12月19日 エボラウイルス感染の血清治療(12月12日号 The New England Journal of Medicine )
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12月19日 エボラウイルス感染の血清治療(12月12日号 The New England Journal of Medicine )

2019年12月19日

今年9月初旬ウガンダ旅行に出かけたが、コンゴからウガンダへエボラ感染者が飛び火したことを聞いたかみさんや同行の友人から、大丈夫かと聞かれた。もちろんガイドさんが感染していたという可能性がないわけではないが、医療奉仕団として患者さんに触れない限り、まず感染することはないと答えて、そのまま旅行を敢行した。

ちょうど同じ時期、エボラ感染だけでなく、内戦や政治による危険にも晒されているコンゴで献身的に働くWHOの医療メンバーのことが、9月11日号のNatureに掲載されていた(https://www.nature.com/articles/d41586-019-02673-7)。今日紹介するWHOやコンゴの生物医学研究所をはじめとする国際チームからの論文は、昨年から今年8月までエボラ感染治療に開発された4種類の治療法を比べた研究で12月12日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「A Randomized, Controlled Trial of Ebola Virus Disease Therapeutics (エボラウイルス感染に対する治療の無作為化比較試験)」だ。

エボラ感染についてはすでにモノクローナル抗体を用いたいわゆる血清治療に相当するZMappと呼ばれるヒト化抗体ミックス、あるいはウイルスのRNAポリメラーゼ阻害剤Remdesivirが開発を終えており、さらに2種類のモノクローナル抗体薬、Mab114およびREGN-EB3が開発され、それぞれ第1相試験が終わっていた。

この研究は、これら4種類の治療法の効果を比較することで、無治療という対照群は設定していない。患者さんが発見されると、ウイルスが体内でどのぐらい増殖したかを測定した後、無作為化してこの4種類の薬剤を投与し、最終的には回復したか、あるいは死亡したかを調べている。

これまでの統計によると、エボラ感染の死亡率は50%前後で、これに対しZMappやRemdesvir 投与群ではやはり50%前後と、あまり効果がない。一方、新しい抗体治療Mab114で35.1%、REGN-EB3で33.5%だった。

一時メディアで治癒率9割の新薬としてこの治験の途中経過が紹介されたいたが、おそらくこれは感染初期でまだウイルスレベルが低い段階で治療した群で、それぞれ9.9%、11.2%だった。もちろん放置すれば初期でも半数は死亡することから、著効を示したことがわかる。

他にもデータが示されているが、これで十分だろう。古い言葉で言うと、ウイルスに対する抗血清療法が開発でき、感染初期であればその効果は高いことから、さらに早期発見、および薬剤の常備が進めば治癒率をさらに上昇させることは難しくないだろうと思う。

この研究では、同時にワクチンを受けていた患者さんについても経過を調べているが、現在のワクチンだけでは感染は防げないが、病気の進行を抑えることができるため、これら抗血清の治療効果が高まると結論している。従って、ワクチンも接種を続ける意味はあるように思える。

結果は以上だが、ディスカッションで内戦や政治・経済の混乱でこの治験がいかに大変だったかが書かれており、生々しいレポートだと感激した。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月18日 シヌクレインの集合体の構造が脳の神経変性の病態を決める(12月2日Nature Neuroscience掲載論文)

2019年12月18日

パーキンソン病、レビー小体認知症、そして多系統萎縮症は、それぞれ障害される部位が異なる脳変性疾患だが、いずれもαシヌクレイン分重合してできる沈殿が細胞内に見られることがわかっており、全体をシヌクレイン症として把握されるようになってきている。しかし、もし全ての病態が同じシヌクレインから起こるのだとすると、なぜシヌクレインの沈殿が見られる部位が異なるのかが大きな謎として残っている。

今日紹介するトロント大学からの論文は、シヌクレイン症がプリオン病と同じように、鋳型となるシヌクレインの構造が再生産されること、この時鋳型となるシヌクレインの形が病気の分布や進行度をきめることを示し、同じシヌクレイン症でも病状が異なる理由を示した研究で、12月2日号のNature Neuroscienceにオンライン出版された。タイトルは「α-Synuclein strains target distinct brain regions and cell types (αシヌクレインの系統により蓄積する脳の領域や細胞が異なる)」だ。

