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9月3日:壮絶なエボラ論文(Science誌オンライン版掲載論文)

2014年9月3日
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我が国は今デングウイルス感染で大騒ぎだが、一つの地域での感染症流行には必ず始まりがあり、終わりがある。終わりは様々だが、始まりは必ず外から感染を持ち込んだ一人、あるいは少人数の感染者から始まる。この最初の感染者が特定されていると、病原体がどのように拡がるのか、その間に病原体自身がどう変化するのか、その変化のスピードはどの程度か、など様々なことがわかる。特にウイルスの場合、感染経路を特定する疫学と、次世代シークエンサーを用いたウイルスゲノム解析を対応させることが可能で、この様な情報が次の感染や流行を防ぐためには極めて重要だ。この様な千載一遇のチャンスが今回のエボラウイルス流行の始まる時点で、シエラレオネに巡って来た。今日紹介する、シエラレオネのケネマ国立病院、ハーバード大学の共同研究は疫学的に追跡できたシエラレオネのエボラ感染の最も初期段階のウイルスゲノムと、流行後感染者から分離したウイルスゲノムを調べたタイムリーな研究で、サイエンス誌オンライン版に掲載された。タイトルは「Genomic surveillance elucidates Ebola virus origin and transmission during the 2014 outbreak(エボラゲノムを監視することで今年のエボラ流行の起源と感染を説明できる)」だ。論文によると、シエラレオネでの流行の始まりは次の様なものだった。まずケネマ病院は3月にエボラウイルス監視機構をスタートさせており、5月初めまで住民のエボラウイルスは検出できなかったことを確認している。ところが5月25日エボラ患者が見つかり第一例と認定する。疫学的に感染経路を追跡すると、ギニアでエボラ患者を扱った祈祷師が感染によって死亡した時、この患者が埋葬に立ち会っていたことが明らかになった。また、同じ埋葬に立ち会った他の13人も全てエボラウイルスに感染していることがわかった。始まりが特定できた千載一遇のチャンスを逃さず、この患者からウイルスを採取してハーバードに送りゲノム解析を行い、これまでに分離されているエボラゲノムや、6月、7月に感染した患者から分離したエボラスゲノムなどと比較したのがこの論文だ。ゲノム配列から、今回流行中のウイルスは2007−2008年コンゴで流行したウイルスと共通祖先を持ち、2004年頃に分かれたウイルスと考えられる。おそらく人間以外の動物キャリアの中で進化しているようだ。これがコンゴでは2008年に流行した。一方同じウイルスがギニアでヒトに感染するためには2014年までかかり、既にコンゴで発見されたウイルスとは異なるゲノムに分化していた。その後ヒトからヒトへと感染が拡がりだす。そしてギニアで病気退治の祈祷を行っている時エボラに感染した祈祷師からシエラレオネに拡がったことが明らかになった。2014年、即ち現在流行しているエボラウイルスは互いによく似ており、おそらくシエラレオネにはこの単純なルートを通って拡がって来たと推定できる。さらに、祈祷師の埋葬に立ち会って感染した患者のウイルスの解析から、祈祷師はギニアで流行し始めていた2種類のウイルスにかかり、これがシエラレオネ流行のルーツになっていることも明らかになった。他の患者さんの解析からも、一種類のウイルスが一人のヒトに感染するのではなく、複数のウイルスが同時に感染し、維持されていると言うことも明らかになった。これが原因か結果かはわからないが、ヒトからヒトへの流行が始まると、ウイルスの変異速度は増大し、アミノ酸変化につながる遺伝子変異も多く起こることもわかった。いずれにせよ、感染の始まりが特定されることで、変異の速度などが正確に測定できた。残念ながら、見つかったアミノ酸レベルの変異の機能的意義についてはまだわからない。しかし、戦う相手の手強さをしっかり理解できることは大きい。まだまだ不十分と言われるかもしれないが、医学が十分対応していると言う実感を持つ。ただ最後に述べなければならないのはこの論文に名を連ねたケネマ病院の医師達のうち5人は既に帰らぬ人となっていることだ。それぞれの写真と経歴はサイエンスのウェッブサイトに掲載されている(下記)。しかしこれほど壮絶な論文はこれまで読んだことがなかった。医師達が危険を顧みず患者を救おうと必死になっているのがひしひしと伝わる論文だった。黙祷。    亡くなった5人、(http://news.sciencemag.org/health/2014/08/ebolas-heavy-toll-study-authors)

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