今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は遺伝子検査によるリスク判定では生活改善を促すほどのインパクトにならないことを示す調査研究で、英国医学雑誌に掲載された。タイトルは「The impact of communicating genetic risk of disease on risk reducing health behaviour: systematic view with metananalysis (遺伝子検査によるリスクを教えることがリスクを減らすための生活改善に与える影響:メタ解析を用いた総合的再調査)」だ。
研究ではこれまで遺伝子リスクを伝えることが生活改善努力につながったかどうかを調べた18編の論文を選び出し、ここで記載されたデータを詳しく調べなおしている。この中には、遺伝子リスクと禁煙行動を調べた我が国の研究も含まれている。この18の論文を見てみると、ほとんどは特定の病気に関する遺伝子リスクで、一般に行われている様々な疾患リスクを同時に予測するDTCサービスではない。例えば我が国の研究では、L-mycという直接肺ガンに関する遺伝子の多型を調べ、そのリスクが禁煙につながるかの調査を行っている。それぞれの論文で対象にしている疾患は異なっており、調べられた行動変化も、1)禁煙、2)アルツハイマー病のリスクに基づくビタミン剤の服薬、3)アルコール摂取、4)紫外線防御行動、5)ダイエット、6)運動、7)サポートプログラムへの参加、と多岐にわたっている。
結論は簡単で、すべての項目で、遺伝子検査だけでは人は動かないことを示した残念な結果だ。一方、ApoEが上昇していることを具体的に示された患者さんは、かなりの人が健康薬を常用するようになり、健康に気をつけるようになるようだ。
この結果の背景にある人間の心理については今後よく検討することが必要だろう。DTCは現在2−3万円前後で販売されているが、提供企業にすれば受けてくれた顧客と長い付き合いをして、様々な有料サービスを受けてもらって初めて投資に見合うだけの利益が上がるようになっていると思う。ところが、多くの人が遺伝子検査の結果にほとんど影響されないとすると、このビジネスモデルは成り立たなくなる。また、全ゲノム検査が安価に提供される日が1日1日と迫っている。最初に設定したものとは異なる新しい出口を示す必要が出てくるだろう。
私は全ゲノム解読が現在の価格の半分になれば、ぜひ多くの人が検査を受けて欲しいと思っている。この時、リスク判定など役にたつという考えで検査を受けてもらうようでは、普及しないだろう。ゲノム解読を21世紀を象徴する文化として推進する新しいアイデアが必要だ。
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