1月30日 アルツハイマー病は歯周病菌が原因?(1月23日号Science Advances掲載論文)
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1月30日 アルツハイマー病は歯周病菌が原因?(1月23日号Science Advances掲載論文)

2019年1月30日
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昨日に続いてアルツハイマー病(AD)の治療についての論文を紹介する。昨日も、ADはさまざまな角度から研究が進んでおり、意外な標的が見つかる可能性が高いと述べたが、今日紹介するCortexymeと呼ばれる創薬ベンチャーからの論文は、意外性が大きすぎる論文だ。もし示された結果が確認され、仮説が正しいとすると、この分野がひっくり返ると行ってもいい話で、Science Advancesではなく、Scienceが掲載したはずだ。すなわち、AD病の原因が歯周病菌という大胆な結論が提出された論文だ。タイトルは「Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains: Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors (アルツハイマー病の脳内に存在するP.gingivalis:病気の原因を示す証拠と小分子を用いた治療)」だ。

繰り返すが、実験結果はしっかりしている。まず、ADの脳組織と正常の脳組織をそれぞれ50近く集め、歯周病菌P.gingivalisが分泌するタンパク分解酵素gingipainに対する抗体で調べると、AD患者さんは圧倒的に高値を示す。実際logスケールで比べられており、その差がはっきりする。さらに組織学的に、海馬のニューロンおよびアストロサイト内にgingipainが存在することが示される。そして、組織からgingipainを免疫沈降で集められることも示している。

以上の結果は、ADの脳にはgingipainが高い値で存在しているが、正常の脳でも低いが、ほとんどの例で同じように存在することを示しており、歯周病菌が普通に脳に侵入していることを示唆している。実際、歯周病菌自体の存在をPCRで調べると、ADだけでなく、ほとんどの正常人でも見つけることができる。ただ、先にも述べたように、ADでの値は1桁高い。

Gingipainは蛋白質分解酵素だが、Tauタンパク質がgingipainで切断されることを示している。ADの一つの引き金は神経細胞内にリン酸化Tauが沈殿することだが、切断によリン酸化が起こることから、細胞内に入ったgingipainがTauタンパク質を切断、リン酸化を誘導し、細胞内で沈殿させることを示している。また、この切断サイトも特定するという念の入れようだ。

その上で、培養神経細胞に対するP.gingivalisの細胞障害性実験系で、彼らが開発しているCor286、Cor271と名付けたgingipain阻害剤が細胞毒性を緩和すること、さらに生きたマウスの脳内での細胞毒性も軽減させることを示している。

ではもう一つのAD原因因子アミロイドβタンパク質はどのような役割があるのか当然気になるが、この研究ではP gingivalisの感染により脳内に短いAβタンパク質が誘導されることを示している。そして、gingipainを欠損したP gingivalisではこのような反応が起こらない。そして、このAβの切断はP gingivalisに対する防御反応であることを示唆している。

すなわち、AβはADの原因というより、歯周病菌感染の結果で、ADの発症はTauの沈殿により細胞が失われると考えている。最後に、Cor286,Cor271投与によって、脳内でのP gingivalisの感染を防いで、神経を守れることを示している。この結果から、さらに効果の強い化合物Cor388を合成し、最終的にはこの薬剤に集中していいる。

さすが力のあるベンチャー企業でしっかり実験しているように思えるが、気になるところも多くある。まず使っている実験系で、これでAD過程が研究できているのか、あるいはただの脳の炎症と言えるのか、Tauのリン酸化が示されていないこと、アミロイドプラークが示されていないことなど、ちょっと疑わしい。さらに、実験評価に多くの指標が手を替え品を替え使われているので、本当の評価ができずまだまだ確定できないと思う。ただ、魅力的な話で、Cor388の治験により私の懸念が払拭できればいい。

ちょっとウェッブで調べてみたら、Cor388は第1相の試験が終わって、特に毒性がなかったようで第2相のリクルートが始まっている。すでに80億円以上のファンドマネーを集めているようで、第2相も進めるだろう。驚くことに、ファイザーも絡んでいるようで、まんざらガセネタでもなさそうだと思える。さてどうなるか、今後に注目したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月29日 医師の責任でアルツハイマー病のラパマイシン治験を進めるべき(1月23日号Science Translational Medicine掲載意見)

2019年1月29日
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アルツハイマー病(AD)に対する治療法の開発は高齢化する先進国にとって、最も緊急の課題になっている。これまで、βアミロイドタンパク質に対する抗体、ワクチン、アミロイドの切断を阻害するBACE阻害剤など様々な臨床治験が行われてきたが、結果ははかばかしくない。幸い、アルツハイマー病の基礎研究は着実に進展しており、これら以外にも多くの治療標的が見つかる可能性は高い。さらに、臨床治験の結果を判断する指標も、より正確に、短期で判断できるものが開発されると期待される。実際、もし新しい治療薬剤が開発できれば、世界中の患者数から考え、製薬会社はまちがいなく大きな利潤を得ることができる。従って、どんなにこれまでが失敗続きでも必ず研究を続けられると期待できる。

