今日紹介する英国グラスゴー大学からの論文はRASとEGF受容体ファミリー分子との相互作用を追求した研究で6月20日号のScience Translational Medicine に掲載された。タイトルは「The ERBB network facilitates KRAS-driven lung tumorigenesis (EGFRファミリー分子ERBBネットワークがKRASによる肺がん形成を促進する)」だ。
まずこの研究では変異KRASとMycを発現させて誘導する肺ガンの組織でErbb2とErbb3とそれに結合する増殖因子の発現が著明に上昇していることに気づく。そこで、ERBBファミリー分子に広く効果があるneratinibで処理すると増殖を強く抑制できることがわかった。すなわち、変異型KRASと Mycの組み合わせでもERBBシグナルが必要であることがわかった。そして、ガンを継時的にサンプリングし、細胞質内のシグナルを調べると、増殖因子シグナルの基本中の基本、ERKが強く活性化されていることが明らかになった。以上のことから、KRASとERBBが協調して肺ガンの増殖を支えており、ERBBは肺ガンの進行とともに発現が上昇し、この活性によりERKシグナルが活性化することを明らかにしている。
つぎに同じことが人間でも起こっているのかを確かめるため、RAS変異が確認された人の肺ガンにneratinibを添加してERBBを阻害すると完全ではないがガンの増殖を抑制できる。
以上の結果は、ERBBがKRASの機能を高め、最終的にERKの活性を高めて細胞の増殖を維持していることを強く示唆している。そこで最後に、発ガンしたモデルマウスを1週間だけ様々な阻害剤で処理する実験を行い、neratinib と同時に下流シグナルの MEK阻害剤を組み合わせると、最も効率よくガンの進行を遅らせることができることを明らかにしている。要するに、両方のシグナルに依存しているポピュレーションが増殖していく。
話はこれだけで、阻害剤を組み合わせればいいというだけの結果に見えるが、同じシグナル経路に集約されるように見えても、ERBBが加わることでメインの経路の活性を高めることができること、そしてMEK阻害剤とERBB阻害剤も協力してより強くガンを抑えることができることを示せたのは、臨床的にも重要だと思う。これまで当たり前と思っていたことを再検査して、新しい治療戦略を提案しており、人でも治験を進めてほしいと思う。免疫療法は根治に最も近いが、効果がない人の方が多い。まだまだ分子標的薬も捨てたものではない。
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