の新しい分子標的についての論文で、タイトルは「Miro1 Marks Parkinson’s Disease Subset and Miro1 Reducer Rescues Neuron Loss in Parkinson’s Models(Miro1は一部のパーキンソン病の標識になりこの分子の機能を抑える化合物はパーキンソンモデルで神経変性を改善する)」だ。

ミトコンドリアの研究が最も進んでいる神経変性疾患はパーキンソン病(PD)で、機能低下したミトコンドリアを処理する分子ParkinやPinkの変異でパーキンソン病が発症する。ただ、分解される前にミトコンドリアを細胞システムから切り離す必要があり、そのためには細胞内の微小管からミトコンドリアが切り離されるが、これに関わるのがMiro1だ。

これまでの研究でミトコンドリアが障害を受け脱分極すると、ミトコンドリア膜から離れる。これによってミトコンドリアは微小管から切り離され、動きが抑えられるため、Parkin/Pink分解システムにより処理が可能になる。

著者らはMiro1が脱分極膜から離れないことが、細胞死の原因ではないかと考え研究を行ってきた。この研究ではまず多くのPD患者さんから提供された線維芽細胞を用いて、PD ではMiro1が脱分極してもミトコンドリア膜に残るのではないかという可能性を確かめている。結果は、93%の患者さんで、Miro1が脱分極したミトコンドリア膜から除かれないことを確認している。

この現象はほとんどのPDで見られ、しかも他の変性疾患では見られないことからPDの診断に利用できるが、この現象が起こるプロセスには、Pink/Parkinシステム以外にも様々な経路が関わる可能性を示している。

このように、原因は様々でもMiro1がミトコンドリア膜から離れないという現象は特異的なので、次にこのプロセスを促進する化合物のスクリーニングを行い、最終的に脱分極したミトコンドリア膜上のMiro1の除去分解を促進するMiro1-reducerと名付けた化合物を特定している。そして、この化合物の作用メカニズムが、Miro1のプロテアソームによる分解を促進することによると特定している。

最後に、患者さんiPS由来の神経細胞を用いて、antimycinによる呼吸抑制による神経細胞死を防げること、そしてショウジョウバエのパーキンソン病モデルでも一定の効果があることを示している。

パーキンソン病の最初の原因はシヌクレインの蓄積による神経障害と考えられているが、ミトコンドリアの処理機構の活性が発病過程に大きく関わることは明らかだ。今回、Miro1というミトコンドリア処理に関わる新しい分子が見つかったことで、診断だけでなく、神経細胞死を遅らせるという治療法の可能性が一歩進んだように思える。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月29日 DrpはK-rasによる発癌に必須(8月13日号 Cell Reports掲載論文)

2019年9月29日
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昨日ミクログリアで活性が高まると断片化したミトコンドリアができると紹介したDrp1分子は、ミトコンドリア膜上で様々なアダプター分子と会合することで、ミトコンドリア分裂の核を形成する。昨日の論文はDrp1が悪い分子のような印象を与えるが、Drp1自体は正常なミトコンドリアの維持に必須の分子で、実際ノックアウトすると神経細胞が最も影響を受ける。ただ、ミトコンドリアの分裂や融合は細胞の代謝にリンクして、絶妙のバランスで調節される必要があり、ミクログリアでDrp1の発現量が上昇しすぎた結果が、昨日の話になる。

そこでDrp1の機能を知る意味で、ちょっと古くなったが8月13日号のCell Reportsに掲載された、Drp1がK-rasによる発癌に必須の分子であることを示したバージニア大学からの論文を選んで紹介する事にした。タイトルは「Drp1 Promotes KRas-Driven Metabolic Changes to Drive Pancreatic Tumor Growth (Drp1はK-rasによる代謝変化を促進し膵臓ガンを増殖させる)」だ。

研究は、K-rasによる線維芽細胞のtransformation、あるいは膵臓ガン細胞株のコロニー増殖にDrp1が必須であることの発見から始まっている。一つ覚えておいて欲しいのは、Drp1がなくとも細胞は生存できるという点だ。ただ、ガンのように急速に増殖する細胞には様々な異常が起こり、この一つの表れがtransformation効率の低下や、ガンの増殖の低下だ。

細胞増殖の低下の原因として様々なメカニズムが考えられるが、K-ras活性化によるガン化には代謝の活性化が重要であることがわかっているので、糖代謝を調べるとDrp1がノックアウトされるとヘキソキナーゼ2の発現が低下し解糖系が回らなくなることが明らかになった。すなわち、K-ras活性化による解糖系活性の上昇は、Drp1を介していることがわかった。

膵臓ガンからDrp1を除くと、同じように解糖系の活性が落ち、増殖が低下するが、もちろんこれだけではなく、Drp1欠損に備えて大きな遺伝子発現のリプログラムが起こり、この結果脂肪代謝、ミトコンドリアの呼吸機能、さらにはミトコンドリアへの脂肪酸の輸送まで障害される。すなわち、ガンの増殖は低下しても、このストレスに合わせて生きるためのリプログラムが進んでいる事になる。