当然研究が進むと様々なADの治療標的分子が明らかにされると思うが、もし既存の安価な薬剤の中にそれが見つかった時、治験をおこなってくれる研究者や医師はいるのかという疑問が湧く。特に、ジェネリック薬品がある場合は、製薬企業がその主体になることは期待できない。実際このような例が、mTORと呼ばれている多様な作用を持つ分子に対する阻害剤ラパマイシンで、ADにも効果がある可能性があるにもかかわらず、全く臨床試験が行われていない。この状況を打破しようと、ワシントン大学やテキサス大学などの研究者が、ラパマイシン治験の重要性を訴えたのが、今日紹介する論文で1月23日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Rapamycin and Alzheimer’s disease: Time for a clinical trial? (ラパマイシンとアルツハイマー病:治験に進む時が来た?)」だ。意見論文なので、特に実験ということはないので、彼らの主張をそのまま紹介する。

ADも一種の老化過程: AD発症と経過に関わる最も強いリスクファクターは年齢で、55歳と85歳の間でADのリスクは700倍増加する。従って、もっとリスクとしての年齢の役割を研究すべきだし、年齢によるリスクを軽減する方法を開発するべき。

なぜラパマイシン :多くの論文が、ラパマイシンに老化を遅らせる働きがあることを証明している。これはラパマイシンの標的mTORが増殖や代謝など様々な機能を持っており、これを抑えることで寿命が伸びることが知られている。さらに、動物ADモデルでラパマイシンがアミロイドβの蓄積やTauタンパク質の沈殿を抑えることも示されている。またmTORを阻害することでADによる記憶が回復するという研究もある。

「治験失敗が恐ろしい?」:ラパマイシンはこれまでもガンや移植に利用されており、副作用についてもよくわかっているのに、どうして治験をしないのか専門家に聞くと、なんと「失敗が恐ろしい」という声が返ってきた。そしてその背景に、これまで前臨床はクリアしたにも関わらず多くの治験の失敗があるADというトラウマがあることに著者らは気づいて驚き、できればより簡単に効果評価が可能な指標を開発し、失敗を恐れずできるだけ多くの治験を行う体制を作る必要があると示唆している。

ラパマイシン前臨床試験はその第一歩:その意味で、動物を使ったADに対する効果を調べたラパマイシンの前臨床研究結果は十分行われており、臨床研究へ移行して問題はないので、これを医学界全体で進めるべきと提案している。

ラパマイシンに問題はないのか?:ラパマイシンは現在抗がん剤として用いられているが、当然様々な副作用がある。しかし、高齢者に対してもその程度は低く、5mg/weekでは副作用は大幅に軽減される。また長期使用については、移植後の免疫抑制で何年も使用されていることから、十分合理的知見を計画できる。

医師主導で治験は行われる:ラパマイシンにはすでにジェネリックも存在し、製薬企業に治験を行う動機付けは少ない。したがって、公的な助成も積極的に使った、治験がおこなわれるべきだ。

以上が著者らの意見で、熱意が伝わってくる。おそらく、多くのAD患者さんも間違いなく協力されるように思う。論文を見ていると、ラパマイシン以外にも様々な既存の薬剤の効果が前臨床で確かめられている。全世界あげて、すべての可能性がチャレンジされることを期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月28日 Brachyuryは脊索腫に必須の転写因子(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2019年1月28日
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古い世代の発生学者にとってbrachyuryという分子は、他の分子より大きなインパクトを持っていたと思う。もともとマウスの尾が短くなる突然変異として単離されたが、突然変異の解析から、当時の発生学が最も集中して研究していた中胚葉、特に脊索の発生に異常が起こることがわかり、早く遺伝子が何か知りたいと皆考えていた。1990年HerrmannとLehrachによって遺伝子がクローニングされた。私たちも熊本大学で、大理石病マウスの遺伝子を特定していたので、Hans Lehrachには何回か小さな発生遺伝学の会議で話を聞くことができた。このbrachyury遺伝子がマウスのprimitive streakに綺麗に発現しているのを見て、是非中胚葉分化も調べてみたいと思ったのを今でも覚えている。この希望は京都大学に移って実現できた。

今日紹介するハーバード大学からの論文はこのbrachyuryが発生に関わる腫瘍、脊索腫の話でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Small-molecule targeting of brachyury transcription factor addiction in chordoma (脊索腫のbrachyury転写因子強依存性を標的にした小分子化合物)」だ。

