11月8日 ガンに対する免疫トレーニング (10月29日号 Cell 掲載論文)
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11月8日 ガンに対する免疫トレーニング (10月29日号 Cell 掲載論文)

2020年11月8日
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今年3月、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の感染をBCG摂取で抑制する、いわゆる免疫トレーニングについて紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12665)。その後、我が国でも過去のBCG接種が感染予防に効果があるか議論が行われた様だ。ただ、この免疫トレーニングがどの程度持続するかについては明確なデータはなく、基本的には接種後数ヶ月単位の予防効果を期待して使われているのではないだろうか。

よく考えてみると、我が国も免疫トレーニングについてはもともと関心が高い。例えば、BCGや結核菌の細胞膜成分、あるいは有名なところではサルノコシカケといった菌類がガンに効果があると実際の臨床に使われていたことは、年配の方なら記憶にあると思う。ただ、ほとんど根治につながらないことから、結局標準治療にはなり得なかった。

今日紹介する英国ヨーク大学とドイツ・ドレスデン大学からの論文は、タイムスリップした様な気になるガンに対する免疫トレーニングのメカニズムを扱った研究で、10月29日Cellに掲載された。タイトルは「Innate Immune Training of Granulopoiesis Promotes Anti-tumor Activity(顆粒白血球の自然免疫トレーニングにより抗ガン作用を高めることができる)」だ。

タイムスリップしたと言ったが、新しいテクノロジーが駆使されているとはいえ、Cellによく採択されたなというのが正直な感想だ。この研究ではBCGの様な複雑な刺激剤ではなく、グルコースが結合した多糖類βグルカンを刺激に用いている。

実験では、βグルカンを注射後腫瘍を摂取して、腫瘍の増殖を調べると、これまで広く認められている様に様々な腫瘍モデルでβグルカンは腫瘍の増殖を抑える(ただ、増殖自体は続くので根治はできない)。さらに、この抵抗性をトレーニングした好中球移植で、他の個体に移すことができることを明らかにする。

βグルカンの場合の主役を好中球と特定した上で、トレーニングとは何か、まず遺伝子発現を調べ、自然免疫や炎症に関わる様々な分子の発現が上昇して、ガン攻撃型の好中球にプログラムされ直していることが示唆された。

ここまでなら古典的な研究だが、この研究では次にこのプログラムの書き換えが骨髄の好中球の前駆細胞レベルで起こっており、2ヶ月程度活性が維持されていることを明らかにし、持続的エピジェネティックな変化がトレーニングにより誘導される可能性を示した。その上で、このエピジェネティックな変化を調べるために、バーコードを用いるsingle cellレベルのATACseqで染色体の状態をsingle cell levelで調べている。これは、可能であることはわかっているが、情報処理も含めて利用できたという点で、新しいと言える。

実際のデータを見ると、single cell RNA seqと比べてまだまだ使いにくいのではと感じるところもあるが、染色体の構造の違いで、βグルカン処理好中球が全く新しいクラスターとして分類できることは印象深い。RNAseqと異なり、詳しく見れば遺伝子発現のリプログラム以上のことがわかると思うので、これは期待したい。

わざわざscATACseqと違っても同じ結論は得られたと思うが、βグルカンにより誘導される1型インターフェロンにより、白血球の幹細胞がエピジェネティックにリプログラムされ、活性酸素の産生などを通して、ガンの増殖を抑制すると、常識的な結論になっている。

この研究では、最初からリンパ球のないマウスを用いてこの効果を調べていることから、自然免疫トレーニングは、獲得免疫からは独立していることはわかるが、なぜ腫瘍増殖が抑制できるのかなど、まだまだわからないことは多い。とすると、免疫トレーニングが臨床現場に復活するには、時間がかかりそうだ。

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11月7日 心房細動とカルシトニン (11月4日  Nature オンライン掲載論文)

2020年11月7日
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心房細動は、高齢とともに急上昇する病気の一つで、70歳を超えると3%近くに有病率が上昇する。事実、歳とともに、私も友人から相談を受ける回数が増えている。以前は、チャンネル阻害剤など完治には程遠い薬剤治療しかなかったが、現在ではカテーテルによる様々なアブレーション法が開発され、異常興奮部位を除去することで、治療可能性は一変している。しかしこれらは心房細動の分子メカニズムに基づく治療ではない。

今日紹介する英国オックスフォード大学を中心とする研究グループからの論文はカルシトニンという意外なペプチドホルモンが心房細動に関わる可能性を示し、新しい治療法開発に道を開く重要な研究で、11月4日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Paracrine signalling by cardiac calcitonin controls atrial fibrogenesis and arrhythmia(心臓由来のカルシトニン・シグナルは心房の線維形成と不整脈を調節する)」だ。

