子供でもわかる素朴な質問を抱き続けて、大人になってから答えを出すことができる科学者などそうはいない。自分のことを振り返ってみても、説明しようと挑戦した問いは、子供にはわかりにくい問題だったと思う。もちろん例えば「血液はどうできる?」といった具合に、一般の人にもわかりやすく問題を説明することはある。しかしそうすると今度は、実際取り組んでいる問題と比べるとあまりに一般的になってしまう。その点から言うと、今日紹介するテキサス・バンダービルト大学からの研究はズバリ、「電気ウナギは電気をどう使っているの?」というわかり易い問に取り組んだ研究で、さらに羨ましいことに12月4日号のScience誌に掲載されている。もちろんこんな問いをチームで研究するはずはない。Kenneth Cataniaさんという今時生物学では珍しい単名の論文だ。タイトルは「The shocking predatory strike of the electric eel(電気ウナギの捕食のためのショック攻撃)」だ。繰り返すが、扱った問題は電気ウナギがどう電気を利用して餌の小魚を獲るか?が問題だ。論文の中では多くの動画が使われており、電気ウナギの狩りの戦略が、実際子供にもよくわかるようになっている。質問1「電気ウナギの電気攻撃はどんな効果があるの?」答え)電気は3.7ミリ秒のパルス波で0,2秒程度続き、相手の運動筋肉を収縮させて動けなくする。ただ、小魚は死なない。質問2「電気パルスは筋肉に効くの、神経に効くの?」答え)筋肉ではなく、運動神経。質問3)「電気パルス発射のタイミングは?」答え)相手の魚の動きを感じた時。質問4)「相手の動きを感じるために電気は必要?」答え)イエス。電気パルスを2−3回発射し、相手が驚いて動いたら生き物がいる判断して、今度は強い電気パルスを発射し動けないようにする。これだと、餌が隠れていても見つけることができるね。最後の質問)「攻撃パルス発射の前に探索パルスを必ず発射する必要はあるの?」答え)パルスを発射しない時に動きを感じても攻撃パルスを発射できるので、センサーとしては動きだけを感じている。これが実験の全てだ。これを電気ウナギの発するパルスを記録する装置、魚の筋肉の緊張を測る装置、魚の動きを人為的に誘導する装置などを使って実験しているが、別に大がかりな装置ではない。おそらく高校生なら十分考え付く、いわば素人実験だ。どのような経緯で編集者が掲載を決めたのか、なんと9月に投稿して11月に掲載が決まっていることから、編集者の強い意向を感じる。そして何よりも、この研究のために研究費が政府から支給されており、仕事がプロにも支持されている点だ。子供の頃の疑問を持ち続けていつか答えを出したいという人たちに対する大きな励ましになるだろう。そして何よりもおそらく奥さんと思えるF.Cataniaさんだけに謝辞が捧げられているのも微笑ましい。これも思わず微笑みが溢れる論文だった。
12月7日:電気ウナギの戦略(12月4日後Science掲載論文)
2014年12月7日
カテゴリ:論文ウォッチ