脊索は発生途上で消失するが、極めて稀に完全に消失しないで細胞が残ってしまうと脊索腫を作ると考えられている。すなわち脊索腫は奇形腫の一種と考えられる。発生学から考えて、当然この腫瘍にbrachyuryが重要な役割を演じることが推察されており、実際brachyuryが重複している場合に脊索腫の発生率が高まることが知られているし、他にも脊索腫の中にはbrachyuryのコピー数が増えているケースもある。しかし、多くは特に遺伝子変異はなく、brachyury依存性と決まったわけではなかった。

この研究ではまずCRISPR-Cas9を遺伝子ノックアウトに用いるスクリーニングで、脊索腫の増殖が低下する分子を探索し、最も強く増殖が抑制されるのがbrachyuryが欠損した時であることを見出す。

ただ、brachyury自体に特に変異があるわけではないので、この分子を標的にするためには遺伝子発現を抑える必要がある。そこで、brachyuryを強く誘導するエンハンサーを低下させる化合物が見つかるのではないかと、脊索腫の増殖を指標にスクリーニングを行い、期待通り、一般的な増殖阻害剤だけでなく、転写を抑制するCDK7やCDK9阻害剤を特定する。

これまでの研究で、CDK7やCDK9はスーパエンハンサーの形成を阻害して、転写を抑え、その結果細胞の増殖を低下させることがわかっていた。そこで脊索腫についてスーパーエンハンサーがどの遺伝子に形成されているのかを調べ、予想通りbrachyury遺伝子にスーパーエンハンサーが形成されていることを確認する。

最後にCDK7/9阻害剤が脊索腫の増殖を抑制する理由が、brachyury遺伝子の調節領域に形成されるスーパーエンハンサーが維持できなくなり、brachyuryの発現が低下するためで、スーパーエンハンサーの影響を受けない外来のbrachyuryを過剰発現させることで、増殖は部分的に回復できることも示している。

脊索腫はゆっくり増殖するが、浸潤性が高く、放射線抵抗性が強いため、治療が難しいが、CDK7/9阻害剤は多く開発されているので、是非臨床治験がうまくいくことを願っている。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月27日 右派はフェイクニュースが好き(1月25日号Science掲載論文)

2019年1月27日
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モラー特別検察官によるロシアゲート事件捜査は大詰めを迎えているようで、昨日もウィキリークスと内通してヒラリークリントンのメール流出を促していた件について、トランプ陣営の元幹部、ロジャー・ストーンが逮捕された。しかし、この事件は政治を決める現代の「一般意志」が、メディアやSNSに溢れる情報に影響されてており、政治家もそれを積極的に利用しようとしているのがよくわかる。例えば、我が国の報道の自由度は72位と台湾45位、韓国63位より遅れており、中国支配の強まった香港と肩を並べていることは、政治がメディア支配を強めていることを如実に物語っている。実際、メディアやSNSを統制・支配できないと、政治もなかなか打つ手がない。その結果がフェイクニュースを垂れ流すとするメディアの選別で、同じことはわが国でも起こっている。

実際にフェイクニュースを流すメディアは政治的立場を問わず存在している。ここから流れるニュースが2016年の米国大統領選挙前後にどうSNS上に流れたのを解析した論文がノースウェスタン大学から1月25日に発表されたので紹介する。タイトルは「Fake news on Twitter during the 2016 U.S. presidential election (2016年米国大統領選挙中にツイッター上に現れたフェイクニュース)だ。

この研究ではまずフェイクニュースを流しているニュースソースを特定し、1)すでに市民やジャーナリストによりフェイクニュースだけを意図的に流しているソースとして認定されているソース(Blackソース)、2)著者らが特定した編集過程でニュースを意図的に変化させるサイト(Redソース)、そして3)フェイクニュースを流しているが、これを意図的、系統的に行なっていることは確認できないサイト(orangeソース)の3種類に分けている。次に、この研究のために抽出した16442のツイッターアカウントで、それぞれのフェイクニュースがどう使われ、流されたのかを分析している。

ツイッターの内容からアカウントの政治的立場を極右から極左まで5段階にわけてフェイクニュースソースとの関係を分析している。

結果は以下のようにまとめられる。

  • フェイクニュースをツイートで流す人は多くない。
  • ツイッター上のフェイクニュースの8割はたった1%のアカウントからツィートされる。
  • シェアされたフェイクニュースの8割は0.1%のアカウントから出ている。
  • このようなフェイクニュースに偏ったアカウントは一日平均72回もツイートしているが、一般平均は0.1回。また、自分のコメントを載せ、写真をアップロードする政治マニアが多い。
  • フェイクニュースをよく利用するアカウントの政治的立場を比べると、極左、左派(アメリカでの話)はたった2.5%だが、右派、極右は16.3%にも及ぶ。すなわち右派がよりフェイクニュースを使う。
  • フェイクニュースをよく流す層は、高齢者で選挙に行く層ほど多い。

