今日紹介する論文は山中4因子の一つ、マウスES細胞や生殖細胞の多能性に関わる遺伝子Oct4の発現が体幹の体節の数の調節に関わり、ヘビも同じメカニズムを用いて特異な形態を実現していることを示す研究で8月8日号のDevelopmental Cell に掲載されている。
このグループは増殖分化因子Gdf11を研究する中で、この分子が欠損したマウスは体幹(胸部と腰部)の体節数が上昇することを発見していた。この形質が発生するメカニズムを調べる中で、Gdf11欠損マウスでは、マウスの多能性を決めているOct4の発現が体の後部で維持されていることに気づく。
このエピブラスト由来のOct4陽性細胞が消えずの残ることが体幹部の体節を増やしているのではと着想し、Oct4の発現がエピブラストの分化で低下しないようにしたマウスを作ったところ、Gdf11欠損マウスと同じように体幹部の体節数が増えることがわかった。
もちろんOct4発現が抑制されないと、様々な発生異常が起こる。この研究でも、体節数だけでなく他の異常が誘導されることも示している。間違うと遺伝子を異常発現させたお遊びになってしまうが、これを避けるため、体幹の体節数の多いヘビを調べ、実際ヘビではOct4の発現抑制のタイミングが遅れていることを見出している。すなわち、同じメカニズムを自然の状態で使っている動物が確かにいることを明らかにした。
この結果から、Oct4の発現抑制のタイミングを変化させることで、特異的な形態を進化の過程で容易に実現できることになる。これを確認するために、Oct4の発現を調節している遺伝子領域を、マウス、ヘビ、そして尻尾の長いトカゲで比較し、Oct4遺伝子上流がトカゲ、ヘビではマウスと全く異なる構造をとっていることを明らかにしている。また、ヘビとトカゲでも遺伝子発現調節領域は大きく変化しており、Oct4発現タイミングの変化が進化で起こっていることを示唆している。
一方Gdf11遺伝子の調節領域では、これほど大きな差をマウスとヘビやトカゲの間に見ることができないので、おそらくヘビやトカゲの体節数増加に関わったのは、Oct4上流の遺伝子発現調節領域の変化ではないかと結論している。
最後にOct4遺伝子抑制のタイミングを遅らせている調節領域部分を、トランスジェニックマウスを作成して調べているが、残念ながら特定には至っていない。
これまでヘビの特異なボディープランについて説明した論文を何編か読んでいるが、この論文は私には説得力があった。
私たち哺乳動物のOct4の機能は多能性維持分子として位置付けられるが、卵生のヘビやトカゲでも同じかどうかわからないはずだ。だとすると、もともとはOct4は後部のホメオボックス発現を調節するために存在して、尻尾や胴の長さを決める役割を持っていたのではないかとすら思えてくる。面白い論文だった。
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