繰り返すが、この研究は

  • シヌクレイン症は狂牛病のようなプリオン病と同じで、沈殿型のシヌクレインの構造を鋳型として、同じ立体構造を持つシヌクレインが再生産される、
  • そして、同じシヌクレインでも鋳型となる分子の立体構造違いから、異なる構造のシヌクレインができることで、蓄積場所や病状などの違いができる、

という2つの作業仮説を立てて進められている。

遺伝性のシヌクレイン症の変異を持つシヌクレインを合成し、これを100mMの食塩の存在、非存在条件で沈殿させる。すると、長さや物理化学的性質の異なる繊維状の構造が形成される(食塩存在下をS繊維、非存在下をNS繊維とする)。

こうしてできたS 沈殿、NS沈殿を変異型遺伝子を発現するマウスの脳に注射すると、いずれも神経変性症状を示し、プリオンと同じで脳から脳へと継代が可能だが、

  • S繊維は鋳型としての能力が高く、異常分子の再生産が早い結果、早く病気が進行すること、
  • NS繊維は脳の様々な場所に分布するが、S繊維は海馬や中脳に限局して蓄積する、
  • S繊維は神経細胞にしか蓄積しないが、NS繊維はアストロサイトにも蓄積する、
  • S繊維によるシヌクレイン症は、多系統萎縮症患者さんの脳に存在するシヌクレイン繊維と似ている。
  • 一方NS繊維によるシヌクレイン症はM83マウスモデルの脳や、パーキンソン病、レビー小体認知症の脳を移植したシヌクレイン症に似ている。
  • これらの違いは、構造の分子的安定性と相関しており、S繊維や多系統萎縮症のシヌクレインのように不安定だと、広い範囲に広がる。一方、NS繊維やパーキンソン病のシヌクレインは中程度に不安定で、その結果蓄積が限定する。しかし、レビー症体痴呆症のシヌクレインのような安定した構造の場合、プリオンのような拡大する性質がほとんどない。

などが明らかになった。

結果は以上で、全てのデータがαシヌクレインの変異分子の一部が、プリオンと同じような感染性を持つことを示すとともに、これまで明確でなかったαシヌクレイン症の多様性を説明した面白い結果だと思う。特に、試験官内で合成したシヌクレインを感染性タンパク質として使うことができるようになり、プリオン仮説のより精密な検証が可能になると思う。


カテゴリ:論文ウォッチ

12月17日 最強のCAR-Tを求めて(12月12日 Nature オンライン掲載論文)

2019年12月17日

がん細胞が発現する抗原に対する抗体と、T細胞刺激に最適化されたT細胞抗原シグナル分子を合体させて、ガン特異的キラー細胞を作成する方法は、今年我が国でも保健医療として認可を受け話題を呼んだ。この治療が本当に3000万円の価値があるのかどうかは受けた患者さんの意見を統合して今後判断する必要があるが、小児の急性リンパ性白血病に関しては、再発率が50%に近く、様々な改良が行われている。また、固形癌にも効果があるCAR-Tはまだ完成形が見えていない。

今日紹介するセントジュード病院からの論文は、メラノーマに対するCAR-Tをモデルに、より高い効率で腫瘍組織に浸潤できるCAR-Tの条件を探索した研究でNatureオンライン版に掲載されている。タイトルは「Targeting REGNASE-1 programs long-lived effector T cells for cancer therapy (REGANASE-1をノックアウトするとガンに対する長期生存T細胞をプログラムできる)」だ。

メラノーマのような固形癌に対するCAR-Tの効率をあげるには、キラー細胞がガン組織に浸潤するようにプログラムする必要がある。この研究では、Cas9を3000種類の代謝関連遺伝子をノックアウトできるガイドRNAとともにキラー細胞株に導入し、それをメラノーマを移植したマウスに注入、その腫瘍組織から浸潤しているCAR-Tを精製してノックアウトされている遺伝子を調べ、どの遺伝子がノックアウトされると浸潤性が上がるのかを探索している。

