今日紹介するハワイ大学からの論文は同じ問題をニコチンに対する感受性ではなく、ニコチンの代謝に関わる遺伝子に焦点を当てて調べた研究でCancer Research オンライン版に掲載された。タイトルは「Novel association of genetic markers affecting CYP2A6 activity and lung cancer risk (CYP2A6の活性に影響する遺伝マーカーと肺がんリスクの新しい関連の発見)」だ。
この研究の目的は、ニコチンの70%の代謝に関わる分子CYP2A6の活性に関わる遺伝子変異と肺がんの発生リスクの相関を調べることだ。
幸いハワイは、ハワイ原住民、白人、ラテン系、日系と様々な民族が混在しているため、民族とCYP2A6活性についての研究もできる。この点でまず面白いのは、ハワイに暮らす民族の中では日系人がニコチン代謝活性が最も低いことだ。すなわち、日系は少ないニコチンで満足できることになる。
次にCYP2A6活性と相関する遺伝子を調べると248SNPが発見されるが、3つを除いてCYP2A6遺伝子の近くには存在しない。すなわち、CYP2A6が極めて複雑な発現調節を受けていることがわかる。この中で最も強い相関を示したSNPは日系での活性の3%,ラテン系の28%を説明できる。是非遺伝子検査サービスに加えて欲しい。
次にリストしたSNPと肺がんのリスクを調べると、CYP2A6活性を上昇させるSNPは肺がんのリスクも高まることがわかった。肺がんのリスクと最も相関するSNPはCYP2A6活性と最も相関するSNPとは違うが、概ねCYP2A6活性と肺がんリスクは強く相関していることが明らかになっている。
重要なのは、CYP2A6活性と相関するSNPを持っていてもタバコを吸わない場合、肺がんリスクが全く変化しないことで、愛煙家だけにCYP2A6活性が効果を持つことがわかる。
以上の結果をこれまでの研究と合わせると、ニコチンに対する感受性と、ニコチン代謝に関わるSNPは、タバコの本数に影響を与え、結果として肺がんリスクを高めることがわかる。CYP2A6活性が高い人が肺がんリスクが高いということは、ニコチンが代謝が早いと喫煙効果が早くなくなるため、より多くのタバコを吸うことを意味する。要するに、愛煙家に生まれついた人がいるが、タバコに最初から近づかなければ、愛煙家になる運命は避けられるということだ。
是非、このSNPを遺伝子検査サービスに加えて欲しいと思う。これは間違いなく遺伝子検査により生活習慣を変えるという図式を理解してもらうためのいい例になる。
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