今日紹介するStowers研究所からの論文はこの課題に挑戦し成功した力作で、6月14日号のCellに掲載された。タイトルは「Prospectively isolated tetraspanin+ neoblasts are adult pluripotent stem cells underlying planaria regeneration(前もって分離されたテトラスパニン陽性のネオブラストはプラナリアの再生を支える多能性細胞)」だ。
著者らはすでに放射線照射したプラナリアを単一細胞で再構成する実験系を構築しており、約6%の細胞が再構成能力を持つことを示していた。この研究では、この確率を100%上げることが目的だ。そのために、単一細胞の遺伝子発現解析をはじめとする最新のテクノロジーを惜しみなく使っている。全部を紹介するのは大変なので、かいつまんで説明する。
まずネオブラストのマーカーとして使われているPiwi-1の発現を指標に、5月10日に紹介した現在発生学を変えつつあるテクノロジー単一細胞レベルの遺伝子発現解読法(http://aasj.jp/news/watch/8430)を用いて、この集団を数多くの分画に分けることができ、その中でもNb2分画がもっとも未熟な幹細胞としての条件を備えていることを明らかにしている。そして、このNb2がtetraspanin-1と呼ばれる膜タンパク質を発現していることをついに突き止める。 プラナリアでこのtetraspanin-1はプラナリアが障害を受けた時、幹細胞がその場所に移動する過程に関わることを明らかにし、幹細胞の機能にとって必須の分子であることを確認している。その上で、tetraspanin-1に対するポリクローナル抗体を作成し、この抗体で濃縮すると、単一細胞移植による放射線照射プラナリアのレスキュー効率が、23%まで濃縮できる事を示している。最後に、放射線照射プラナリアへの移植実験、再生実験などから、多能性幹細胞が、環境のシグナルに応じて、様ざまな系列へ分化誘導されることを示している。 以上のことから、これまでネオブラストとして特定されていた細胞の多くは、一部特定の系列へのコミットメントが進んだ細胞で、tetraspanin-1陽性細胞だけがもっとも未熟で、多能性を持ち、自己再生を維持している幹細胞であることを示している。この研究からだけで、幹細胞を100%にまで濃縮できたとは言えないが、23%はかなり高い濃縮に成功したと言って良いだろう。また、血液学のようにいくつかのマーカーを開発すれば、100%も可能だろう。これまでもプラナリア研究を見てきたが、ついに幹細胞からの段階的分化の道筋については、かなり信頼の置けるモデルが完成し、プラナリア再生研究が新しい段階に到達したと言える。このように、プラナリアのゲノムが明らかになり、多能性幹細胞の分離が可能になった今、残されたチャレンジは、プラナリア多能性幹細胞の培養ではないだろうか。是非若い研究者により、このハードルがクリアされる事を祈っている。
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