カルシトニンは通常甲状腺由来で、カルシウム代謝に関わると考えられているが、この研究では最初からこのカルシトニンシグナルの異常が心房細動の犯人だと考え研究を行なっている。というのも、カルシトニンノックアウトマウスで心房細動が誘導され、また心房細動とカルシトニンとの相関がゲノム解析から示されていたからだ。

そこでまずカルシトニン(CT)が心房で合成されるか調べ、CTが心房の筋肉細胞で造られ、そしてその受容体が心房の線維芽細胞で発現することを明らかにする。

次にヒト心房線維芽細胞にCTを点火する実験を行い、線維芽細胞の増殖や移動などの活性が低下し、さらにコラーゲンを分解するBMP1の発現が低下し、コラーゲンなどのマトリックス量が低下することを示している。心房細動では心房に線維化が見られ、これが異常興奮を誘導すると考えられており、この結果はこの可能性にフィットする。ただ、全体の効果が転写より、タンパク質の特異的な変化によることから、さらにメカニズムの解明が必要だと思う。

いずれにせよ、CTにより、心房細動の原因と考えられてきた心房の線維化を抑制できる可能性が示されたので、次に心房細動の患者さんでこのシグナル経路がどうなっているか調べ、心房細動の患者さんの線維芽細胞では受容体の細胞表面への移行が阻害され、CT シグナルが機能しないことを示している。

最後に、マウス心房細動モデルを用いて、CTシグナルを増減させ、CTが十分に機能すると、心房細動を防げることを明らかにしている。

もちろん心房細動の原因には様々あると思うが、多くの患者さんでCT受容体の細胞膜への移行が阻害されることで、線維化が進み、心房細動が起こるとすると、CTに対する反応性も含めた、心房の線維芽細胞の変化を止める方法の開発が重要になる。まだまだ、詳しいメカニズムが示されたわけではないが、心房細動理解の大きなブレークスルーになる様な気がする。

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11月6日 犬のゲノムから人間の歴史がわかるか?(10月30日 Science 掲載論文)

2020年11月6日
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犬のゲノムの研究はかなり盛んに行われている様に思う。これはペットとして人間にとって大事な動物であるというだけでなく、犬の多様性が人間による交配で行われてきたため、犬のゲノム多様性から、人間自体の好みや生活がわかるからと言える。とはいえ人の手による交配の結果、現在世界に存在する犬のほとんどはヨーロッパ種で席巻され、過去の歴史がわかりにくくなってており、有史以前のゲノムを調べないと、狼から分かれた後の人間との関係の歴史は明らかにならない。

今日紹介する英国Francis Crick研究所からの論文は、犬の家畜化・ペット化が始まった時代に近い1万年前から、1千年前まで、世界各地、様々な時代の犬の骨からDNAを抽出し、ゲノム解析した研究で、現存の犬ゲノムを理解するための重要なデータを提供している。タイトルは「Origins and genetic legacy of prehistoric dogs (有史以前の犬の起源と遺伝的遺産)」だ。

27個体の骨の時代推定を行い、ゲノムを解析する努力を考えると、執念を感じる研究だ。その結果、期待していた様に犬の起源だけでなく、人間と犬の関係も明らかにした面白い研究になっている。そこで、いくつかの問題に分けて結論のみ紹介する。

  1. 古代ゲノムを知ることで、西型から東型まで、はっきりとゲノムが区別できる5種類の犬の原型を特定できる。ただ、全ての原型は一つの起源とつながており、おそらく犬は一種類の今は絶滅した灰色狼から別れ、その後東型、西型の間で限られた回数の交雑が繰り返され、最終的に七種類の原型が形成された。
  2. 面白いことに一旦狼から分離すると、犬に狼のゲノムは流入した痕跡がない。一方、犬から狼に対しては何回かの交雑が起こっており、現存の狼には犬由来のゲノムが多く見られる。他の家畜では双方向の交雑が知られているので、犬がいかに人間に近いところで管理されていたかを伺わせる。
  3. 人類の交雑の歴史に、完全でなくても犬の交雑の歴史はオーバーラップする。これも犬が人間と密接につながって生活していることを示す。
  4. 新石器時代に入って人間が定着し、農耕を始めると、人間と同じで犬のゲノムもそれまでの狩猟採取民型から農耕民型に変化し、例えばデンプンの分解に関わるアミラーゼ遺伝子などが増幅する。
  5. 新石器時代後期から青銅器時代、ヨーロッパはインドヨーロッパ語起源となる言語を持つヤムナ文化に征服されるが、当時の犬にも原住犬とヤムナ犬の交雑が見られる。面白いことに、人間と異なり、ヤムナ犬に置き換わるのではなく、ヨーロッパ原住犬のゲノムがしっかりと維持された。おそらくヤムナ文化をもたらした新しい人たちのお眼鏡にかなった犬は逆に尊重されたのだろう。

