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7月2日:試験管内iPS細胞分化の多様性の遺伝的背景(6月28日Science掲載論文)

2019年7月2日
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少しでも正常細胞を試験館内で分化させたり増殖させたりする経験がある人なら、培養結果が一定するようになるまで繰り返さなければならない試行錯誤の苦労を経験しているはずだ。このためか、自分で追試ができないと、「間違っている」と一言で済ませてしまう人も多い。しかし、一度この苦労を味わうと、追試ができないのは自分が何か間違ったことをしているのではと考えてしまう方が多い。

この培養が安定しないという問題は、血清を用いない完全defined培地を用いることで解決されるが、人間の細胞の場合それでも「遺伝的背景」と片付けてしまっていた多様性が残る。今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文はこの培養結果の多様性を生む遺伝的背景を、ゲノムと形質を対応させるeQTLと呼ばれる方法を用いてマッピングしようとした研究で6月28日号のScienceに掲載された。タイトルは「Dynamic genetic regulation of gene expression during cellular differentiation(細胞分化時の遺伝子発現調節のダイナミックな遺伝的調節)」だ。

研究では19人の正常人から樹立したiPSを試験管内で、比較的分化させやすい心筋細胞へと分化させる系を使って、分化の各時期に遺伝子発現を調べ、分化の動態の多様性と相関するゲノムの多様性を特定しようとしている。書いてしまうと簡単だが、実際にはゲノムの違いを反映している培養結果の多様性を抽出することが必要で、簡単ではない。

実際、培養期間を通じ、各iPS株の心筋細胞分化の動態はかなり変化する。このようなこれまで培養には避けられない多様性として片付けられてきた変化を、遺伝子発現全体から見直してみると、2つの異なる遺伝子発現パターンに分かれることがわかる。

次に、培養を16のステージに分け、発現している各遺伝子の量とゲノム変異の相関を調べ、それぞれのステージで100近くの遺伝子でeQTL、すなわち遺伝子発現に関わるゲノム多型が検出でき、それぞれは発生段階での遺伝子調節の違いを反映していることが数理的に確認できる。

この解析から、各ステージごとのeQTLだけではなく、分化全過程にわたって調べることの重要性が示唆され、550のeQTLの動的変化を算出し、eQTL、すなわち遺伝子発現に関わるゲノム多型が関わる分化時期について、初期、中期、後期にわけて調べると、最初はiPS自体のクロマチン構造と関わる領域がリストされる一方、後期では心筋細胞自体のクロマチン構造に関わる領域がリストされる。

この解析から得られるいくつかのeQTLの例が示されているが、ほとんどはこれまでの研究で予想できるものだ。しかし、中期の分化との相関が特定されるeQTLの中には、心臓発生過程には全く発現がない、これまで軟骨発生と関わることがわかっているZNF606分子の発現と相関する多型(rs8107849)や、やはり心臓発生とは関係のない肥満と関係するC15orf39遺伝子の調節に関わる多型が発見されている。おそらく、これらの遺伝子多型は、新しい心臓発生に関わる遺伝子を特定するのに役立つ可能性がある。

結果は以上で、最後に示した思いがけない相関を除くと、何か大きな発見があったという論文ではない。しかし、これまで特定の時期、細胞、形質との関わりで研究されてきたeQTLを、細胞分化過程という時間経過の中でとらえることの重要性を示した研究といえるだろう。現役時代細胞の分化培養を重要な手法として利用していた経験から考えると、人間のように遺伝的背景が多様な集団の培養にとって、今後真剣に取り組むべき重要な領域ではないかと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月1日:ガン局所に停留するIL-2/IL-12の絶大な効果(6月26日Science Translational Medicine掲載論文)

2019年7月1日
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これまでもガン局所にIL-2やインターフェロンを注射することで、ガン局所での免疫反応を高める可能性が示されてきた。特にPD-1のようなチェックポイント治療が可能になってから、この可能性を追求する研究が多く見られる。ただ、いくらガンの局所に注射したと言っても、サイトカインはすぐ循環により除去される。

今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は、サイトカインをガン局所に注射した時、ガン組織内に維持され、循環により除去されない形態のサイトカインを開発し、その効果を動物で調べた論文で6月26日発行のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Anchoring of intratumorally administered cytokines to collagen safely potentiates systemic cancer immunotherapy(ガンの中のコラーゲンに結合するサイトカインは全身の免疫治療の効果を高める)」だ。

この研究のハイライトは、サイトカインがガン組織に長期間保持させるためには、コラーゲンIとIVに結合するLumican遺伝子にサイトカイン遺伝子を融合させるのが良いことを発見したことだろう。最初、蛍光ラベルしたアルブミンとの融合タンパク質を腫瘍内に投与して腫瘍組織からの消失を調べると、Lumicanとの融合タンパクは、アルブミンだけを注射した場合と比べ、はるかに長く腫瘍にとどまることを確認している。

腫瘍内に保持させるという目的が達成できると、あとはガン免疫を高めることができるかどうか確かめるだけになる。まず、メラノーマに発現しているTA99抗原に対する抗体治療と組み合わせる実験を行い、抗体だけではほとんど効果がないが、Lumican-IL2を組み合わせると、ほとんどのマウスの腫瘍を抑制できることを明らかにしている。また、この反応に関わる細胞やサイトカインについて阻害抗体を同時投与して調べ、最終的にCD8T細胞が誘導されることが最も重要な要因であることを確認している。さらに、Lumican-IL2の効果は、注射した腫瘍だけでなく、身体の他の場所に移植した腫瘍も同時に消失させることを示しており、効果は全身に及ぶ。

次は、Tヘルパー細胞を誘導するカギになるIL-12を同じようにLumicanと融合させたキメラサイトカインを合成している。IL-12は2種類のタンパク質からできているので、これを一本のアミノ酸として発現させるよう設計している。IL-12の有効性は期待されていたものの、全身的にサイトカインが誘導され極めて副作用が強い。しかし、腫瘍局所に投与することで、この副作用が強く抑えられることを示している。

あとはCAR-TやPD-1阻害と様々な条件で組み合わせる実験を行い、

  • メラノーマのような固形ガンでも、CAR-Tと組み合わせて完治が可能。
  • 乳ガン手術前のネオアジュバント療法としてもガンの再発を完全に抑制できる。
  • 抗原性の低いメラノーマモデルを用いているが、抗PD-1抗体の全身投与とLumican-IL2およびLumican-IL12を組み合わせると、腫瘍を消失させられる。
  • 癌遺伝子の強発現を誘導するメラノーマでも同じように効果があり、Lumican-IL12, Lumican-IL2, TA99、そしてPD-1抗体を組み合わせると、完璧に腫瘍を抑えられる。

以上が結果で、なぜこれまでこのような研究が行われなかったのか不思議なぐらいの結果だ。個人的な勘に過ぎないが、結構有望な治療になる可能性は高いと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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