逆に考えると、K-ras活性化はまずDrp1を介して、細胞の代謝を高めている事になる。問題は、なぜミトコンドリア分裂の調節が細胞の転写レベルのリプログラムまで進むかだが、この研究ではこの点が詰めきれておらず、現象論で終わっているため中途半端な印象を受ける。

ミトコンドリアが細胞代謝の核になっていることを考えると当たり前かもしれないが、それが形態の調節と密接に繋がって行われる点が面白い点で、ガンにせよ、変性疾患にせよミトコンドリアの研究がいかに重要かがわかる。

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9月28日 障害されたミトコンドリアは変性を拡大する(Nature Neuroscience 10月号掲載論文)

2019年9月28日
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今日から頭の整理もあるが、ミトコンドリアと病気についての論文を3日間紹介することにした。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、ほとんどの神経変性疾患で障害されたミトコンドリアが細胞外に吐き出されてそれが他の細胞の変性を誘導することを示した論文で10月号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Fragmented mitochondria released from microglia trigger A1 astrocytic response and propagate inflammatory neurodegeneration (ミクログリア細胞から分泌される断片化されたミトコンドリアがアストロサイトの反応を誘導し、炎症性の神経変性を伝播する)」だ。

アルツハイマー病やALSなど、なかなか原因を取り除くことが困難な疾患の新たな介入可能な標的として炎症が注目されているが、この研究もこの線に沿っている。著者らはほとんどの神経疾患のニューロンで、ミトコンドリアの分裂が異常になって断片化が起こることに注目し、この過程に関わるDrp1とFis1の結合を阻害するペプチドP100を脳内に持続投与して変性疾患を治療する可能性を追求してきている。

この研究でもアルツハイマー、ハンチントン、ALSの3種類のモデルマウスを用いて、P100投与が、ミクログリアだけでなく、アストロサイトの活性化を抑える結果病気の進行を抑制すること、そしてP100の標的であるDrp1の活性化とそれに伴う断片化されたミトコンドリアが変性疾患での炎症に強く関わることを証明している。

次に様々な変性疾患モデルでみられる、ミトコンドリア断片化を伴う炎症は、活性化されたミクログリアの培養上清でこんどはアストロサイトでのミトコンドリア分裂の異常が誘導され、炎症が拡大し、最後にアストロサイトに広がった同じ異常がニューロンにまで広がることを示している。

そしてこのミクログリアに発して炎症を広げていく培養上清中の成分こそ、Drp1-Fis1に依存して生成し、細胞外へ吐き出される断片化されたミトコンドリアであることを示している。面白いことに、吐き出されたミトコンドリアが全て有害というわけではなく、正常機能を維持した断片は逆に神経を守る機能があり、神経変性は異常ミトコンドリア断片と、正常ミトコンドリア断片のバランスの上に立っていることを明らかにしている。

これまで、変性を誘導するプリオン型の沈殿タンパク質が変性を伝播することが示されてきたが、炎症による毒性を伝播する新しいメカニズムが提案された研究だと思う。ただこの研究のハイライトは、やはりメカニズムよりDrp1の抑制による変性の治療で、マウスでの結果から見れば、進行の早いALSなどでは是非臨床へ向けた取り組みを期待したいと思った。

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9月27日 IL-6を改変して糖尿病の特効薬をデザインする(9月25日Natureオンライン版掲載論文)

2019年9月27日
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阪大の岸本先生のグループによってIL-6に対する抗体は、免疫病の重要な薬剤として開発されたが、IL6のシグナルがどう伝わるのかについての研究は大変な研究で、岸本先生らによって明らかになった受容体の構造は分泌型の受容体と結合してから膜上のgp130に結合するという極めて複雑なものだった。

その後同じgp130をシグナルに使うLIFやCTNFのシグナル伝達が明らかになると、この系はさらに複雑な系であることがわかった。

一方臨床応用については、IL6抗体のほかに、食欲を抑えて肥満や糖尿病を治すことがわかっていたCTNFの利用の可能性も追及され、実際第3相試験まで進んだが、これに対する抗体ができることから開発は中断された。

今日紹介するオーストラリア モナーシュ大学からの論文はこのCTNF を用いた糖尿病治療というアイデアを、IL6の一部をLIFの一部で置き換えることで実現できることを示した画期的な論文で9月25日号のNatureに掲載された。タイトルは「Treatment of type 2 diabetes with the designer cytokine IC7Fc (デザインされたサイトカインIC7Fcを用いて2型糖尿病を治療する)だ。

この研究ではIL6の2箇所あるgp130結合部位をLIFと置き換え、gp130, 分泌型IL-6R、そしてLIFRに結合するという自然には存在しないサイトカインをデザインし、これに免疫グロブリンのFc部分を結合させて安定化させ、著者らがIC7Fcと名付けた人工サイトカインを作っている。