以上が結果で、犬ゲノムから人間の歴史の新しい側面を十分掘り起こせることがよくわかった。

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11月5日 ワクチン接種ルートと臨床効果(11月2日 Nature Immunology オンライン掲載論文)

2020年11月5日
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今年の1月3日、新型コロナウイルス感染がまだ密かに広がり始めていた時期、生菌ワクチンの典型と言えるBCGを静脈注射すると、通常の皮下注射や吸入摂取と比べ、遥かに感染予防効果が高いことを示す米国衛生研究所からの論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12053)。これほど差が生まれることを知ると、同じワクチンでも臨床目的に合わせて最適な投与ルートを決めることの重要性がわかる。

今日紹介するやはり米国国立衛生研究所からの論文は、ガンの免疫治療というセッティングでペプチドワクチンの投与ルートを比べた研究で11月2日Nature Immunologyにオンライン掲載された。タイトルは「Intravenous nanoparticle vaccination generates stem-like TCF1 + neoantigen-specific CD8 + T cells (ナノ粒子型ワクチンを静脈注射することで幹細胞型TCF1陽性CD8T細胞が誘導できる)。

全てマウスモデルの研究で、ガン特異的抗原ペプチドは最初から分かっているという設定で研究が行われている。このペプチドと自然免疫を活性化するアジュバントをリポソームに包んでワクチンとし、皮下投与と静脈投与を比べている。基本的に皮下投与では、リンパ管を通して局所リンパ節に取り込まれる一方、静脈投与ではほとんどが脾臓に入る。

さて、まずワクチン摂取をしてからガンを植えるという予防的セッティングで実験を行うと、皮下注射では効果が見られ、またチェックポイント治療(CPI)と組み合わせるとさらに高い効果が得られるが、静脈注射では効果は極めて限られている。

この差は、皮下注射ではガンを殺すエフェクター細胞が誘導されるためで、静脈注射では増殖力が高い幹細胞型のT細胞は誘導できるが、それだけではキラーエフェクター細胞の誘導が弱いことがわかった。

そこで、既にガンが存在し、抗原がガン局所で持続的に発現しているセッティング、すなわちワクチンの治療効果を調べる実験を行うと、今度は皮下投与ではほとんど効果がないが、静脈投与とCPIを組み合わせると、既に存在しているガンをほぼ完璧に治療できることを示している。

臨床的には十分面白い論文だが、トランスレーションのためにはある程度メカニズムの解析が必要となるため、この差の原因をsingle cell RNA解析などの方法を駆使して検討している。

  1. 静脈投与では投与抗原がすぐに消失する一方、皮下投与では長期間抗原が残ること。この結果、皮下投与の場合記憶キラー細胞より、エフェクターキラー細胞が選択的に誘導され、ガンをアタックした後疲弊してしまう。これに対して、抗原パルスにより脾臓で記憶細胞が優先的に発生して、それがガン局所にリクルートされ、ガンを拒絶する。
  2. キラー細胞誘導に関わるDC1は静脈投与後速やかに脾臓外へ移動するが、普通の単球由来DC1が脾臓に流れ込む。このバトンタッチが、記憶成立に重要かもしれない。
  3. キラー記憶誘導の環境として1型インターフェロンは必須だが、これまで考えられてきたIL-12は必要ない。一方、アジュバントによる自然免疫刺激は必須。

以上が結果で、既に担ガン状態にある患者さんの治療という面では、示唆に富む研究だと思う。同じ様に、感染が成立していないときの予防ワクチンも、ルートを変えて投与することも重要で、インフルエンザについては、吸入が効果が高いことが既に示されている(https://aasj.jp/news/watch/12433)。新型コロナウイルスについても、焦らず、安全で最も効果の高いルートを探して欲しい。

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11月4日 新型コロナウイルス感染の血栓症を誘導する連鎖(11月2日 Science Translational Medicine オンライン掲載論文)

2020年11月4日
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新型コロナウイルス(Cov2)に対する抗体反応は、例えばインフルエンザウイルスに対する反応とかなり違っていることは、速い段階から気づかれていた。まず、IgMとIgG抗体がほぼ同時に現れる(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/13057)。さらに、抗体のレパートリーを調べると、生まれついて持っているgerm line V遺伝子が中心で、一般的な感染症に見られる様な突然変異蓄積による抗体の成熟が見られない(https://aasj.jp/news/watch/13476)。さらに驚くのは、モノクローナル抗体として分離した抗Cov2抗体はかなりの割合で自己組織反応性を持っている(https://aasj.jp/news/watch/13963)。これらの謎は、Cov2に対する抗体反応では、サイトカインストームなどの影響を受けて免疫記憶が通常のように胚中心で形成されず、濾胞外でB細胞の成熟がおこる、自己免疫型であるという発見で(https://aasj.jp/news/watch/14072)、かなり謎が解けた様な気がする。

