1月2日 1型糖尿病の抗TNF抗体治療の可能性(11月19日号 New England Journal of Medicine 掲載論文)
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1月2日 1型糖尿病の抗TNF抗体治療の可能性(11月19日号 New England Journal of Medicine 掲載論文)

2021年1月2日
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お正月のお年玉になる様な研究はないかと論文のアブストラクトを見ているうち、紹介し忘れていたが、お年玉としてはうってつけの論文を見つけた。すでに臨床で使われている抗TNF抗体が、初期の1型糖尿病患者さんの病気の進行を遅らせるという論文だ。

1型糖尿病の患者さんの団体日本IDDMネットワークとはもう20年近くのお付き合いだが、この間安心して誰でも利用できる治療法の開発は、残念ながらないと言っていい。私はこの様な治療法の開発に直接携われることはないので、世界各地で行われている研究の中から期待できる新しい治療法の報告をいち早く探し当てて紹介したいと思っているが、この論文は発症初期の患者さんに限るがかなり期待できるのではという感触を持った。少し紹介が遅れたが、素晴らしいお年玉であって欲しいという願いを込めて正月第二弾はこの論文に する。

Jacobs School of Medicineの小児科から11月19日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された論文で、「Golimumab and Beta-Cell Function in Youth with New-Onset Type 1 Diabetes (新しく発症した1型糖尿病の若者に対するGolimumab治療とべーた細胞機能)」だ。

この研究の対象は6ー21歳の1型糖尿病患者さんで、診断が確定してから100日以内で、食事プログラムに反応してインシュリンの元になるC-ペプチドのレベルが0.2ピコモルはあることを条件としている。1型糖尿病は進行性の自己免疫病と言えるが、まだインシュリンを作る膵臓のβ細胞が残っている患者さんを対象にしている。

次に、Golimumabは日本ではシンポニーという名前でJansenや三菱田辺から発売されている抗TNFα抗体薬で、間接リュウマチや潰瘍性大腸炎の治療に用いられている。その特徴の一つはオートインジェクターで皮下注射が可能で、患者さん自身で薬剤を注射できる様になっており、インシュリン皮下注射を日常行なっている1型糖尿病患者さんには使いやすいと思う。

治験では無作為に選ばれた56人が抗体投与群、その半分の26人が偽薬注射群になっており、少し多めの導入量投与後、2週間に一回の注射を52週間続けるプロトコルが用いられている。

臨床的結果や方法の詳細については割愛して、簡単にまとめると次の様になる。

  • この研究は、様々な組み合わせの食事を取らせた後でCーペプチドを測定するテストが、ベータ細胞の機能を最も反映するとして、プライマリーアウトカムとして選んでいる。結果は素晴らしく、ほぼ1年経っても機能低下率が平均で12%にとどまっている。一方偽薬群では、54%の低下率で、ベータ細胞の喪失が進行していることがわかる。
  • β細胞の喪失が防がれていることを反映し、患者さんのインシュリン使用量も治療開始時とほとんど変わらない。また、食事に対するCペプチド反応がほとんど変化しない一種の部分寛解も4割の患者さんでみられる。
  • A1cHbについてはあまり大きな改善はないが、感染などの副作用はほとんどない。

私も専門家というわけではないが、一定の医学知識があれば、かなり期待できると思える素晴らしい結果だ。特に、既に我が国でも認可された薬剤で、しかも自分で皮下注射できるタイプの薬剤の効果が確かめられたことは大きい。

この方法が定着すれば、患者さんの早期発見が医師にとって最も重要な課題になる。どうこれを実現するか、今後の結果を見ながら、探っていく必要があると思う。

しかし、抗TNF抗体は自己免疫病治療として最も最初に実現した抗体薬だ。今回の結果を見ると、どうしてこの様な治験が今まで行われなかったかの方が不思議だ。一つの理由は、一般的に用いられている1型糖尿病モデルマウスでこの抗体が全く効果がなかったことが挙げられる。とすると、前臨床にこだわることなく、原理的に可能性があり、すでに安全性が確認された薬剤については、患者さんに試してみるという選択肢もあると思う。

いずれにせよ、思いがけないお年玉になりそうな論文だった。

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