この結果REGANASE-1遺伝子が欠損したT細胞が腫瘍組織に多く存在することがわかった。そこで、改めてこの遺伝子を欠損させたCAR-Tを作成してメラノーマ移植マウスに投与すると、腫瘍組織に長期間止まり腫瘍を殺す効率が高まることがわかった。

この腫瘍組織に蓄積されるメカニズムを調べるため、腫瘍組織内に浸潤しているREGNASE欠損細胞を取り出し、遺伝子発現を調べると、いわゆる記憶T細胞に関わる遺伝子の発現が高まっていることがわかり、この遺伝子が欠損することでガン局所でキラー細胞が免疫記憶T細胞へとプログラムされることがわかった。さらに解析を進め、REGNASEはキラー細胞の増殖とそれに伴う疲弊を高めており、この遺伝子を欠損させると、細胞増殖が抑えられる代わりに、寿命が延長し、その結果主要組織に長く留まることを明らかにしている。

次に、RGNASEノックアウトされたキラー細胞をスタートに、新たにクリスパースクリーニングを行い、BATF分子の発現が上昇を通してRGNASEの欠損の効果が発現すること、またBATFはミトコンドリアの酸化的リン酸化を高める遺伝子群のクロマチンをオープンにすることで、ミトコンドリアの機能を高めていることを明らかにしている。

最後に、これまで同じような実験系で明らかにされていたキラー活性を制御するPTPN2やSOCS1との関係を調べているが、RGNASEとは関係がなく、両方が欠損すると、より高い活性を持ったキラーT細胞が調整できることを示している。

以上が結果で、PTPN2やSOCS1のような、出てきて当たり前の遺伝子ではなく、全く新しいキラー活性を制御する分子が見つかったという点では重要な貢献だと思う。ただ、REGNASEとSOCS1をノックアウトしても、いつかは再発するということもデータから見て取れるので、固形癌についてはまだまだ最強のCAR-T完成とは行かないこともよくわかった。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月16日 世界最古の狩の絵がインドネシアで発見された(12月12日 Natureオンライン版掲載論文)

2019年12月16日

いつ我々の先祖は絵を描くようになったのか?ネアンデルタール人は絵を書いたのか?これらの疑問は現在人類進化学の最大の問題となっている、というのも、言語発生に必要なシンボル化能力の発生は、まず絵画を描く行為で検証できると考えられているからだ。すなわち、絵画が発見されると、その人間が言語を話していた可能性が高まる。

では世界最古の絵画はいつ頃書かれたのだろう?はっきりとした像ではないが、絵画のようなものなら6万5千年前のスペインの洞窟に残っており、年代からネアンデルタール人によるとしか考えられず、これが絵画能力を示すのか、そうでないのか現在も議論が続いている。一方、私たちが洞窟絵画として思い浮かべるような動物の像がはっきり描かれているのは4万年以上前には存在せず、またその全てはヨーロッパで製作されたと考えられてきた。

ところが今日紹介するオーストラリア・グリフィス大学を中心とする国際チームの論文は、宗教的な人間像を含む動物の絵が描かれたインドネシア・スラウェシ島(以前はセレベス島と呼ばれていた)の洞窟画は、4万年より前に描かれたことを示す研究で、12月12日 Nature オンライン版に掲載された。タイトルは「Earliest hunting scene in prehistoric art(有史以前の最古の狩の絵)」だ。絵の一部はNature サイトで一般にも公開されている(https://www.nature.com/articles/d41586-019-03826-4 )。

この論文のメッセージは単純だ。インドネシア・スラウェシ島で見つかった洞窟絵画には、大きな水牛や、イノシシなどの動物とともに、狩をする人間の姿が描かれており、しかも描かれた人間の中には動物の頭を持つ獣人の姿も描かれている。すなわち、狩の状況を思い出してもう一度表現する能力をもち、しかも獣人(おそらく動物のお面をつけたか、被り物をつけた人間)を参加させて、安全を祈願したり、動物への鎮魂の意を表したり(これらは全て私の勝手な想像)といった、宗教的な精神性を持つ人間がインドネシアに存在していたことになる。

