このホームページでも紹介してきているが、腸内細菌叢の様々な機能に期待する論文がトップジャーナルに続々掲載されている。しかしここまでの流行になると、ひょっとしたらこれまで説明の難しかった現象を説明するために私たちが期待しすぎているかも知れないと少し心配になる。例えばサプリメントの効能は、医薬品と同じようには検定はされていない。中には内服後本当に血中に吸収されるかどうかわからないものも多い。例えばコラーゲンを内服して本当に効果があるのだろうか?こんな疑問も、「腸内細菌にコラーゲンの分解物が働いて効果が得られるのだ」と言われてしまえばおしまいだ。そんな期待でこのトレンドが作られていないことを望むが、今日も読後感のすっきりしない細菌叢の論文を取り上げる。ポルトガルのグルベキアン研究所からの論文で、12月4日号のCellに掲載されている。この論文に興味を持ったのは1997年、まだ研究インフラの整っていないポルトガルから選別されたエリート大学院生に集中講義を頼まれ1週間滞在したこの研究所からCellに掲載される論文が出るようになったのかという感慨もあった。タイトルは「Gut microbiota elicits a protective immune response against malaria transmission (腸内細菌叢によってマラリア感染に対する免疫反応が誘導される)」だ。読んでみると、少しゴチャゴチャしすぎているというのが印象だが、シナリオを掬い取ると、「マラリア表面上の糖鎖抗原に対する抗体は、腸内の病原性大腸菌により誘導され、感染防止に役立っているが、ワクチン接種による補助免疫効果が期待できるので、マラリアワクチン開発の参考になる」とでも言えるだろうか。結果をまとめると、1)4GlcNacR-グリカンに対するIgM抗体は疫学的に見てもマラリア感染防止に役立っているが、マラリア流行とは相関しない自然抗体として存在している、2)糖修飾を人型にしたマウスに4GlcNacR-グリカンを発現する病原性大腸菌が感染すると、マラリア予防抗体が誘導される。3)予防効果がある抗体のクラスは、IgMだけでなく、IgGクラスでも良い、4)IgMクラスの抗体も誘導にT細胞が必要、5)自然免疫TLR9を刺激するリガンドとアジュバントなどを混ぜて免疫すると抗体価がさらに上がる。6)抗体の効果には補体と白血球が必要、7)赤血球に侵入したマラリア原虫には効果がない、などだ。基礎研究として見ると、感染防止効果があるIgM抗体の産生にもT細胞が必要という点がおもしろいぐらいで、おそらく感染免疫学をやっている人たちから見れば、病原性大腸菌との関係も特に驚くほどのことはないはずだろう。レフリーが甘すぎるように思う。とはいえ、マラリアに苦しむ人はまだまだ多く、ワクチンの設計にも役立つ点では、まあ許してもいいような気がする。個人的に言うと、ほぼ20年前に私たちが教えた異国の大学院生たちが国に帰って頑張っているのは嬉しい。
12月9日:大腸菌でマラリアを防ぐ?(12月4日号Cell掲載論文)
2014年12月9日
カテゴリ:論文ウォッチ