今日紹介するミシガン大学からの論文は、この異常な抗体反応が血栓形成に深く関わる可能性を示唆し、Covid-19の病態の一端を説明する面白い論文で11月2日Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Prothrombotic autoantibodies in serum from patients hospitalized with COVID-19 (血栓形成を促進する自己抗体がCovid-19で入院した患者さんに見られる)」だ。

濾胞外抗体反応で誘導される自己抗体の中には、様々なphospholipidやそれと結合したタンパク質に対する自己抗体が存在し、これが血栓症の原因となることが知られていた。このグループは、Covid-19で血栓症の頻度が多い原因の一つが、このPhospholipids(PL)に対する自己抗体のせいではないかと疑い、入院した172名の患者さん(そのうち19%が死亡、8%は長期入院を余儀なくされており、重傷者が多い)の血清を調べている。

すると期待通り、約半数の患者さんで様々なPL抗体が検出され、この値は血栓と相関する血小板数やD-dimerとともに、以前紹介した白血球が血管内で死ぬことにより炎症と血栓が進むNetosis(https://aasj.jp/news/watch/12972)の指標と相関していることを明らかにした。

ここまでならなるほどで終わるのかもしれないが、このグループは自己抗体を持つ患者さんのIgGを使って、自己抗体が試験管内で顆粒球の細胞死が誘導され、Netosisが誘導されること、さらに活性酸素を発生させて血栓形成の条件を整えた大静脈で実際の血栓形成を高めることなど、たしかにこの自己抗体がCovid-19の病態を説明できることを示している。

残念ながらPLに対する抗体がCov2結合能を持っているのか、あるいはバイスタンダートして誘導されたのかなど、詰められていないが、多くの現象をうまく説明してくれる論文だと評価する。

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11月3日 腸内細菌が放射線障害からあなたを守る (10月30日号 Science 掲載論文)

2020年11月3日
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腸内細菌叢の影響は様々な生体機能に及び、まさにもう一つの自己として私たちの多様性を決めていることはよくわかっている。しかし今日紹介するノースカロライナ大学からの論文を読んで、放射線への抵抗性までが腸内細菌層の違いで決まるのかと驚いた。 タイトルは「Multi-omics analyses of radiation survivors identify radioprotective microbes and metabolites(複数のオミックス解析による放射線生存個体の解析から放射線抵抗性に関わる細菌叢とその代謝物が明らかになった)」で、10月30日号のScienceに掲載された。

この研究の始まりはSPFで飼育している純系マウスに致死量放射線を照射したとき、600日以上生き残る集団が約10%程度存在するという発見に始まる。実際には、多くの研究者が同じ様な経験をしていたと思うが、一種の確率問題の様に考えて、その原因を探ろうとはしてこなかった様だ。

このグループは、ひょっとしてこの原因が腸内細菌叢の違いにあるのではと着想して、長期生存を果たしたマウスの細菌叢を調べると、正常と大きく異なっていることがわかった。さらに、長期生存したマウスのケージで正常マウスを飼育することで、生存マウスの細菌叢を移植する実験を行い、細菌叢が放射線抵抗性の原因であると結論している。

次は、細菌叢の違いを分析し、抵抗性につながるLachnospiraceae, enterococcus faecalis, Lactobacillus rhamnosus, Bacterioides fragilisの、それぞれ二十種類前後の種を含む属 を特定し、それぞれを正常マウスに移植して抵抗性を調べると、Lachnospiraceae属が一番高い活性があることを示している。

次に、これらの細菌により抵抗性が付与されるメカニズムを調べ、一番大きな要素は血液幹細胞の自己再生能力が守られること、特に放射線照射による活性酸素の産生が幹細胞で抑えられることにより、放射線抵抗性が生まれることを示している。

同じ様な現象が人間でも見られるのかを調べるため、白血病治療で放射線療法を受けた患者さんの副作用の程度と、腸内細菌叢が相関するかどうかも調べ、先に特定した四種類の属が高い患者さんほど、下痢などの副作用が軽く終わることを示している。

最後に、細菌の代わりに、細菌の代謝物で同じ様な効果を得られないか調べ、細菌が分泌する短鎖脂肪酸、特にプロピオン酸が高い効果を持つこと、またトリプトファン代謝物のIndole 3 carboxaldehiydeやキヌレイン酸にも同様の効果があることを確認している。