もちろん同じような絵や彫刻はヨーロッパにも出土しており、絵の内容だけでは「なるほどインドネシアにもあるのか」で終わってしまうのだが、なんと絵画の年代測定を行うと、同じ洞窟の壁に描かれた最も古い像は4万3千年前、最も新しい水牛や人間でも4万1千年まえに描かれたと推定され、ヨーロッパで見られる最も古い狩の絵と比べるとさらに古い、世界最古のものであることがわかった。

結果は以上で、実際には描かれた絵画の年代測定は難しいことから、この研究で使われた最新の方法が正しいかどうか、議論が続くと思われる。

個人的な空想をめぐらせると、インドネシアにこのような高いシンボル化能力を持った人間が存在したことは納得できる。というのも、アフリカから世界へと広がった我々の先祖にとって、先が見通せない海を渡るという決断には、船を作るシンボル化能力と、見えない先に生活できる陸地を想像する力と、集団をまとめる力が必要だったはずで、当然優れた絵画を描く能力がないと、不可能だっただろう。すなわち、優れた能力を獲得した集団だけが、海を渡ったはずだ。

このようにまだまだロマンは尽きない。

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12月15日 精神障害の背景遺伝子の共通性 (12月12日号 Cell掲載論文)

2019年12月15日

全ゲノムレベルで病気と相関する遺伝子多型を調べるGWAS研究は、最近新たなブームを迎えている。もちろんこの分野の歴史は長く、2000年を境に多くの論文が発表され、疾患ゲノム研究として第一次ブームを作った。このブームが再燃した最大の理由は、ゲノム検査を受けた人の数が飛躍的に増大し、疾患ゲノムもこれまでより1桁も2桁も違う数の対象を使って行うことができるようになったからだ。このおかげで、多くの遺伝子が複雑に絡まる病気のゲノムもより高い精度でわかるようになってきた。この典型が統合失調症やうつ病などの精神障害だ。

今日紹介するハーバード大学を中心とするコンソーシアムからの論文は、全部で23万人を超す8種類の精神障害のゲノム検査データから、各障害の共通性を調べた論文で12月12日号のCellに掲載された。タイトルは「Genomic Relationships, Novel Loci, and Pleiotropic Mechanisms across Eight Psychiatric Disorders (8種類の精神障害をまたぐゲノムの関連性、新しい相関領域、そして多面的メカニズム)」だ。これまでも精神障害のゲノム研究は行われていたが、最も大きな調査は3万人規模だった。今回は、統合失調症、双極性障害、うつ病、自閉症スペクトラム(ADS)、注意力欠損/多動(AHD)、強迫神経症、神経性無食欲症、そしてトゥレット症候群の8種類のゲノムデータを集め、それぞれの疾患と相関が認められ多型について、疾患同士で共通性がないかを確かめている。結果は膨大なので、私が面白いと思った点を箇条書きにまとめることにした。

  • それぞれの疾患と強く相関を示す多型が136種類特定できるが、このうち101種類の遺伝子は複数の精神障害共通に相関が見られた。
  • ゲノムの関連性から各障害の関連性を見ると、統合失調症と双極性障害の間、強迫神経症と神経性無食欲症のあいだ、そしてうつ病とADS、ADHDの間で強い関連が認められた。
  • 相関するゲノムから、それぞれの障害は脅迫的行動障害、ムード障害、そして発生障害に分けられる。
  • このモデルで見ると、うつ病はムード障害型と、発生障害型の異なる2種類の型に分けることができる。
  • 全ての障害と相関する多型としてネトリン受容体DCCが特定された。この分子は神経伸長に関わる最も重要な分子。
  • 疾患により逆の働きを示す遺伝子多型が特定され、双極性障害とうつ病が違うモーメントを持つ病気であることがわかった。
  • 神経発生に関わる遺伝子の多型が障害発症に多く関わっている。
  • 多くの障害と相関する多型が存在する遺伝子のほぼ全ては神経細胞、特に前頭皮質、前頭前野皮質に発現がみられる。
  • 一つの障害に強く相関する遺伝子の多くは、遺伝子発現の時期が強く制限されているが、多くの障害と相関する多面的遺伝子の発現は生涯にわたって発現するものが多い。