結論としては、ほとんどの人は一般ソースからのニュースを政治的判断に使っており、フェイクニュースに惑わされているという心配はないが、一部の政治マニア、特に右派がフェイクニュースをSNSに流している、という結論だ。しかし、SNSのおかげで、ここまで詳しい解析ができることこそ、私たちは学ぶ必要があると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月26日 猿と人間の単一神経細胞レベルでの比較(1月24日号Cell掲載論文)

2019年1月26日
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やろうとしていることは面白いのだが、そのために用いた手法がよく理解できない論文が、脳科学には多い。これはどんなに複雑な行動でも、それに関わる神経活動は結局興奮スパイクとして現れるので、それを目的に合った形で処理するうちに、極めて抽象的な指標になり、私のような素人の読者が、実際に起こっている過程を頭にイメージすることが難しくなるためだ。

今日紹介するイスラエルワイズマン研究所からの論文は、猿と人間の神経系の違いを単一神経細胞レベルで特定しようとした研究で、目的は大変面白く、よくわからないながらもなんとか最後まで読んだ。タイトルは「A Tradeoff in the Neural Code across Regions and Species (領域と種を超えて見られる神経のコードの折り合い)」だ。

結局理解の浅い人間に紹介されても余計わかりにくいと思うので、今回は猿と人間の違いをなんとかここの神経細胞の反応の違いに集約できないか頑張っているグループがあるという程度に理解してもらって、面白いと思われたら是非オリジナル論文を読まれることを進める。しかし、同じような課題を行なっている人間と猿の神経活動を細胞レベルで比べた研究はまずないと思う。

実際にはこのコラムでも紹介しているように、テンカンが起こる場所を特定するためには、電極を長期間脳内に留置した患者さんと実験ごとに電極を挿入したカニクイザルを使って比較を行っている。イメージを見せて思い出すという課題をこなしてもらっている間に、扁桃体と前帯状皮質の神経細胞のスパイクを記録しているが、これらの領域は課題を行うことに直接関わるのではなく、統合された感覚や判断を処理する高次の過程に関わっているため、単一の神経活動は課題に関わる脳の反応全体が反映されていると考えられる。しかし、一個一個の神経はあくまでも興奮スパイクでしか評価できないので、このスパイクの特徴を読み取るための様々な手法を使うことになる。

普通スパイクを処理するとき、スパイクの全体数や反応のスピードを判断し、これにより神経反応の信頼性を図る。この研究では、これに加えてスパイクのパターンを言語に見立てて、意味のあるパターンを取るかどうかを調べるエントロピーという指標を導入し、一つの神経が行なっている情報伝達の量を測っている。これにより、一つの神経の反応の速さや信頼性を反映した一種の規則性と、処理している情報量の両方の数値を比較できる。少し具体的に言うと、神経細胞が規則的に反応している場合は、多くの神経は同じように反応している。しかし、情報量は乏しい。一方多くの情報量を伝える場合は、規則性は失われるといったような話だ。

この研究の問題はこうして指標を決めた後は、全くそれぞれの抽象的指標だけが一人歩きしてしまうので、ついていくのが困難だが、この指標を使うと何がわかったのかだけ、箇条書きにしておく。

  • 人間の神経細胞は、反応性は犠牲にしても多くの情報を伝えられるようにできている。
  • 猿でも、人間でも、前帯状皮質の方が扁桃体より多くの情報を処理している。
  • 反応性と情報性は逆相関する。
  • 猿の扁桃体は、従って、最も情報処理量が低いことになるが、そこに存在する神経細胞の多くが同調して活動している。要するに、反応の多様性が少ない。

とまとめていいだろう。結論を見ると、納得なのだが、これが単一神経細胞レベルの特性としてあるのかと言われると、おそらくそうではないだろう。しかし、全ネットワークに表象された情報の全体が、一個一個の細胞でどう見えるのか、こんな地道で大変な作業を繰り返す必要があるのかと、困難に唖然としてしまう。

感想:これほど読むのに時間がかかり、それでも理解が浅いと反省する論文は、どうしても敬遠してしまうが、頑張って今後もできるだけ紹介したい。

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1月25日 CRISPR/CASによる遺伝子治療は必ずしも遺伝子編集ではない(1月18日号Science掲載論文)