この様にここの代謝物になってくると、出てくる役者は代わり映えがせず、また結果の解釈も複雑になってしまうが、これら代謝物をバランスよく合成する細菌を選んで投与しておけば、放射線による抵抗性が高まり、治療による副作用が低下する可能性を示唆しており、臨床的にも重要な発見だと思う。

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11月2日 実験条件からわかる新型コロナウイルス感染の複雑性(10月26日Natureオンライン掲載論文)

2020年11月2日
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「新型コロナウイルス」Cov2)は変異し易く、ワクチンも効かないのでは」とよく聞かれるが、インフルエンザなどと比べてCov2はゲノムが大きく、多くの機能を兼ね備えているので、変異は死活問題になる可能性が高く、これを克服するためにゲノムを正しく複製できたか調べるプルーフリーディングの機構を持っており、変異の頻度は他のRNAウイルスと比べると低いと考えられる。

Cov2は変異が速いという心配が一般に広まっている最大の理由は、ウイルス感染に重要なスパイクタンパク質に起こった変異が、3月以降世界中を席巻したというおそらく米国ロスアラモス研究所からCellの8月号に掲載された論文のせいではないかと思う。

さらにD614G変異はfurinによるスパイク処理を高め(https://aasj.jp/news/watch/13302)、感染性も高まるという論文がメディアで紹介され、高い変異性というイメージが一般にも広く行き渡った様に思う。

ただ、このD614G変異の臨床的意味を明確にするためには、既に示されたデータに素直に納得しないで、できる限り臨床条件に合わせた感染実験が必要になる。今日紹介するテキサス大学ガルベストン校からの論文はこの課題にチャレンジした研究で、実験をやり直すことで多くの発見があることがよくわかる研究だ。タイトルは「Spike mutation D614G alters SARS-CoV-2 fitness(D614Gスパイク突然変異の適合性)」で、10月26日Natureにオンライン掲載された。

感染性を調べるために、他の安全なウイルスにスパイクだけを導入した実験系がよく使われるが、この研究では最初からスパイクだけで異なる二種類のCov2(D624とG614)を準備して完全を目指している。

次に、感染実験によく使われるVeroE6(猿の腎臓細胞由来)細胞の代わりに、ヒト肺胞上皮由来細胞を用いて感染実験を行ない、確かに変異型ウイルスの方が細胞を殺すプラーク法で2倍程度感染性が高まっていることを確認している。この実験の過程でVeroE6で増殖させたウイルスは、ヒト肺上皮細胞で増殖させたウイルスと比べると、2つのペプチドに切断される効率が3割ほど下がっており、ウイルス回収量が多いからといって、VeroE6をウイルス回収に使っていいのか疑問を投げかけている。

さらに、スパイク分子の切断効率が変異型で上昇しているという考えが広く受け入れられる様になっていたが、ヒト肺上皮細胞から回収したウイルスでは、このサイトの違いで差はほとんど見られていない。

ただウイルス感染は極めて複雑な過程で、ウイルスを別々に感染させる実験では正確にウイルスの優劣をつけにくい。この研究では、正常の肺上皮細胞培養に、1:1に混合した2種類のウイルスを感染させ、その後細胞から回収できるウイルスの種類を調べる実験を行って、この問題にチャレンジしている。別々に感染させる実験では高々2倍程度の差が見られるだけだが、この様な実験条件では、なんと感染後5日目には変異型のウイルスの比が13倍以上なっていることを確認し、このウイルスがヒト肺上皮に関しては、遥かに適合していることを明確に示している。

 さすがに人間を使った感染実験はできないので、ハムスターを用いた感染実験も行っているが、感染初期の上部気道から多くのウイルスが回収される以外に、症状など大きな差を認めていない。感染性がそのまま病原性につながったわけではないこともわかる。

最後に、現在用意されている多くのワクチンはD614型を抗原に使っているので、誘導された抗体が変異型にも効果があるかどうかを調べている。面白いことに、感染ハムスターの血清の中和活性で見ると、変異型は確かに中和されにくい。一方、人間のモノクローナル抗体による中和活性を調べると、両者にほとんど差はなかった。

以上、モデル実験システムを実際の臨床の条件に近づけることの重要性がよくわかる論文だ。実際、中和抗体の実験や、感染性ウイルス回収実験など、スーパースプレッダーも含めて、臨床的な多くの課題を説明できるヒントが多く含まれている様に思う。ぜひ現場の医師たちにも読んで欲しい論文の一つだ。

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11月1日 断片的臨床データを埋める動物実験の重要性(10月28日 Nature オンライン掲載論文)

