高橋さんの網膜色素細胞移植治療に続いて、Natureオンライン版に妻木さんたちの、軟骨形成異常症iPSを使った治療薬探索からスタチンが有効である事を突き止めた論文が出ていた。妻木さんが以前所属していた阪大整形外科はBMP研究の高岡さんからずっと研究のアクティビティーが高い。また、阪大は軟骨研究でも歴史があり、何となく伝統を感じさせる仕事だ(これは全く根拠のない妄想)。特に、既に臨床で利用されている薬剤を、新しい疾患に使う事はリパーパスと呼ばれ、医療経済の側面からは最も力を入れるべき分野だ。めでたしめでたしだが、臨床から基礎研究へ目を移すと、この分野でハッとする我が国からの研究に残念ながら出会えていない。特に若手の研究だ。この3本柱が機能しないと、いつかは先細る。今日は最初妻木さんの仕事を紹介しようかと思ったが、ほとんどのメディアが取り上げている。わざわざ紹介する事もあるまいと、同じ時にNatureに掲載されていたイスラエル・ワイズマン研究所からの、かなりセンセーショナルな仕事を紹介する。タイトルは「Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota(人工甘味料は腸内細菌叢を変化させ耐糖能異常を引き起こす)」だ。研究の内容は全くタイトルの通りだ。私たちが砂糖を制限する目的で使っている、サッカリンを始めシュルラロース、アスパルテームを摂取すると、グルコース負荷に対する反応性が落ち、糖尿病予備軍状態になると言う結果だ。この状態は、私たちの糖代謝システムに人工甘味料が直接働いて起こるのではなく、人工甘味料が腸内で細菌叢を変化させたことによる間接効果である事を示している。実験の詳細は省くがこの研究の鍵になっているのは、腸内細菌叢を全く細菌のいないマウスに移植する実験系で、耐糖能が低下が腸内細菌叢によるものかどうかを調べる事が出来る。この論文では、人工甘味料を摂取しているマウス、あるいはヒトから採取した便を移植すると、耐糖能異常も同時にマウスに移植できる事を示している。さらに実験としてかなり重要な決め手になっているのが、試験管内で腸内細菌を培養する時人工甘味料を入れておいて、それを細菌のいないマウスに移植するだけで耐糖能異常が起こる点で、人工甘味料が腸内細菌叢に直接作用してこの現象が起こる事をはっきり示している。一方ヒトを用いた実験でも、人工甘味料を常用しているヒトはA1cヘモグロビンが軽度上昇している事、さらに1週間と言う短期の摂取でこの変化が引き起こされる点だ。とは言え、メカニズムについてはほとんどわかっていない。インシュリン分泌はそれほど落ちていないという結果が示されているので、インシュリン抵抗性が誘導されているのかもしれない。データを詳しく見ると、本当ならもう少し実験を重ねて掲載しても良かったかなと思う。ただ、Natureのエディターもこの論文の発するメッセージの重要性を優先して採択したのだろう。そう考えると、日本の既存メディアがこの論文について報道しないのも不思議だ(ネットを調べるとNHKは放送した様だが)。ネタとしては面白いはずだ。外国の研究だから報道しないのだろうか?Nature信仰は小保方事件で捨てたと言う事か?あるいは、産業界からの圧力を恐れての事か?勿論規制について最終結論を出すためには、この結果について更に検討が必要だ。とは言え、既存のメディアがこのネタに妙に慎重なのが気になるのも、私がひねくれているせいだろうか?
9月19日:人工甘味料による糖尿(Nature オンライン版掲載論文)
2014年9月19日
カテゴリ:論文ウォッチ