2019年1月25日
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久しぶりにCRISPR/Casについての論文を取り上げる。さて、昨年の暮れから中国南方科技大学の研究者がヒト受精卵にCRISPR/Casを導入した後、子供が生まれた話で持ちきりだった。実際に思うとおりに編集が起こったかどうかはわからないが、行為自体は倫理的にどうこうというより、人間のゲノムを傷つける犯罪だ。というのも、使われたCasはおそらく強い遺伝子切断活性を持っており、目的の遺伝子どころか、他の多くの場所が切断される恐れがあるからだ。人間には片方の遺伝子が傷つくと、異常が起こる遺伝子が少なくとも200種類はある。この危険性を知った上で、敢えて受精卵の遺伝子編集を行ったことは、間違いなく生まれてくる子供を傷つける犯罪だ。

さて、このCasが持っている強い遺伝子切断活性の為に、この技術は使い物にならないと極論する人たちがいるが、この意見も間違っている。現在、この切断活性の特異性を高める技術が開発されつつあるし、そもそもCasの切断活性を用いないで遺伝子編集も行わず、遺伝子の発現を上げたり下げたりする事が可能だ。実際、今から3年も前にこのコラムで紹介したが(http://aasj.jp/news/watch/2571)、Casの切断活性を完全にのぞいて、代わりにヘルペスウイルスの持つ遺伝子を活性化させるタンパク質を結合させ、このCas-VP64をRNAガイドによって目的の遺伝子上流にリクルートし、その遺伝子を全く編集することなく活性化することができる。このように、CRISPRの技術を遺伝子編集技術と称することすら間違っているのだ。したがって、この方法を用いると、遺伝子の発現量が下がって病気になっている遺伝病を治すことが可能だ。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、2本ある染色体の片方の遺伝子の機能が失われると肥満になる脳の下垂体で発現しているSim1とMc4r遺伝子を標的に遺伝子治療が可能か調べた研究で、1月18日号のScienceに掲載された。タイトルは「CRISPR-mediated activation of a promoter or enhancer rescues obesity caused by haploinsufficiency (CRISPRを用いたプロモーターやエンハンサーの活性化により片方の遺伝子が失われることで起こる肥満を治療できる)」だ。

DNA切断活性を完全に除去したCasを用いて遺伝子の活動を操作する方法は、編集を伴わないため安全性が高い。このグループは随分前からこの方法を磨いており、この研究はその前臨床研究の仕上げといったところだ。標的には遺伝子の発現量が半分に低下するだけで摂食行動が変化し肥満に陥る下垂体で発現する2種類の遺伝子に絞って、まず細胞株を用いてCas-VP64と組み合わせた時、遺伝子発現が上昇するガイドRNAを特定している。プロモーター、エンハンサー両方の部位のガイドRNAで遺伝子発現を高めることができるが、Cas-VP16は特異的遺伝子にリクルートされ、他の遺伝子のプロモーターの活性化は検出されない。

次に、この系を組み込んだトランスジェニックマウスを作り、Cas-VP64で残った正常遺伝子の発現を高め、肥満が改善するか調べ、期待通りの結果を得ている。また、特に副作用も認められない。

そこで最後に、ガイドRNAとCas-VP64を別々にAAVベクターに組み込み、下垂体に直接注射して様子を見ると、どちらの遺伝子の場合も遺伝子発現が高まり、摂食が低下し、肥満が治ることを示している。

詳細はほとんど省いてエッセンスだけ紹介したが、すでに前臨床試験はクリアしたところまで来たように思う。あとは、臨床試験に進んで問題はないと思う。同じように遺伝子発現量が減ることで病気が起こる遺伝子は200以上あるため、これがうまくいけばガイドだけを変えて治療が可能になる。また、ガイドを増やすことで、いくつかの遺伝子を同時に高めることもできる。原理的には遺伝子そのものを導入するのと同じだが、アデノウイルスベクターに組み込みにくい大きな遺伝子でもこの方法だと活性化できる。 繰り返すが、CRISPR技術は必ずしも遺伝子編集を伴わない。実用化は、編集が必要ないプロモーターの活性化や、エピジェネティック調節から始まると思う。メディアの報道や、専門家の意見を聞いていると、編集しか頭にないようだが、着々とCRISPRの技術は進化し、患者さんに届くようになると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月24日 生殖補助医療による出産時の異常(1月14日The Lancetオンライン掲載論文)

2019年1月24日
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ノーベル賞に輝いたエドワード博士が最初に生殖補助医療による出産、すなわちいわゆる試験管ベイビーに成功したのは、今から40年前だが、その数は増え続け、わが国では全出生数の5%を超えているのではないだろうか。 5%というと、もはや当たり前の治療になったということだが、それでも周産期にさまざまな障害が起こる統計が多く、お母さんにもこのリスクは告げた上での治療だと思う。実際、卵を凍結したり、受精時期が遅れたり、あるいはホルモン療法が行われたりと、生殖補助医療には様々な余分な介入が必要で、これらの操作自体に、ある程度のリスクがあるのは当然だと思ってしまう。