2020年11月1日
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新型コロナウイルス感染は、様々な専門的言葉がメディアにより一般向けの言葉として使われるきっかけになった。その最たるものがサイトカインストームという言葉で、重症化の代名詞にすらなっている。しかし、サイトカインストームは自然・獲得免疫の暴走状態で、Covid-19特異的でもなんでもない。また、末梢血の指標から判断できるサイトカインストームの程度は、他の病気と比べて特に高いわけではないとする論文が米国医師会雑誌にも発表されている。

ただ、サイトカインストームは感染症の重症化を決める重要な要因であることは間違いない。この重症化への境目を知るためにとれる一つの方法は、様々なステージのCovid-19患者さんについて、予断を排して徹底的に調べることだが、いわゆる中等度への移行過程で代謝や免疫指標の最も大きな変化が起こっていることが最近Cell に発表された。

このことは、肺へ感染が広がった時に起こる変化の解明の重要性を示している。しかし、いかに多くの患者さんが発生しているとはいえ、これを人間の組織で調べるのは難しい。そこで動物実験の出番になる。

今日紹介する米国St.Jude病院からの論文は肺炎の重症化を決めるメカニズムをマウスの重症インフルエンザ感染モデルで検討した研究で、最終的に治療のヒントにまで到達できている面白い論文で、インフルエンザ感染が中心とはいえコロナ関連の論文として紹介する。タイトルは「Exuberant fibroblast activity compromises lung function via ADAMTS4(線維芽細胞の高い活動性がADAMTS4を介して肺機能を傷つける)」で、10月28日Natureにオンライン出版されている。

インフルエンザであれコロナウイルスであれ、感染するのは上皮細胞が中心になるが、そこから発せられるシグナルを組織化しているのは上皮を裏打ちしている間質細胞になる。

この研究では致死量のインフルエンザウイルスを感染させた肺組織の間質細胞、特に線維芽細胞に焦点を当て、個々の細胞の遺伝子発現を網羅的に調べるscRNA seq法を用いて調べ、インターフェロン反応性の線維芽細胞が感染後期に上昇してくる一方、組織障害に反応する線維芽細胞(Dfib)は感染初期に急増することを発見する。また、両者を表面抗原で分別できることも示している。

この研究の特徴は、臨床応用可能だと思えるデータは必ずCovid-19も含むヒト感染症のデータベースと照合している点で、このDfibと同じ形質を持った細胞が、重症肺炎による死亡例で多いことを確かめている。

このDfibの遺伝子発現プロファイルから、サイトカインだけでなく、組織のマトリックスを分解する酵素、特にADAMTS4の発現が高まっていること、さらに人間の線維化を伴う肺疾患でも同じ様にADAMTS4が高まっていることを明らかにしている。そこで、この分子の肺炎重症化への関与を調べるために、遺伝子ノックアウトしたマウスでインフルエンザウイルス感染実験を行い、死亡例が半減すること、また肺の炎症での線維化がかなり抑えられること、ウイルスに対するキラー細胞の浸潤は変わらないが、T細胞全体の浸潤とサイトカインん分泌は低下すること、そしてこの変化はマトリックスの中のVersicanの分解の程度で決まることを明らかにしている。

最後に人間の季節性インフルエンザ及び鳥インフルエンザへの感染による重症化との相関をやはりデータベースを掘り起こして調べると、線維芽細胞が活性化し、ADAMTS4の発現が高いと、重症化率がオッズ比で2倍になることを示している。

以上が結果で、マウスの実験も、蓄積されたデータベースを使うことで、人間にも参照できることを示した面白い研究だと思う。ADAMTS4はノックアウトしてもマウスが生きていること、プロテアーゼであることなどから阻害剤で介入する可能性がある。もちろん線維化の指標としても重要になるだろう。

Covid-19が診断されてすぐ、症状が強まる前からCT上の間質肺炎初見が強いことが示され、さらに中等度で回復しても後遺症が残ることも知られている。その意味で、今日紹介したCellとNatureの論文は、肺に感染が進展した時が病気を制御する最も重要なポイントで、間髪を入れず早期治療を行うことの重要性を示唆する様に感じた。

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10月31日 新型コロナウイルス感染に必要なホスト側の分子(10月20日 Cell オンライン掲載論文)

2020年10月31日
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新型コロナウイルス(Cov2)を含むコロナウイルスは、その生活サイクルを通して、細胞内オルガネラを上手に再構成することで、安全に複製する仕組みを持っており、これに関わるのがnon-structural proteinだ。これまでもコロナウイルスの細胞生物学として多くの研究が蓄積している面白い分野だ。私が読んできた中では、今年の7月UC BerkeleyのグループによってJBCに発表された総説が最もわかりやすくお勧めだ。

ウイルスタンパク質と協力するホスト因子を探すためにはいくつかの方法がある。例えば、Cov2タンパク質と結合するホスト分子を網羅的に調べる方法は早くから利用され、最近でもScienceに掲載されたが、この方法では、それぞれの分子が本当に機能しているのか、結合しているだけなのか、改めて調べる必要がある。

