これまでES細胞から始原生殖細胞を誘導する研究は、京大の斎藤さんと、ケンブリッジのスラーニさんの独壇場だった。極めて論理的なアプローチで精巣へ移植可能な精原細胞を誘導し、マウス精子環境を使って受精可能な精子の作成に成功している。しかし、完全に試験管内で減数分裂を終えた受精可能な精子細胞を誘導することには、たまたま起こったという報告は別として、まだ成功していなかった。
この論文でZhouらは斎藤さんたちの方法でES細胞から始原生殖細胞様細胞を誘導した後、次に精子形成がおこらないc-Kitの機能異常マウスの精子の細胞を分化支持細胞として混合し、これにレチノイン酸、BMP2/4/7、そしてアクチビンと、加えすぎではないかと心配するほどの増殖因子を加えて6日間培養すると減数分裂が始まることを示している。最後に、こうして引き金を引いた減数分裂を完遂する目的で、レチノイン酸、BMP2/4/7,アクチビンを取り除き、代わりにFSH、テストステロン、下垂体抽出物を加えてさらに8日間培養すると、15−20%程度の細胞がついに半数体になり、成熟精子マーカー、DNAメチル化の状態や染色体の形状など様々な指標を用いて減数分裂が完遂したことを、様々な指標で見て減数分裂を最後まで進めることができたことを確認している。
しかしどんなに細胞学的に精子に近くとも、受精可能でなければ機能的精子とは呼べない。また残念ながら試験管内でできる半数体の細胞には尻尾もなく、形態的には成熟できていない。そこで、細胞を顕微鏡下で卵子に注入して受精後の反応が起こるのか、そして実際に子供が生まれるのかを調べている。分化マーカーを用いて1倍体の細胞を集め、これを顕微授精させると、正常の精子を用いた顕微授精と比べると成功率は半分以下に落ちるが、数%の確率で子供が生まれてくることを示している。マウスではついにES細胞から受精可能な精子までの過程を試験管内で再現したという結果だ。
斎藤さんたちがES細胞から始原生殖細胞を誘導できたと報告した時、文科省の生命倫理安全部会でヒトES細胞での研究をどこまで許可していいのか集中的議論を行った。その時、まずマウスES細胞から受精可能な精子が試験管内で誘導できるまで最終的結論は急ぐ必要がないとしたのを覚えているが、ついにその時が来たと思う。
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