今日紹介するロンドン政治経済科学大学からの論文は、フィンランドの出生記録と様々な投薬記録から、生殖補助医療による出産を特定し、特にその中で自然妊娠と生殖補助による妊娠の両方を経験した家族について調査して、生殖補助医療自体のリスクを調べようとした研究で1月14日The Lancetにオンライン出版された。タイトルは「Medically assisted reproduction and birth outcomes: a within-family analysis using Finnish population registers (生殖補助医療と出産:フィンランドの人口登録を用いた家族内での分析)」だ。

これまでの研究と同じで、生殖補助医療を受けた胎児の出産と、正常胎児の出産を単純に比べると、年齢などを補正しても、確かに出生児体重は60.5g程度低く、さらに早産の危険性が2.15%上昇する。

しかし自然妊娠による出産と生殖補助医療による出産の両方を経験した家族で、出産時の体重を比べてみると、自然妊娠による子供より前に生殖補助医療による子供を出産した場合は、出生児体重が163g低下し、早産率が上がるが、自然妊娠で生まれた子供の後に、もう一人生殖補助医療で出産した場合は、生殖補助医療による妊娠で生まれた子供の体重が50g多い事がわかった。

すなわち、同じ母親から生まれた子供で比較した場合、早く生まれた方が出生時体重が低いということは、胚の操作自体は、少なくとも出生時の体重や早産には影響がないことを強く示唆している。

5%が生殖補助医療という状況では、もややリスクを云々しても仕方がないが、今回の結果は、少なくとも周産期の問題については、ほぼ安心できることを強く示唆している。単純な統計だけで満足せず、大規模データから同じ母親からの子供を比較しようと考えた著者らに脱帽だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月23日:がん組織に浸潤するT細胞の分化(2月6日号Cell掲載予定論文)

2019年1月23日
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このコラムで何度も紹介してきたが、組織に存在する細胞を取り出して、それぞれの細胞について遺伝子発現を網羅的に調べるsingle cell transcriptomeは、様々な領域でこれまで不明だった問題を快刀乱麻解決し続けている。ガン領域では、がんの多様性のみならず、癌組織に浸潤するリンパ球について、どの細胞が多いのか、ガン抗原特異性はあるのか、幾つのクローンからできているのか、などなど多くのことがこの解析から明らかになり、オプジーボも含めガンの免疫療法を解析する最も重要な手段になっている。ただ、急速に多くの論文が発表されていることから、やれることはほとんどやり尽くされているのではと思っていた。

今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文は、がんに浸潤するリンパ球のsingle cell transcriptomeと全く同じ研究を行なっても、ちょっと見方を変えればまだまだ新しい発見があることを教えてくれた研究で2月6日号のCellに掲載予定だ。タイトルは「Dysfunctional CD8 T Cells Form a Proliferative, Dynamically Regulated Compartment within Human Melanoma (機能不全のCD8T細胞が人間のメラノーマ組織で動的に調節を受けているし増殖性の集団を形作っている)」。

この研究も、single cell transcriptomeを用いた他の癌組織のリンパ球研究と同じことをしているだけで、メラノーマ患者さん25人の腫瘍組織からsingle cellを調整し、そのなかのT細胞に焦点を当てて解析している。結果はもちろんこれまでの研究と同じで、キラーT細胞から免疫チェックポイント分子を発現する機能不全におちいったCD8陽性細胞、未刺激細胞、メモリー細胞、そしてNK細胞までほぼ全てのサブセットが存在する。ただ、この研究はどのタイプの細胞が存在するかだけではなく、キラー細胞を含むCD8T細胞が極めて多様な集団からできている点を重視して研究している。

そこで、この多様性を特徴付ける遺伝子について調べ、CD8陽性細胞が、1)キラー細胞、2)PD-1やLAG3といったチェックポイント分子を全て発現している機能不全細胞、そして3)両者の中間細胞に分けられ、それぞれの集団は決して分離できるのではなく、連続的に分布していること、そして、このチェックポイント分子を発現した機能不全型CD8細胞の割合は、患者ごとに大きく異なることを明らかにしている。すなわち、免疫治療の標的であるチェックポイント分子を発現しているこの論文でいう機能不全型のCD8(CD4も同じ)細胞自体が、多様な集団であることを示せたのが、この研究の第一のハイライトになる。