この問題を解決するのが、今年のノーベル化学賞に輝いたCRISPR/Cas9を用いる方法で、細胞機能に重要な遺伝子全てをカバーする何万ものガイドRNAを別々に挿入されたレトロウイルスを用いて、万のオーダーの遺伝子がそれぞれ欠損した細胞ライブラリーを作成し、これにウイルスを感染させて残った細胞のガイドRNAから、欠損するとウイルス抵抗性が生じる遺伝子を特定するという方法だ(この逆も可能で、導入したライブラリーの中で感染後すぐに消失する遺伝子はウイルスに対する抵抗性に必要と言える)。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文はCov2の感染と増殖に必要なホスト側の遺伝子の機能を、何万種類のガイドRNAを導入してノックアウトして探索した研究で10月20日号Cellにオンライン出版された。

実際には、この論文がオンライン掲載される少し前にイェール大学のグループも同じ方法を用いたホスト因子の探索を発表している。

同じ様に見えても、2つの論文は手のかけ方が大きく違う。Yale大学の方は、ウイルス自体の代わりに、感染に絞って調べるためのVSVウイルスにCov2スパイクを導入する感染重視の方法を用い、さらにインターフェロンが欠損したVero-E6細胞を用いて感染実験をしやすくしている。この結果、ほとんど感染時に必要な分子とその転写だけに関わる分子がリストされ、ウイルスのライフサイクル全体を見渡した研究にはなっていない。

一方NY大学のグループは、CRISPR/Casと数万のガイドRNAを用いる点では同じだが、感染にはウイルス自体を用い、細胞は肺胞細胞ガン株を用い、ウイルス感染による細胞の生存を指標としている点で、手間がかかっており、ウイルスライフサイクル全体をカバーして、ウイルス分子と強調するホスト分子を特定できる。そこで、今回はこの論文について紹介する。

生き残った細胞に濃縮しているガイドRNAによりノックアウトされる分子Top50をリストし、あとはこのリストされた分子がウイルス分子と結合して、ウイルスのライフサイクルに機能的に関わるかを確かめるための実験を、よくまあここまでと思えるぐらいに行なっている。これらを全て紹介するのは大変なので、個人的に面白いと思った結果だけを以下にリストする。

  1. 当然ウイルス感染の入り口になるACE2分子はいずれの研究でも、ホスト因子の筆頭だが、驚くことにカモスタットやなフモスタットのターゲットTMPRSS2やFurinなどがリストされなかった。この代わりにカテプシンLがリストに入り、ウイルス融合に関わる分子の階層性を再検討する必要を感じた。臨床的には検討が必要だ。
  2. リストされた分子の多くはウイルス分子と結合しこれまでのnspの理解を大きく前進させた。例えばnsp7はウイルス複製複合体のなかでプライマーゼとして働いていることが知られているが、昨日紹介したRab7aと結合している。今後の研究が期待される。
  3. ウイルスのエンドゾームへの侵入からdouble membrane vesicleの形成とその中での複製、そして排出と、ウイルスにとって小胞輸送のコントロールは必須だが、期待通り多くの分子はこの過程に関わることが示された。ただ、この論文もリソゾームまでは考えていなかった様で、扱いが少ない。ただ、細胞の生存を見る方法は、ウイルス排出自体が結果に影響しないスクリーニングかも知れない。昨日紹介したRab7aはリストに上がっているので、今後新しい目で、このリストを調べ直すと面白い。
  4. 意外にも、ノックアウトされた細胞の遺伝子遺伝子発現を調べる実験から、エンドゾーム形成に関わる遺伝子が、細胞内のコレステロール合成に関わり、ノックアウトされると細胞内のコレステロールが上昇することがわかった。また、Cov2感染で細胞内コレステロール合成が阻害されることも知られている。そこで、この研究ではカルシウムチャンネル阻害剤として知られるアムロディピンで処理して、細胞内コレステロール合成を高める実験を行い、ウイルス抵抗性が高まることも示している。 事実、アムロジピンを降圧剤として服用している患者さんではcov2感染が少ないという報告がある。
  5. この論文と直接関係がないが、最近膜上のコレステロールを障害するとCov2の感染が抑えられ、またSTATINの服用がCovid-19の回復を早めるという論文があった。この論文の結論からどう考えるか、臨床的には重要な問題だ。

以上、昨日と同じで多くのことを学ぶことができ、頭の整理ができるだけでなく、新たなインスピレーションが生まれる論文だと思う。新型コロナウイルス感染の生物学は着実に進展している。

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10月30日 コロナウイルスの細胞外への排出(10月22日 Cell オンライン掲載論文)