などなどだ。それぞれの障害同士の関連など、なるほどと思うことも多く、遺伝子の種類も100種類程度なので、興味のある人は一つ一つの遺伝子を眺めながら、それぞれの障害を考えることで、いろんなヒントが得られるのではないだろうか。しかし、ゲノム検査の数だけでなく、多くの情報処理技術が開発されたことも、現在のブームを生み出していることがよくわかった。

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12月14日 抗EGF受容体抗体治療による皮膚炎症のメカニズム(12月11日Science Translational Medicine掲載論文)

2019年12月14日

現在大腸癌を始めいくつかの上皮性ガンの分子標的薬として広く利用されているのがEGFに対する抗体だろう。根治は難しくとも、生存期間の延長が可能であることは確認されており、BRAFなどの下流の遺伝子変異が存在する場合の効果は高いことが知られている。

ただこの治療の最大の問題点は、抗体治療を受けている患者さんの多くに皮膚のアトピー様の炎症がおこることで、その結果治療を中止せざるを得ないことも多い。EGFはもちろんケラチノサイトを刺激するので、おそらく炎症性サイトカインの分泌を誘導するのだろうと考えられているが、これがEGF の直接作用か間接作用かなど、その原因ははっきり特定されていない。

今日紹介するウイーン医科大学からの論文はマウスを用いてこのメカニズムに迫った研究で12月11日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Hair eruption initiates and commensal skin microbiota aggravate adverse events of anti-EGFR therapy (抗EGF受容体抗体治療の皮膚副作用は、毛の生え出しによりトリガーされ、常在細菌により増悪される)」だ。

この研究では皮膚でのEGF機能阻害が最も強く現れるのが新生児期、毛根から最初の毛が現れる(hair eruption)時期であることに着目し、この時期にEGF抑制により起こる組織過程を丹念に調べ、毛根の幹細胞の増殖がEGF 阻害により抑制されることで、毛根から起こる皮膚のバリアー機能の修復不全が起こり、これが最初の炎症の原因となることを突き止める。これは新生児マウスに限らず、大人でも毛を剥がして毛根の再生を促したときに、抗EGF受容体抗体が皮膚の炎症を誘導することを示している。

このようにバリアー機能が壊れることで、緑膿菌のような常在菌が侵入しやすくなり、感染による炎症の増悪が起こるが、決して感染が最初の引き金ではない。あくまでもEGFの機能が抑えられ、バリアー機能が壊れること自体が、ケモカインや炎症物質の局所での発現を誘導し、TH2タイプの炎症がはじまることを確認している。その後感染が始まると、今度はTH17タイプの炎症が加わってくる。

この最初のシグナルがEGFシグナルカスケード抑制であることは、EGF下流のシグナルを遺伝子導入で活性化してやると、この炎症は抑制できることでしめしている。また、EGFの代わりにFGF7 を用いても、炎症を止める効果があることも示している。

最後に、皮膚癌で抗EGF受容体抗体治療している患者さんの皮膚サンプルを調べ、バリアーが壊れているのと同時に、ほぼアトピーと同じようなTH2タイプの炎症が起こっていることを確認している。

以上が結果だが、この研究から、

  • 皮膚副作用に対して抗菌剤は2次的感染を抑制する意味で効果がある。
  • 皮膚炎症が始まったらFGF7などの局所塗布により炎症を止めることが可能かもしれない。
  • 一方、病像がアトピーに酷似しているので、アトピーをEGF塗布により治療することができるかも知れない。

という2つの重要なメッセージが得られているような気がする。驚くほどの研究とは思えないが、地道にしかも臨床に役立つ情報が得られたと言える。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月13日 常識はずれの抗体の力(2月19日号発行予定Neuron掲載論文)

2019年12月13日

抗体は細胞の中では働かず、また全身に投与した場合中枢神経への浸透は脳血管関門により阻害されているというのが常識だと思う。もちろん、それでも

抗Aβ抗体のように脳内の病理を変化させるために使われる抗体もあるが、それでもほんの一部しか脳へ到達しないとされているし、ましてや細胞内へ到達するなどとは誰も考えなかった。