もちろん自然にないシグナル伝達の仕方をするサイトカインなので、その効果を調べるためマウスに注射すると、最もはっきりした効果が、過食により誘導される肥満を抑える効果であることがわかった。そして、この効果がCTNFと同じように食欲を抑えることで起こることを示している。

ところが食べないと筋肉量も低下するのだが、このサイトカインはYapタンパク質の発現を高めて、筋肉量を維持することができる。しかも、Yapが上昇すると困る肝臓では、なんとYapの発現を抑え、健康に良い方向だけに効果を示す。

良いことはさらに続く。なんとインクレチン経路や他の経路を介して膵臓β細胞のインシュリン分泌を高め、同時にグルカゴン分泌も刺激することで、低血糖発作を防ぐ。そしてグルコース耐性を改善することで、基本的に2型糖尿病治療薬として働く。他にもメカニズムは完全に明確ではないが、骨密度を高めることから、骨粗鬆症にまで効果があることを示している。

最後にFC7Fc遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作成し、この分子が作り続けられてもマウスの生存に影響がないこと、また肥満が防げることを示した上で、最後に猿に投与して副作用がないことを確認している。すなわち、IL6で見られる炎症誘発効果はない。

ちょっと信じがたいほど、それぞれのサイトカインのいいところを集めることに成功したという結果だが、自然を少し変えて、自然にはない効果をデザインできることを示した、面白い論文だと思う。しかし臨床応用が実現した暁には、どのような値段になるのだろうか。片方にはメトフォルミンという安価な特効薬が控えている。

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9月26日 帝王切開による出産の腸内細菌への影響(9月18日 Nature オンライン掲載論文)

2019年9月26日
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小児のアトピー対策がこの数年で大きく変化した。皮膚からの抗原侵入を防ぎ、腸からの抗原により免疫抑制システムを育てるという考え方に変化した。この原因は、アトピー予防にとっての幼児期の皮膚のバリアーの影響がよくわかったことと、腸内での細菌叢の免疫や炎症制御への重要性がわかってきたことが大きい。そして、新生児期の腸内細菌叢の発達について多くの研究が行われ、このブログでも紹介してきた。

今日紹介する英国サンガー研究所からの論文は経膣分娩と、帝王切開による分娩で生まれた子供の腸内細菌叢の発達を調べた論文で、その臨床的重要性で9月18日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Stunted microbiota and opportunistic pathogen colonization in caesarean-section birth (帝王切開分娩児に見られる機能不全の腸内細菌叢と日和見病原菌の定着)」だ。

もちろんこれまでも帝王切開分娩児の腸内細菌叢を調べた研究はかず多く存在した。そして、経膣分娩児と比べると、腸内細菌叢の多様性の欠如や、一部の細菌種の欠損は報告されていた。

ただこの研究は314例の経膣分娩児と282例の帝王切開分娩児の腸内細菌叢を長期間にわたって観察することにより、十分統計的解析が可能なデータを集めた点が最も重要だ。そして何よりも、これまでの研究と比べても、帝王切開分娩の驚くべき影響を浮き彫りにした。

もちろんこれまでと同じで、調べる数を増やしても出産後から急速に腸内細菌叢が成長し、お母さんの細菌叢へと成長する。またそれぞれの子供で発達過程はまちまちで、人間の成長過程の違いをまさに腸内細菌叢が反映していることがわかる。しかし、この違いを決める要因を統計的に探していくと、母乳などの要因をはるかに超える高い影響が分娩の方法にあることがわかる。

実際の細菌叢の内容を詳しく調べているが、詳細を省いて簡単にまとめてしまうと次のようになる。

経膣分娩児では例えばビフィズス菌やBacterioidesのような、いわゆる腸内細菌と呼ばれる細菌が中心に細菌叢を形成しする。ところが、帝王切開児では最初の一週間はこのような典型的腸内細菌はほとんど存在せず、代わりに病院の環境に存在する常在菌が多く定着する。一方、これまで変化が大きいと指摘があった乳酸菌などはほとんど変わりがない。そして、母親の細菌叢と比べることで、結局この原因が母親の細菌叢が伝わらないことによっていることを示している。

中でも問題は、常在菌の中に日和見感染の原因菌が多く含まれることで、当然免疫が低下している新生児で、母乳からの抗体など抵抗力が得られない場合は問題になるだろう。

幸い、1ヶ月ごろから細菌叢は正常型へと急速に変わっていくので、今後はこの新生児期の大きな違いが将来にどのような影響を持つのか、気の長い研究が必要になると思う。実際帝王切開の長期効果として肥満、喘息、アトピーなどが指摘されているがこれらは全て腸内細菌叢の発達と関わりがある。このコホートから将来さらに重要な発見があることを期待する。

いずれにせよ、母親からの細菌叢を移す重要性は最近ますます強く認識されている。例えば虫歯菌や歯周病菌が感染するとして子供とのキスを避けるように指導しているのを見かけるが、特定の菌を避けて清潔を求めるあまり、子供を危険に晒してきたことは、最近の多くの研究が示していることだ。もっと自然な親子のコンタクトを再評価する時が来たように思う。

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