今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は高脂肪食の腸管上皮細胞の増殖に及ぼす影響を調べた研究で3月3日号のNatureに掲載された。タイトルは「Hith-fat diet enhances stemness and tumorigenicity of intestinal progenytors(高脂肪食は腸管前駆細胞の幹細胞性と腫瘍性を促進する)」だ。
この研究ではまず60%の脂肪が含まれる餌を1年以上投与したマウスの腸管上皮を調べ、幹細胞の数が上昇する一方、絨毛の長さが減少していること、また幹細胞のニッチを形成するパネット細胞が減少していることから、幹細胞のニッチ依存性が低下していることを発見する。ニッチにあまり依存しない幹細胞の自己再生能を確認するため、現慶応大学の佐藤さんが開発した方法で腸管上皮の試験管内増殖を調べると、高脂肪食を与えた腸管細胞の試験管内での増殖能が上昇していることを見つけている。また試験管内での結果に対応して、放射線照射後の長上皮再生能力も、高脂肪食を投与している方が促進している。
この高脂肪食の効果のメカニズムを調べるため、高脂肪食を投与された腸管幹細胞を分離し、その遺伝子発現を調べると、PPARδ分子により誘導される分子の発現が上昇し、その結果Wntシグナルが増強することで自己再生のが上がることを見出している。ただこの点については、現象論で、完全に証明できているわけではない。とはいえ、PPARδ遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験から、確かに高脂肪食の効果がPPARδを介していることは確認できていると言える。
最後に高脂肪食を投与したマウスの腸管では、悪性度は低いものの上皮異形成が頻発することに注目し、Apc遺伝子が欠損すると、幹細胞だけでなく、少し分化した前駆細胞も高脂肪食に反応して増殖力が促進して腺腫を形成することを見つけている。
以上、高脂肪食投与により、1)PPAEδを介して幹細胞のWntシグナルが上昇し自己再生能が促進される、2)PPARδにより誘導されるNOTCHリガンドによりパネット細胞の分化が抑えられる、3)幹細胞から少し分化した前駆細胞でも増殖促進が誘導され、Apc遺伝子欠損が重なると腺腫を形成する、と結論している。 論文としては雑然としすぎている印象で、明確でない点も多く、レフェリーも甘いなという印象だが、高脂肪食が直接幹細胞に働く可能性が示されたのは評価していいだろう。
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