今日紹介するフロリダ大学からの論文はこの常識の全てをひっくり返す驚くべき研究で2月19日号のNeuronに発行予定だ。タイトルは「Antibody Therapy Targeting RAN Proteins Rescues C9 ALS/FTD Phenotypes in C9orf72 Mouse Model(C9orf72マウスの側索硬化症/前頭側頭型認知症をRANを標的にする抗体で治療する)」だ。

タイトルにあるC9orf72とは、遺伝的即作成硬化症(ALS)の中では最も多い遺伝的変異で、イントロンにあるGGGGCC という配列の数が増大して、センス、アンチセンス側からランダムに6種類のアミノ酸繰り返し配列(RAN ペプチド)が作られ、これにより神経変性が誘導される病気だ。

この研究ではまず、高齢者の末梢血から採取したB細胞の中から、センス側の2種類のペプチド(GAとGP)に対する抗体を作成し、これをマウスIgG2a/λクラスに変化して使っている。なぜ一般的なκにしないで、λにしたのか、よくわからないがここに秘密があるのかもしれない。

ます第一の驚きは、試験管内でRANが発現する細胞にこの抗体を加えると、何もしないで細胞内に入り、できたペプチドと結合し、さらにRANタンパク質の細胞内での処理を早める。もちろん普通抗体は細胞内に浸透しないが、これにはIgG2aに結合するFc受容体が絡んでいる。また、抗体が結合したペプチドは、抗体Fc部分を介してTRIM21ユビキチンリガーゼと結合し、プロテオソームやオートファジー経路で処理することを示している。これにより直接凝集したペプチドがプロテアソームに停留するのを防ぐことが可能になり、細胞死を防ぐことがわかった。

次に、この抗体をC9orf72からRANタンパク質を作るALSモデルマウスの腹腔に投与すると、驚くことに脳血管関門を通り、さらに抗原と結合していないフリーの抗体が神経細胞内に取り込まれて、RANタンパク質の除去を早め、神経症状を緩和することを示している。

特に毎週30mg/kgの抗体を打ち続けた実験でマウスの死亡率を強く抑制することを示しており、実際神経ないのRANペプチドの量が減っていることまで示して、臨床的にも応用可能であることを示している。

結果は以上で、現在根本治療のない患者さんにとったら素晴らしい結果だと言える。本来ならもっと騒がれてもいい研究結果ではないかと思う。ただ、私たちの常識に逆らうところがあるため、まだ疑う人も多いのかもしれない。ただ、これが正しいとすると、アルツハイマー病でのTauやあるいはレビー小体ができるシヌクレインに対しても同じ戦略が取れることになる。

とはいえ30mg/kgという濃度が必要な点、また完全に治るわけではない点も、抗体を細胞内で使うという離れ業の限界なのかもしれない。

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12月12日 1型糖尿病とエンテロウイルス感染の関係を探る(Nature Medicine12月号掲載論文)

2019年12月12日

1型糖尿病の発症時期を調べると、寒い時期に多いという統計があり、また多くのウイルス感染防御に関わる遺伝子多型と1型糖尿病の関連が報告されていることから、1型糖尿病がウイルス感染により引き金がひかれる自己免疫病ではないかと疑われてきた。

実際マウスモデルとはいえエンテロウイルスの一つコクサッキーウイルスBで誘導する1型糖尿病をワクチンで防げるという論文がDiabetological(61:476, 2017)に発表され、注目を集めた。というのも、コクサッキーウイルスは膵臓ベータ細胞に感染することが知られており、自己免疫病の引き金になると考えられるからだ。

では人間でも同じことが言えるのだろうか?これを確かめるためには、実際にウイルス感染と膵臓ベータ細胞に対する自己免疫病との相関を丹念に調べる必要がある。

今日紹介する論文は、ウイルスをはじめ、1型糖尿病(T1D)に関わる外的要因を調べるために組織された国際コホート研究チームによる研究で、膵島に対する自己免疫反応や、さらに進んだ1型糖尿病の発症と、便に排出されるウイルスの相関を調べた調査研究で12月号のNature Medicineに掲載された。タイトルは「Prospective virome analyses in young children at increased genetic risk for type 1 diabetes (1型糖尿病の遺伝的リスクの高い児童の前向き網羅的ウイルス解析)」だ。

