今日紹介するジョンホプキンス医科大学からの論文は医師にとってfavorite patientとはどんな人たちかについて25人の開業医さんにインタビューした論文でPatient Education and Counselingオンライン版に掲載されている。タイトルは「A qualitative exploration of favorite patients in primary care(一般臨床でやる気にさせる患者さんについての定性的研究)」だ。
Favorite patientをどう訳すかはなかなか難しい。論文を読んでみると単純な好き嫌いではなく、えこひいきに近い。そこで、やる気にさせると訳しておいた。
まず「患者教育と相談」という雑誌が存在するのには驚いたが、患者さんとの関係が医師の仕事の重要な部分であることを認識し、この問題をカバーする論文を集めることは重要だと納得する。
調査内容が内容だけに、統計結果などは一切示されず、インタビューで得た医師の生の声から著者らが考えた結論が淡々と書いてある。したがって、明確な結論があるわけでもないので内容をまとめることは難しく、詳細については読んでもらうしかないが、そこをあえてまとめると次のようになるだろう。
1) まずインタビューの対象になった医師は、大病院と契約している開業医さん25人で、ゆっくり時間をかけて本音を聞き出している。
2) 何をfavoriteと考えるかは医師によって違う。最初はほとんどが患者さんをほぼ平等に扱っていることを強調するが、話しているうちに確かにやる気の出る患者さんとそうでない患者さんがいることを認める。
3) やる気にさせる患者さんを表現するキーワードとして、「何かピンとくるものがある」「楽しい」「賢い」「愛らしい」「記憶に残る」などが挙げられる。(これは私も納得する。)
4) とは言え、一番やる気になるのは、病気のため長年の付き合いが確立している患者さんで、たまに風邪でやってくるような健康な人たちはあまりやる気にならない。(私も若いときは、難しい病気の患者さんほどやる気になった)
5) 一方、やる気にならないというか、苦手な患者さんは、医者の限界を理解せずに、要求の多い患者さんということになる。
6) 医師の方でもやる気になる患者さんにはやはり時間をかけおり、また亡くなると喪失感が大きい。(私も納得だ。)
ということができる。
これを簡単にまとめると、慢性的病気を持っていて、医師と長く付き合っており、性格的には医師としっくりくるような患者さんが、やる気にさせる患者さん像になる。また、医師も人間なので、どうしても選り好みがあることも結論といえるだろう。
最後に、医師は、「多くの患者さんが医師に好かれようと努力をしていること、しかし自分がどうしても患者さんの選り好みをしてしまう」という自覚を持つことが重要だとアドバイスをしている。
一方患者さんに対しては、「医師と患者の関係は相互的で、患者さんの側からもうまく働きかけることで関係を良好に保つことの重要性」をアドバイスしている。
このようにあえて結論をまとめてみたが、はっきり言って明確な回答が示された論文ではない。ただ、多くの生の声が記載されているので、医学部や看護学の学生さんに読んでもらって、討論させるためのいい材料になるかなと思った。
我が国では、今でも医師に対する個人的謝礼を送る悪弊が残っており、私も医師を紹介した友人から「いくらぐらい包めばいいのか」などと質問を受けて暗い気持ちになる。このような悪弊を一掃する意味でも、医師をやる気にさせる患者さんについてもっと深掘りすることは重要だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