これまで、PD1やLAG3のようなチェックポイント分子は、T細胞の免疫を落とす役割を持つことから、細胞の増殖を抑制すると考えられていたが、細胞周期分子や、T細胞受容体の発現からわかるクローン性を調べることで、ガン組織内では、この機能不全T細胞が最もクローン性の増殖を行なっている集団で、ガン抗原に対して反応していることを証明している。また、同じタイプの機能不全型CD8細胞は末梢血に見られないため、おそらくガン組織で分化し、一生を終える集団だと結論している。

そして第二のハイライトだが、T細胞受容体を指標にクローン性を調べると、驚くことに、中間段階と考えていたCD8細胞と機能不全細胞には同じクローンが多く存在し同じ細胞から分化してきた集団と考えられるが、明確なキラー活性を持っていると思われる集団は、これらとは全く無関係の存在で、同じT細胞受容体を全く共有していないことがわかった。すなわち、キラー活性を持つ細胞が誘導された後、PD1を発現して機能不全型へと分化するのではなく、両者は全く別々に未熟細胞から誘導されて来ることが示された。そして、腫瘍に対する反応性を見ると、これも驚くことに機能不全型の細胞のみがHLA+ガンペプチドに反応していることを示している。

話は以上だが、この論文を読むと、これまでのsingle cell profilingの研究とは全く違った景色が示され、これまでの研究はなんだったのかと思ってしまう。もしこの論文が正しいとすると、ガンに浸潤し組織で増殖する機能不全型CD8T細胞のコントロールが、ガンの免疫治療のポイントで、チェックポイント分子を抗体でブロックしつつ、増殖を維持させるようなテクノロジーの開発が必要になるという結論になる。もちろん、機能不全型T細胞はガン抗原刺激で炎症サイトカインを分泌するが、キラー活性があるのかどうかはわからないので、今後、この細胞がガンを殺せるか、あるいはどの細胞が顔を殺しているのか確かめることがまず必要だろう。もしガン免疫が組織で作られる機能不全型により担われていることが確認されれば、治療法は大きく変わる予感がする。

毎日毎日、新しい話が生まれる。これがガンの免疫療法分野の今だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月22日 医療保険の請求書を使う遺伝学(Nature Geneticsオンライン版掲載論文)

2019年1月22日
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昨年5月から施行された次世代医療基盤法は、デジタル化された膨大なレセプトデータを実際に行われた検査や治療と匿名化して連結させたビッグデータを、様々な研究に使えるようにしようとする法律で、我が国の医学医療にとって重要な一歩になると個人的には思っている。この作業は、最も重要な個人情報を含むため、この法律では国が認めた認定業者が行うが、認定のハードルは高く、日本医師会以外は現在のところ手を挙げている団体はないように思う(正確には把握していない)。

ただ、膨大な数のレセプトがあれば何が可能かを示す論文がハーバード大学からNature Geneticsオンライン版に掲載された。タイトルは「Repurposing large health insurance claims data to estimate genetic and environmental contributions in 560 phenotypes (膨大な健康保険の請求書データを560種類の形質について遺伝と環境要因を推定する目的に変換する)」だ。

米国の医療保険は最低限の公的保険もあるが、オバマケアでも民間保険会社と契約するのが基本で、契約者が医療を受けると、かかった費用を保険会社に請求し費用が還付される仕組みになっている。このクレームが日本でいうレセプトの役割を果たしているが、これにはコード化された病名とかかった費用の明細、および一部は検査データも添付されている。もちろん病気の詳しい解析はできないが、厳しいガイドラインで保険が運用されているため、病名や患者さんの状態についてはかなり正確にわかる。

ただ、いくらビッグでもクレームデータだけから病気の遺伝的あるいは環境的要因が本当に推定できるのか不思議に思うが、読んでみると素晴らしいアイデアだと納得する。すなわち、クレームの中から同じ日に生まれた同じ家族のメンバーで遺伝的に近い双生児を抽出し、双生児の間で有意に相関性が高い病気や状態を遺伝的要因が関与すると判断する。一方環境要因の推定は、クレームに記載されたZIPコードから同じ地域に住んでいるかどうかを判断し、同じZIPコードの人の間で高い相関を示すものを環境要因に作用されていると判断している。これ以外のことは全く調べておらず、遺伝子も調べていない。要するに、アイデアさえあれば、レセプトからも遺伝と環境という医学で最も重要な問題を研究できるわけだ。

研究では4500万のクレームデータを分析し、なんと72413人の兄弟姉妹、そして56396人の双生児(一卵生、2卵生を含む)を抜き出すことに成功している。そして、560種類の病気や状態の中から双生児の間で一致率が高い状態を遺伝性があると判断し、またZIPコードが一致した同じ地域に住む人の方が一致率の高い状態を環境要因が高いと判断している。