この研究は膵島に対する自己免疫反応、そしてそれが進展した1型糖尿病の発症を前向きに追跡するコホート研究だが、3ヶ月齢より毎月便のサンプルが採取され保存されている。こうして集めた膨大な数の便に存在する全DNAを解析し、その中に存在するウイルスDNAの種類をしらべることができる。このデータを、追跡期間自己免疫を発症した383人、T1Dを発症した112人、そして発症しなかったグループと比較している。

便に存在するウイルスの72%はバクテリアに感染するファージウイルスで、20%がヒトに感染するウイルスになる。一番多いのはアデノウイルス、ついでParechovirus、bocavirus、そして問題のエンテロウイルスB、エンテロウイルスAが続く。この中にコクサッキーウイルスが含まれる。

ではこれらのウイルス感染と膵島への自己免疫反応やT1Dとは相関するのか。膨大なデータなので、詳細を全て飛ばして結果だけをまとめると次のようになる。

  • ウイルス感染と自己免疫の相関を調べると、やはりエンテロウイルス感染が最も高い相関を示すが、アデノウイルスなどでも相関が見られる。
  • エンテロウイルスも長期間慢性的便に排出された場合に自己免疫発症リスクが高まる。
  • 自己免疫反応で相関が見られたエンテロウイルス感染も、T1D発症時に限ると相関がはっきりしなくなる。

以上の結果は、エンテロウイルス(コクサッキーウイルスを含む)が原因となる自己免疫反応はまちがいなく存在するが、オッズ比で高くても3倍で、またT1Dとの相関は強くないことから、ウイルス感染だけで説明できるT1Dの比率は高くないことを示している。

エンテロウイルスだけでなく、同じ受容体を使って細胞に侵入するアデノウイルスと自己免疫反応の相関が認められたことは、ベータ細胞に慢性の感染が起こることが自己免疫の引き金になることを示している。従って、頻度は高くなくとも、コクサッキーBウイルスなどに対するワクチン開発は、医学にとって重要な課題だと言える。

これほど大規模なコホート研究が行われたことに敬意を評したい。

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12月11日 新しい抗体研究法(12月12日Cell 掲載論文)

2019年12月11日

これまで人間で抗原に対する抗体反応を調べようと思うと、抗原に結合している抗体を分離して、アミノ酸配列を調べるか、最近では抗原に結合するB細胞を分離してそれが発現する抗体遺伝子を調べる方法がとられる。ただ、抗体にしても、B細胞にしても、精製したときにはどの程度強い抗原特異性があったのかは、一旦アミノ酸配列が決定されて、抗体を再構成してからでないとわからない。

今日紹介するバンダービルド大学からの論文は、この問題をバーコードをつけた抗原を用いることで一挙に解決した面白い方法で12月12日号のCellに掲載された。タイトルは「High-Throughput Mapping of B Cell Receptor Sequences to Antigen Specificity(B細胞の抗原受容体のハイスループット解析)」だ。

基本的には方法論の問題なので、その点のみ詳しく紹介する。

この方法では現在急速に普及している単一細胞の遺伝子解析技術を用いている。まず抗原に蛍光とDNAバーコードを結合させる。この抗原をB細胞集団と混合して、抗原に結合した細胞だけをまずセルソーターで精製する。こうして、抗原特異的B細胞に抗原特異性を示すバーコードをつけることができる。重要なのは、一つのB細胞に結合したバーコードの数が、抗原結合性を反映することで、後で反応が強いB細胞のデータだけを取り出すことができる。

ただこれだけでは、一個一個の細胞を識別することはできない。そこで、精製したB細胞を一個づつ油滴の中に包み込むとき、バーコードのついたビーズを一緒に入れることで、各細胞がバーコードラベルされる。

あとは、細胞を処理し、それぞれのバーコードと、免疫グロブリンA遺伝子の配列を決定すると、抗原特異性、抗原の結合程度に対応する免疫グロブリンA遺伝子の配列を決めることができる。

