2−3日前、我が国の認知症患者の数が推定で460万人に達する事が報道されていた。実際欧米では65歳以上の10%以上、80歳以上だと40%以上の人が認知症になるとされており、報道された推定数はまだ低めの見積もりかもしれない。自分自身が既にこの統計の対象になっている事を考えると恐ろしい話だが、早期に診断出来れば進行を遅らせる様々な介入は可能だ。従って、単純な老化とアルツハイマー病を区別する診断法、とりわけマススクリーニング方法の開発は重要だ。今日紹介するトロント・ヨーク大学からの論文はひょっとしたらこのような方法に発展できるのではと思った(全く私見)ので取り上げる事にした。論文のタイトルは「Visuomotor impairments in older adults at increased Alzheimer’s disease risk(アルツハイマー病リスクが高い高齢者に見られる視覚運動連合の障害)」で、Journal of Alzheimer Disease9月号に掲載されている。私たちはアルツハイマー病と言うと認知機能障害とすぐに結びつける。確かに短期記憶に関わる海馬の萎縮が顕著で、また日常生活には認知機能障害が最も顕著に影響するので、アルツハイマー病=認知症となるが、実際には広範囲に脳萎縮が起こり、様々な障害が出る。今日紹介する研究は、アルツハイマー病の初期から、視覚と協調する運動機能が障害されていることを示す研究だが、ここで使われている機能テストが興味を惹いた。テストを一言で言うと、「あっち向いてホイ」のテレビ版と言える。ここでは垂直及び水平におかれた2つのモニターが使われる。最初のテストは垂直モニターだけを使う。画面中央の緑の丸印を指で触るとテスト開始だ。一定時間後に、中央の印は消え、代わりに画面左右、上下どこかに新しい丸印が急に現れるのでそれを指で出来るだけ早く辿る。次のテストは、垂直画面に同じテストが示されるが、指で追うのは垂直画面に現れる印そのものではなく、その位置を水平画面に投射して、一種仮想の場所を指でなぞる。次のテストは垂直画面にまた戻るが、今度は新しく現れた丸印をなぞるのではなく、「あっち向いてホイ」のように、現れた場所の正反対を指で指す。これには当然認知機能が関わる。最後に同じテストを、印が現れる垂直画面ではなく、水平画面の対応する場所を指で辿る。この時、目の動きや指の動きを記録できるようにし、指の辿る軌跡の正確性、到達時間などを記録する。このテストを、若者、アルツハイマーリスクの低い高齢者、アルツハイマーリスクの高い高齢者、そして認知障害のある人に受けてもらい、結果を比べている。もし認知障害のある人と、認知症ではないがリスクの高い人が一致するテスト項目があれば、初期からそれに関わる運動障害があると結論できる。結果は一目瞭然、4番目のテストで記録される指の軌跡が、認知症は発症していないが、アルツハイマーリスクの高いグループが、認知症発症患者さんと同じ異常を示すことがわかった。まさに、「あっち向いてホイ」ゲームがアルツハイマーリスクを反映できるかもしれないと言う結果だ。この論文では、これをそのまま新しい診断機器に発展させようと言った議論は行われていない。しかし機械は今あるタブレットを2枚使えば簡単に設計できるはずだ。現在でもミニメンタルステート試験の様な、簡易テストはあるにはあるが、もしこの論文が正しければ、より正確なリスク判定を人手をかけずに行なう事が出来ると期待できる。是非この方向で開発を加速させて欲しいと思う。
9月23日:「あっち向いてホイ」;アルツハイマー病の簡易診断法(9月号Journal of Alzheimer Disease掲載論文)
2014年9月23日
カテゴリ:論文ウォッチ