2020年10月30日
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新型コロナウイルス(Cov2)に限らず、コロナウイルスや、ウイルスによる肺炎とその重症化などまだまだわからないことは多い。でも科学者OBとして言えることは、着実にコロナウイルスの科学は進んでおり、この延長に必ずウイルス制圧が約束されていることだ。ただ、新しいエキサイティングな発見を、科学者がわかりやすく発信するのが難しいこともよくわかったが、AASJでは新型コロナウイルスについても、これまで通り誠実に研究内容の面白さを伝えていくつもりだ。幸い、今週発表された論文は、少なくとも私の中の新型コロナウイルスについての理解を大きく前進させてくれた論文が多かった様に思うので、連続的にコロナ関係の論文を紹介することにした。

最初は米国国立衛生研究所からの論文で細胞の中で複製したウイルスが細胞外に排出される過程を調べた研究で10月22日Cellにオンライン掲載された。タイトルは「β-Coronaviruses use lysosomes for egress instead of the biosynthetic secretory pathway(βコロナウイルスは生合成―分泌経路ではなくリソゾームを使って細胞外へ排出される)」だ。

Cov2に限らずコロナウイルスの生活サイクルを見ると、ホスト細胞の膜やオルガネラを上手にコントロールして、自己を守りながら複製していることがわかる。このあたりの生物学については、梅田北ヤード再開発に関連して阪急阪神不動産株式会社と一緒に準備中の「参加型ヘルスケアプロジェクト」の事業として改めて紹介していきたいと思っている。生活サイクルの中で研究が遅れており、頭の整理がついていないのが、小胞体内で形成されたウイルス粒子が細胞外へ排出される過程だ。ほとんどの総説では、エキソサイトーシス(exocytosis)とぼかして表現しているが、基本的にはノーベル賞を受賞したシェックマンが解明した生合成―分泌経路を使う様に描かれていた。

この様な輸送経路が重要な研究課題になる理由だが、私たちの細胞の中で作られた分子は、単純に細胞外へ滲み出すのではなく、違う行き先を持つ小胞に乗せられて、正確に目的地に輸送される。どのトラックに乗せられ、どの輸送基地に集積するかなど、見事なシステムが出来上がっているので、どの経路を使うかは、ウイルスにとって死活問題になる。

この研究は、実験のしやすいマウス肝炎ウイルスをコロナウイルスとして使っているが、重要なポイントではCov2感染実験も加えて研究を行なっている。まず最初に、本当に生合成―分泌経路がウイルス粒子の排出に使われているか、この経路だけ阻害するBrefeldinという阻害剤を用いて調べ、この輸送経路が遮断されてもウイルスが排出されることを発見している。

そこでもう一度細胞内のウイルス粒子の動きと、細胞内の小胞の動きを比べ、最初小胞体で合成され、核周辺のゴルジネットワークに集まったウイルス粒子が、後期には分解に関わるライソゾームに集まることを発見する。この辺りは、細胞生物学のプロの研究で、それぞれの輸送システムの分子機構に関わる分子に熟知し、最も適した阻害剤を用いた研究を行ったあと、小胞体からライソゾームへの輸送経路については研究が必要だが、確かにライソゾーム経路を使って細胞外へ排出されると結論している。

詳細を省いてしまうと以上が結論になるが、この結論から見えてくる重要なポイントだけまとめておく。

  1. 明日紹介する、コロナウイルス感染に必要なホスト因子の研究論文でも指摘されている様に、オートファジーでも有名なRab7シグナルの関与が示され、阻害剤による排出の抑制も示されており、今後の治療戦略の一つとなるかもしれない。
  2. 小胞体からリソゾーム、そして細胞外へ排出される過程で、タンパク質を守る分子シャペロンが常に結合しており、この結果排出直後から高い感染性を発揮できる。
  3. コロナウイルスはリソゾームに局在するORF3a分子を持っているが、これがリソゾーム内のタンパク分解に適したpHを上昇させて、ウイルスを守る役割をしている。
  4. ORF3の作用でpHが上昇すると、内部のタンパク分解活性が低下することで、免疫系へ提示するペプチド合成は低下する。これはウイルス免疫成立を阻害するが、逆にペプチドの結合しない組織抗原が表面に増え、NK細胞の標的になる。事実、コロナウイルス感染細胞表面の組織適合性抗原はペプチドが結合していないオープン型が多い。

以上、本当に多くのことが学べ、新しいアイデアを刺激する素晴らしい研究だと思う。免疫についても、コロナに対する免疫の不思議さを知る手がかりがありそうだし、これまで、NK機能の低い人ではcovid-19が重症化する可能性が示唆されていたが、この様な臨床観察も説明ができる様な気がした。

カテゴリ:論文ウォッチ
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