この方法がうまくいくか、エイズウイルスに長年感染して強い免疫反応を獲得している患者さんの血液を分析し、これまで他の方法で得られた結果に対応する、抗原特異的免疫グロブリン遺伝子配列を特定できること、さらにはこれまで発見されていない免疫グロブリン配列も多く発見できることを示している。

また、何種類もの抗原に対して同時に反応を調べることもできる。以上、要するに、うまく働くということで、今後様々なウイルスに対する免疫グロブリン遺伝子ライブラリーが作成できることがよくわかる。

今後、人間から直接モノクローナル抗体を作るという技術の基盤として使われると期待できる。ただ、個人的感触だが、免疫反応の解析という意味では、モノクローナル抗体作り以上の用途がひらけているように思う。抗原さえわかっておれば、人間の免疫反応を詳しく調べることができ、抗体遺伝子だけでなく、他の遺伝子発現も個々のB細胞で同時に調べることができる。新しい人間の免疫学がまた一歩進んだことを実感した。

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12月10日 光を感じる第3の細胞(12月6日Science掲載論文)

2019年12月10日

網膜は、桿細胞と錐体細胞で光を感受、そのシグナルをまず網膜内で統合した後、そのシグナルを総局細胞を経て神経節細胞に伝達するよう配置された、美しい構造を持っている。このスキームでは、光はあくまで桿細胞と錐体細胞で感受することになるが、実際には神経節細胞も光を感じる能力がある。

以前光感受性色素を静脈に注射するだけで、桿細胞と錐体細胞の失われた網膜に光感受性を取り戻せることを示した論文を紹介したが、(https://aasj.jp/news/watch/5866)、これは神経節細胞の中に光感受性色素が浸透して、P2Xと呼ばれる受容体を介して光シグナルを興奮に変えることができる。

ただ、わざわざこのような色素を導入しなくとも、神経節細胞の中にはメラノプシンを使って光を感じる細胞があることがわかっている。今日紹介するソーク研究所からの論文はこの機能がヒトの網膜神経節細胞にも残っていることを示した論文で12月6日号Scienceに掲載された。タイトルは「Functional diversity of human intrinsically photosensitive retinal ganglion cells (固有の光感受性能力を持つ網膜神経節細胞は機能的に多様化している)」だ。

研究は極めてオーソドックスで、手術で切除されたヒト眼球から得られた網膜片を多数の電極の上で培養し、個々の神経節細胞の光に対する反応を一個一個電気生理学的に調べている。

この条件ではもちろん桿細胞と錐体細胞からのシグナルも神経節細胞に入るので、シナプスによるシグナル伝達は全てブロックするという条件で調べると、光を当て始めて少しして反応が始まり、明かりを消してもしばらく興奮が続く活動をひろうことができ、これが神経節細胞によることを明らかにする。

ただ全ての神経節細胞が反応しているわけではなく、1ミリ平方あたり2.5個の細胞が反応に関わる。ここの細胞の反応を解析すると、

  • 感受性が高く、興奮が長く続く1型細胞
  • 感受性が低く、興奮が短い2型細胞、
  • そして今回初めて発見された、強い光にしか反応できないが、興奮は強いが短い、3型細胞。

に分かれることを確認している。

また、反応波長についても調べ、反応パターンはそれぞれのタイプで違うが、ピークは470nmに来ることを示している。これは同じメラノプシンを光受容に使っていることから当然の話だろう。

最後に、これらの神経節細胞の反応を、シナプス阻害剤の有無で調べ、桿細胞と錐体細胞からの刺激が、固有の刺激とどう関わるかも調べ、神経節細胞固有の反応が、外部のシグナルで変化させられることを示している。

このように、第三の視覚が人間にもあることがはっきりしたのは面白い。しかし残念ながら、全て細胞レベルの反応測定で、この第三の視覚が何をしているのかはやはりわからない。これまでの研究で、おそらく概日周期を光で調整するときに利用しているのだろうと考えられているが、それぞれの型の神経節細胞の高次の役割はまだまだ解析が必要だ。しかし、動物実験でも統合されたシグナルがどう処理されているのか知るのは簡単ではない。その意味で、以前紹介した神経節細胞を光受容体として利用する治療実験は今後多くのことを教えてくれるような気がする。

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