私自身は、1)言語能力が人格とは無関係に形成されること、2)発症に関わるいゲノム領域が特定されていること、3)さらに同じ領域の重複で今度は自閉症が発症すること、などから、言語を理解するために最も重要な病気の一つだと思っている。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文はこのウイリアムズ症候群の神経細胞機能異常を試験官ないで再現しようとした試みでNatureオンライン版に8月10日掲載された。タイトルは「A human neurodevelopmental model for Williams syndrome (ウイリアムズ症候群の発生モデル)」だ。
この研究では典型的なウイリアムズ症候群(WS)と、遺伝子欠損部の小さい、症状が軽い非典型WSからiPSを作成、神経を分化させた後明らかに遺伝子発現が低下している分子を探索し、神経細胞の増殖に関わるWntの受容体FZD9の発現がWSだけで低下していることを発見する。FZD9はWSで欠損する領域に含まれており、非典型WSでは欠損していないので、この結果は妥当だが、実際に神経細胞で発現が落ちているのはFDZ9だけでなく、もともと重要だと考えられている転写因子GTF2iも同じように低下しているので、研究しやすいFZD9から取り組んだと考えるほうがよさそうだ。
ただ試験管内で誘導した正常神経幹細胞のFDZ9発現をshRNAで低下させる実験から、WSの神経細胞異常がFDZ9の異常かどうか特定できる。この結果、WS神経細胞で見られる細胞死の亢進はFDZ9によるもので、Wntを刺戟する化合物で元に戻せることを明らかにしている。また、MRIによる解析からWSの脳の皮質面積が低下していることを示し、この異状はFDZ9の発現異常によるのではと提案している。
残りの実験は、WSと健常者の神経細胞の比較で、WSでは樹状突起が長くなり、スパインと呼ばれる神経接合が増えることをiPS由来神経細胞で確認できること、また同じ異常をWSの死後解剖脳の組織から確認できることを示しているが、これらの異常がFDZ9異常によるかどうかは全くわからない。
まとめると、「WS症候群からiPSを樹立して研究することで、神経細胞レベルの様々な異常を再現できる。またWS患者の皮質の細胞数減少はFDZ9発現低下による細胞死の更新が原因かもしれない、」になるだろう。
私は個人的にWSに強い興味を持っているため、一貫性がない研究に思えてしまうが、分子だけでなく細胞レベルで異常を調べることが重要なことは間違いない。WSで変化する遺伝子はあと20個は残っているようだ。注目されているGTF2iも含めて一個一個の遺伝子の細胞学的機能を明らかにしてほしい。
カテゴリ:論文ウォッチ