この結果、560のうち225種類の病気や状態は何らかの遺伝性があると判断され、最も一致率の高いのが定量的検査データの数値や認知機能に関わる形質だった。一方、ZIPコードとの相関から判断する環境要因が関わる形質は138種類存在し、その中で最も高い一致率があったのが眼科疾患と呼吸疾患だった。面白いことに、医療費も遺伝的要因が大きい。これは病気の頻度、深刻さが遺伝的に影響されることを示しているのだろう。環境要因では、ZIPコードから、平均気温、大気汚染なども調べることができるため、様々な汚染物質の疫学も将来可能になると思う。

最後に、他の双生児研究の結果と比較が行われ、クレームから判定する今回の方法も、これまでの双生児研究と同じ結果が得られることを示している。

結果は以上だが、レセプトの病名が完全なら、わが国でも新しい法律がなくとも十分今回のような研究は可能だろう。もちろん、これに様々なデータがリンクされることで、さらに詳しい状態解析が可能になると期待できる。ただ、今日紹介した論文を読んで、この匿名化してデータを加工する作業が一体どのぐらいかかるのかという点と、この研究のように公開されたデータを使って創意溢れるアイデアで、ビッグデータを解析できる研究者がどれほど我が国にいるのかも少し心配になった。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月21日 エイズウイルスは自然免疫をどう逃れるのか?(Natureオンライン版掲載論文)

2019年1月21日
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私たちの体にはウイルスに対する様々な抵抗手段が備わっているが、全てウイルスを感知するところから始まる。抗体やT細胞による免疫反応は、ウイルス抗原を処理し、ペプチド抗原としてT細胞に提示するところから始まるが、これ以外にも自然免疫システムがあり、多くの場合侵入してきたウイルスの核酸を認識して、インターフェロンなど自然免疫反応が誘導される。逆に、人工的に合成した核酸でこの感知システムを刺激するのが、拡散アジュバントだ。

エイズウイルスなどRNAウイルスの場合、侵入したRNAが宿主のRNAと区別して感知されるのだが、これはホストRNAのリボースの一つの水酸基を2’O―MTaseでメチル化することでウイルスから区別されている。すなわち、このマークがないとウイルスのセンサーに引っかかる。もちろんウイルスの方もさるもので、ホストと同じ2’O―MTaseを使って自分のRNAを2’Oメチル化してセンサーを逃れる種類がある。しかし、自分で2’O―MTaseを持っていなくとも、自然免疫を刺激しないウイルスもあり、その一つがエイズウイルス(HIV)だ。このため、HIVも何らかの方法で自らのRNAを2’Oメチル化していると考えられる。

今日紹介するフランスモンペリエ大学からの論文はHIVが自然免疫を逃れるメカニズムを明らかにした、結構オーソドックスな研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「FTSJ3 is an RNA 2′-O-methyltransferase recruited by HIV to avoid innate immune sensing (FTSJ3はRNA2’-O-メチル基添加酵素をリクルートして自然免疫の感知を逃れる)」だ。

あとでデータが示されるが、著者らはHIVも2’Oメチル化されることで自然免疫に感知されないことを知っていたと思う。もしウイルスゲノムに2’Oメチル化酵素が存在しないなら、ホスト細胞の2’Oメチル化酵素をウイルスも使うシステムがあるはずだと考えた。そこでHIV のLTRを活性化するRNA-結合タンパク(TRBP)に注目し、これが2’Oメチル化酵素をHIV RNAに連れてくると考え、TRBPに結合するタンパク質を探索したところ、2’Oメチル化酵素活性を持つFTSJ3を特定することに成功した。

実際HIVを感染させた細胞でもFTSJ3とTRBPが結合しており、またTRBP結合サイト(TAR)を持つHIV-TAR-RNAにリクルートされることも明らかにしている。そして、HIVウイルス粒子内のRNAが2’Oメチル化されており、感染細胞からFTSJ3をノックアウトすると、ウイルスRNAのメチル化が抑制されることを明らかにしている。すなわち、最初考えられた様にウイルスはTRBP と結合する能力を身につけることで、TRBPが2’Oメチル化酵素FTSJ3を利用して2’Oメチル化し、自然免疫から逃れられる様になる。

最後にこのシナリオを確認するため、FTSJ3欠損した細胞で合成させたHIVを単球細胞株に感染させると、インターフェロンが合成されることを確認している。すなわち、FTSJ3がウイルスを2’Oメチル化し、自然免疫から守っていることを証明した。

またHIVの一つの弱点が見つかり、今後ひょっとしたら治療につながるかもしれない。とはいえこんな論文を見ていると、動物と病原体の間で続いている永遠の競合をひしひしと感じることができる。

カテゴリ:論文ウォッチ